間接キス
モンキーホーテは、一言で『王の財宝』だった。なんでもある。本当になんでも。あまりに多種多様の千差万別――品揃えが豊富だから、一時間も滞在してしまった。
「楽しかったね、くっしー」
「あぁ、うん。こんな見応えのあるお店だと思わなかったよ。認識を改める必要があるようだな」
「でしょでしょ♪」
俺は日用品のウェットティッシュやカップ麺など食料品を少々購入。清瑞の方は鞄いっぱいに詰め込んでいた。どんだけ買うんだか。
見たところ、シャツやジャージ、化粧品など雑貨類……それと紅茶を大量に買っていた。
「それにしても、凄い量だな。清瑞さんっていつもこんなに買うの?」
「今日はたまたま。ついでだったし」
にっと白い歯を見せて笑う清瑞。てか、よくまあ金があるな。なんかバイトとかしてるのかな。いや、EOをガチプレイしているくらいだし、そんな時間もなさそうに思えるけど。なにか収入源はあるのかも。
「ところでその紅茶は?」
「これね、あたしの気に入りで『ヌワラエリヤ』っていうの」
「ヌワラエリヤ? 聞いた事ないな」
「うん、スリランカの紅茶だもん。でもね、芳醇でとても味わい深いんだよ~。なんか貴族っぽい雰囲気。普通の紅茶とはちょっと違うんだ」
「へぇ、そう聞くとなんだか飲んでみたくなるな」
「今度、淹れてあげるね。今はこれで我慢して」
――と、清瑞はいつの間にか自販機で缶コーヒーを購入していた。これってダイトーの『Wコーヒー』だ。甘くて、口当たりが良くて美味いんだよなあ。
って、これ清瑞の飲みかけ……。
さっき口を付けていたのをハッキリと見た。手渡され、残りの感じからしても確定だ。それを俺にくれるのか。
「いいの?」
「今日、付き合ってくれたお礼」
うわぁ、清瑞……顔が赤いぞ。
そんな意識されると俺も照れるんだが。てか、こんな女子とモンキーホーテの前で何やってんだ俺。明らかに陽キャっぽいのがジロジロ見てくるし。……いや、俺というか清瑞をだな。
まあ分かるよ、清瑞ってギャルっぽくも清楚だし……細くてスタイルも抜群。それでいて花火のようにキラキラしているから、嫌でも目立つ。
ふと俺と清瑞が釣り合うのかと疑問が生じた。そうだよ、俺なんかがどうして清瑞とリア充みたいなデートっぽい事をしているんだよ。きっと笑われている。馬鹿にされている。
「……すまない、清瑞さん」
「はい、あ~ん」
「え!?」
清瑞は、半ば無理矢理に缶コーヒーを俺の口元につけた。…………あ。あぁぁッ!! 清瑞と間接キスしちゃった……。
てか、あ~んって……。
……あぁ、なんだか悩んでいたのが馬鹿らしくなってきた。俺は、清瑞には勝てないな。