力を持つ者
名前も知らない国にいき、勇者召喚の儀式の後始末をして、俺たちは王都を後にした。
もちろん、勇者召喚の儀式が書かれている原本と複製本は、俺の前で焼却処分した。
あの地下道へ、王女を連れて魔法陣は使えないので、転移して中に入って、王女を一緒に転移したセラフィーナとシャーロットに任せて俺だけが本を取りに行った。
本は破損はあったが、残っていたので、その本を持って、地上に転移した。
そして俺がもっている複製本と合わせて、焼いて消滅を確認した。
王様が急にいなくなった国は、誰が、王になるのか?
俺には、そんなことは関係ない。
俺が口出しする必要もないことだ。
俺はシャーロットとセラフィーナを引き連れ、みんなの転移して行った先に、急ぐ。
転移して現れた場所は、全員が魔物と戦っている戦場と化していた。
あちらこちらで、魔法を発動している女性たち。
多数、魔物が沸いて出ているので、大規模魔法を発動しようと考えるが、大規模魔法は土地を破壊するから控える。
しかし、それじゃ消耗戦になってしまう。
そこで俺は思いついた。
今度は雷いかずちの魔法を使う
念話『みんな、この多さじゃ消耗戦になるから、ちょっと俺の横に集合』
すぐに全員が俺の横に姿を現す。
全員が揃ったことを確認して現場をみると、急に攻撃がやんだので魔物たちは拍子抜けしている。
すぐに魔物たちは、動き始める。
「クリス、どうするの?」とアリシアが聞いてくる。
「うん、大規模魔法を使いたいけど、あれは、この辺を荒れ地にしてしまうからね、それよりも、もっと攻撃を局所的にやった方が良いと思うから」
「つまり、範囲を絞ると言うこと?」とソフィアが聞いてくる。
「うん、そうだよ」と術を発動する準備に入る。
そして俺が術を発動していくと今まで晴れていた空が、一気に曇りだして暗くなる。
渦を巻くように雲が集まりだして、時々、雲が光る。
俺はどれくらいの数の魔物をターゲットにできるか、わからないが、あちらこちらじゃなく、範囲を決めていく、そして上空の雲から雨が降り注ぐ。
ターゲットを決めるのに数秒の時間を要したが、その間に魔物たちはびしょぬれになる。
「みんな飛行魔法で地面から離れて」と俺が言うと、全員が、1メートルくらい滞空した。
それを確認して俺は、「いかずち」と言う言葉を唱える。
上空から、すごい音が響き、一気に何本もの雷が滑空する。
バリバリ………ズゥシン バリバリ………ズシンッ………
地面が揺れる。
見ていると、不思議な幻想的な光景だけど、それを浴びている魔物たちには、たまったもんじゃない。
こちらに落ちないとわかっていても、危険を感じる。
みんなも何も言わない………誰、一人喋ることなく、この光景を胸に刻んでいる。
綺麗な光景と言うよりも、焼けこげる悪臭がひどい。
雷を浴びた魔物は焼かれて跡形も残らない。
雨で通電性があがり、すべての魔物が焼かれていく。
もう動く魔物はいない。
嫌な悪臭が広がるので、風魔法を使って吹き飛ばす。
あたり一面に風が舞って匂いを分散していく。
この匂いは、周辺の国に行くだろう。
*
しかし、ここ最近、敵は大攻勢をかけてきている。
人工的に作った魔物もあれば、そうではないものは、どこから集めてくるのか?
この世界の魔物だけと言うことはないだろう。
ウルフたちの世界なのか?
そんなに大量に魔物がいる世界なのか?
なぜ、ウルフは異世界にいくことかを考えたのか?
何かを手に入れる為だろうと思うが、それが、これなのか?
異世界から俺たちの世界を滅ぼそうとすることなのか?
今でも遠くで地震が起きている………
地震が起きても、それに奴らが関与していなければ良いんだが
俺たちが処理した地震の余波なのか、あちらこちらで地震が勃発している。
俺は、ここがあらたか済んだので、地震によると思われる地割れの大きなところにいく事にした。
しかし、あとの処理もあるので、メンバー全員で残って、あと処理を頼んだ。
そして、俺は地割れのひどいところにいくために転移した。
転移して上空に現れたが、そこで滞空しながら、下を見下ろす。
多くの人が下で集まって地割れをのぞき込んでいる。
さらに遠くから、集まってきている。
ワイワイ、ガヤガヤ、騒がしい。
馬に乗ってきている人もいるから、装備を見ても兵士か騎士あたりだろう。
おっと、さらに後方に馬の集団がいるぞ。
その中央には、馬の装飾も高そうなものをつけて、その上に乗る女性………金色こんじきに輝く神が見える。
ドレスではなく、乗馬に会う服を着ている、その周辺を騎士たちが守っている。
馬に乗った集団が、地割れの前で止まる。
全員が馬から降りて、数人が地割れへ歩いていく。
俺は、それを注視していた。
先ほどの、金髪が、数人を連れて地面から下をのぞき込む。
そこで聞こえることはないが、何か指さしたりして話している。
そこで、ふいに金髪の女性が、上を向いた。
俺は、不用意に姿を消すことなく、上空を滞空していた。
見られた瞬間、失敗したと思った。
怪しいものだと思われたかも知れない。
一瞬、転移で逃げようかと思っていたが、別に悪いことをしている訳ではい………
まぁ、地割れを俺のせいにすることはできるが。
迷っていた数秒の時間に、下から俺に向けての声がかけられる。
「あの………、そこの人」と大声で。
その声に気が付いて、全員が上空を見る。
「誰か、いるぞ」
「おい、あれは、誰だ?」
「飛んでいる?」
「人が飛んでいるぞ」
正確には飛んでいるんじゃなくて滞空だけど。
さらに女性は「あの、そこの人、下りてきてもらえないだろうか?」
俺は、しょうがなく今の高度から、ゆっくり下りていく事にした。
地面に降り立つと、俺の下りた周りから人がいなくなる。
俺が地面に足をつけると、さっき俺の話かけた金髪の女性が俺に向かって歩いてくる。
その時、騎士数人が前に出てきて、女性を止める。
「危険です」
「大丈夫ですよ」と女性
「しかし」
「こちらの方は、クリス様と言って、有名ですよ」
「いえ、私が知らない者を近づけることはできません」
「えっ、あなた、有名なこの方を知らないんですか?」
「………知りません」
「では、たぶん、奥様から本をお借りしたら良いと思います。奥様も、ファンだと思いますよ、この場で、もし奥様がいらっしゃったら、たぶん、ほとんどの女性は好きになるはずです」
「えっ? 妻が?」
「たぶん、王族の私よりも、こちらの方は有名です。全、女性の憧れですね」
俺は、なにも、言わずに黙って聞いていた。
女性が俺をじっと見ている。
そして、何を思ったのか、俺に対して膝を地面に着いた。
「勇者クリス様ですね」
その時、周りにいる人たちから、どよめきみたいな声がした。
「おい、勇者だってよ」
「あれかが? 若いな」
「キャー勇者さま~」
「………もう、立って下さい」と言うと立ち上がった。
さっきの騎士が、「えっ、この方が、ですか?」さすがに勇者がいるっていうには知っていたみたい。
「そうですよ、私は、すぐにわかりましたよ」
「………」
「申し遅れました、私、この国の第一王女のステラと申します、クリス様」と言って、俺に向かって頭を下げる。
仕方ないので俺は「オーリス王国のクリスです」と彼女に言った。
「間違いなくクリス様ですね」と言うと、俺の後ろをキョロキョロ見ている。
「あの、何をお探しですか?」
「クリス様、お一人ですか?」
「ええ、そうですが」
「あのアリシア様は?」
この女性は、俺じゃなくアリシアが目的なのか。
俺は、アリシアの ついで?
俺の様子を見て「あっ、申し訳ありません、もちろんクリス様のファンですよ」と慌てて付け加える




