救世主への道10
第550話 救世主への道10
魔族が持っていた奈落が気になったが、ウルフのあとを追ってメンバーの元に戻ってきた。
戻ってきた場所は、メンバーと離れた位置だ。
俺が戻ったことは戦闘中なので気が付かれていない。
全員の洋服が汚れているので、かなりひどい戦闘だったことがわかる。
今もジャネットとロゼッタとパトリシアが、ウルフに向けてファイヤーボールを放っているが、ほとんど効果がない。
う〜ん、俺の魔法を使って、しかも3人で攻撃しているのに、どう言うことだ?
こんなにウルフの奴が強くなっているのか?
俺はメンバーには疲労しないように指輪の魔法をかけてはいるが、そして人には結界魔法が発動されて守っているが、ウルフの奴に手こずっている。
なんだ? ウルフの奴が復活して、こんなに強くなっているなんて‥‥‥
メンバーの方とウルフをみているが、なんだかウルフがおかしいぞ‥‥‥
ん? なんだ? ウルフばかり目で追ってみる。
アリシア、コリン、ソフィア、イザベラの4人の魔法のアイススピア、ファイヤーボールが同時に当たって蒸気が上がる。
しかし、ウルフの奴は傷ひとつ負うこともなく戦う。
焼けた跡も残らずに‥‥‥
メンバーとウルフを比べてみると、なんだかウルフの方が歩いている時も、フワフワ浮いているような感じがする。
分身体か? いや、それにしては攻撃が単調じゃない。
分身体の場合は、どうしても単調になりやすい。
しかし、このウルフは違う、考えながら攻撃している。
「エマ、なんだかウルフが変に見えない‥‥‥」
「いいえ、私にはわかりません」
「じゃリアムは、どう?」
「私もわかりません、早く戦闘に参加しないんですか?」
「いや、ちょっと待って」
俺はあらゆる可能性を考える。
「あっ」俺は声を上げるほどだった。
俺はある案を思いついた。
それは俺が考えたが、本当なのか確かめる必要があることだ。
念話で『みんなウルフから離れて』と伝えた。
「えっ、クリス?」とアリシア
「どこにいるのよ」とイザベラ
俺がメンバーとウルフの間に転移する。
「やっとお出ましか?」
「ああ」
俺の体は、今、魔法が発動状態になっている。
多重に発動しているのは、結界魔法、基礎魔法、そして聖属性魔法の3つを同時に展開している。
特に聖属性魔法を全面に持っていって強力に発動する。
俺の思っていることが、当たりであればいいと思う。
聖属性魔法を強力に展開しながらウルフに近づいていく。
なぜかウルフが後退りをする。
俺は、聖属性魔法でさらにウルフに近づこうとする。
ウルフが、一歩、2歩と下がっていく。
やはりか‥‥‥
俺が、さらにウルフに近づいていくと、ウルフは喋りもせず、後ろに下がる。
どうしてか話すことをしないのか、それは、先ほどは魔族の奴が後ろで喋っていたからだ。
このウルフはしゃべることができない‥‥‥ということは、実態じゃなのか?
ウルフはしゃべることなく、後ろに下がりながら剣を振り回している。
「ウルフよ、もういいだろう?」と言って俺はウルフに一気に転移して近づき、ウルフに手を伸ばし聖属性魔法を注入した。
そうするとウルフが、俺の手から霧状になって消えていく。
それが全身に広がり、体も顔も‥‥消えて、最後は足だけが残っていたが、足も霧散した。
後には剣だけが落ちていた。
「‥‥‥」
メンバーのみんなが走って近寄ってくる。
「ク、クリス、どういうこと?」
「そうよ、教えなさいよ」
「まぁまぁ」とジャネットが宥めてくれる。
「‥‥‥」 俺は少しの間、沈黙を守った。
俺がウルフが消滅した場所からみんなの方を振り返った。
「みんな、今日は、ご苦労様」
「ちょっと、クリス、はっきり説明しなさいよ」
「たぶん、ウルフは死んだ」
「えっ、今、クリスが消滅させたでしょう」
「いや、たぶん、前に神によって殺された時だと思う」
「えっ、でも、今、目の前にいたのはウルフじゃないの」
「いや、俺もウルフだけど、カケラかな?」
「ウルフのカケラ‥‥‥」
「そう、そんなものかな?」
「もっとちゃんと説明してよ」とアリシアから
「さっきも言ったようにウルフは復活していなかったんだ‥‥‥」
「えっ、でも」
「ウルフの皮を被った奈落だよ、あれは‥‥‥」
「えっ、奈落って?」
エマが剣からネコに持って「え〜、みなさん、ここからは私が説明しましょう。
ご主人さまが、ここから転移した先には魔族が5人とウルフらしき者がいました。
5人の魔族をご主人さまは倒していったんですが、その中で1人だけ奈落を使う魔族がおりました。
奈落というのは、黒くて水みたいなものです。
それに触れると地獄に引き摺り込まれると言われています」
「地獄に?」
「はい、地獄にひきづり込まれて出ることが許されなくなるものです。それが実体化したものが、今回のウルフだったわけです」
「へー、そんなことが‥‥‥」
「だからウルフの皮を被った奈落が出たわけですから、ご主人さまは、もうウルフは生きていないだろうと思って落ち込んでいるわけですよ」
「えっ、落ち込んでなんかいないよ」
「いえいえ、ご主人さまはライバルを無くしたんです」
「クリスのライバル‥‥‥」
リアムが「でも、ご主人さま、安心してください、ウルフは生存しています」
「えっ」
「ご主人さまの心のどこかにですが‥‥‥」とリアム
「そうだね、厄介な奴だったけど‥‥‥
でもウルフの奴は神獣だよ、魂の消滅なんて可能なの?」
「はい、可能ですよ、あのお方なら」
「あのお方?」
「はい、あのお方ですよ」
俺は小さい声で「創造神ナサニエルだね」
「はい、あのお方です」
俺はハッと思いついて、創造神ナサニエルが過去に言って過去のウルフを連れてくることは可能?」
「あっ、そうですね失念していました」
「可能なの?」
「そうですね、神ですから」
「可能なの?」
「はい、可能です」
*
ウルフが、あの時点で死んだとしても、過去のウルフを連れてくることができる、そういう手段もあると俺は気がついてしまった。
もう、こんなことをしていたら無限連鎖だ。
やはりウルフを、初めから生まれていないことにしない限りは、意味がない。
しかし神だから、作ることができるかもしれない。
いや、待てよ、神だって生命を与えることをしないと生まれないんじゃないのか?
その生命の神が神クリスティアナだから、神クリスティアナしか生み出されないのか?
以前、ウルフたち神獣は神レイチェルが作ったと言っていたが、人と違うからレイチェルが作ることができたのか?
今は3年前の過去に行っているので、レイチェルに聞くことはできないが‥‥‥
「みんな、ちょっと、ここで待っていてくれる?、戻ってレイチェルに確認することがあるから」
「うん、わかった」
「了解」と言ってもらって、俺は現在に戻ってきた。
戻るとすぐにレイチェルを呼び出す。
念話で『レイチェル、ちょっと質問だあるんだけど』
念話で帰ってきた『はい、なんでしょうか』
『以前、レイチェルがウルフを作ったって言ったよね』
『はい、そうですが』
『ウルフを作るときに、レイチェルだけで作ったの?』
『意図がよくわかりませんが、私、1人じゃなく命を与えなくちゃいけませんので魔法で人型を作って、それに命を与えたのが神クリスティアナ様です」
やっぱり、そうだったのか。
「それだけ聞きたかったんだ、ありがとう」
「そうですか? では‥‥‥」とレイチェルとの念話を終えて、また過去に戻ってきた。
ジャネットが「どうでしたか、レイチェル様は」
「えっ、どうして、知っているの?」
「いえ、なんとなく、そうかなって」とジャネット
「えっ、うん、レイチェルはね‥‥‥」と説明していく。
「やっぱり、そうなんですね、私も思っていましたから、新しい神獣は生み出されることがないと言うことでもありますね」
「うん、そうなるね、神クリスティアナが関与しない限りは、生み出す方法はない、ということだね」
まさに生命の神クリスティアナだと思えることだ。
ということは宇宙神アラスターが宇宙を維持して、創造神ナサニエルが星を作り、生命の神クリスティアナが、全てのものに生命を与えていく、ということになる。
生命の神クリスティアナが生命を与えるのは、人だけじゃなく、その星自体、木、草、花も入るということだ。
生きているもの全てが生命の神クリスティアナの恩恵で生かされている。
しかし、神だから過去にいけば、いくらでも、その時のウルフを連れてこれる。
やはりウルフは初めから生まれなかったことにしなければ‥‥‥




