アリシア視点と1000年前
クリスがこんなに不安な表情をするのは、久しぶりだ。
あまりにもクリスが先頭で動いてくれるから、私たちはクリスなら、なんでもできるなんて思っていた。
クリスだって人なんだ、と改めて思うことができた。
クリスは、今まで4度も死んでいるみたいだけど、初めは前世のアルベルトさんの時代だ。
死を4回も味わうって、どんなことなんだろう、私も一度、危ない目にあっているけど、その時はクリスがいてくれたから私は知らない間に助けられた。
私たち全員がクリスなら、簡単だと思っていた。
それがあんな辛つらそうな顔をするなんて‥‥‥私も涙が流れてしまった。
私たちがしっかりしなきゃ、行けないんだ、私たちがクリスを助けなきゃ。
なんでもできてしまうから、つい忘れてしまった。
クリスは、怖さを知っているから慎重なんだね。
私たちは勇者クリスを支えているんだから、守られてばかりじゃダメだよ、私たちは勇者のメンバーなんだよ、クリスを助けられるように、もっとしっかりしなきゃ。
*
俺たちは、書庫から上にあがって戻ってきた。
俺の手元には、あの本がある。イアンに聞いたら、俺にもらって欲しいっていうから、俺がいただいた。
俺たちは今までは一部屋だけ、もらっていたけど、離れられるような状況じゃないから、しばらくは留まることにした。
加盟国には念話で連絡している。
俺は1人部屋でベットに寝そべりながら考えことをしている。
時間の跳躍が難しいから、ぶっつけ本番で練習するしかない。
何よりもやってみることで、理解するしかない。
そう考えて、ベットから立ち上がって椅子に座る、テーブルの上に置いてあるリンゴを取り出した。
このリンゴをナイフで剥いていく。瞬間転移して、リンゴが剥いたまま置いてあると、過去に行っていない証拠。
もし、過去に行けていたらリンゴは、そのままの状態でテーブルに乗っているはず。
俺はリンゴを剥いて、小さく切った一つを食べた。もし数分の過去に行けたとしたら、リンゴは剥いてもいないし、俺が食べた形跡もなく、元のまま。
よし、じゃ、準備は整った。
時間を遡るイメージを強く持ちながら数分間、時間を戻す。そうすると、逆再生のようなことが起きた。
俺がベットに寝ようとする、いや、これはベットから起きあがろうとしているところだ。
で逆再生が止まって俺が、統合される。
統合されるのは、数分前しか戻っていないせいだな。じゃないと過去の俺と時間再生した俺が2人いることになってしまう。
じゃ、もしかしたら、俺たちが小さい頃に魔物に襲われてアリシアの両親を殺されたわけだけど、それを助けることができるのか?
いや、そんなことをしたら、たぶん、アリシアはここにはいないかも知れない。
そして、それよりも一部が変わってしまう可能性もある。
記憶だけが変わればいいけど、いない人物が、いるということになれば、変化は大きいはずだ。
でも、それにも影響があることを実行していいのか?
ただの見物だったらいいかも知れないが、ウルフが過去に行っているわけだから追いかける必要がある。
たぶん、ウルフは過去になんらかの事件を起こすことだろう。
可能性としてあるのは、俺に関係する人を消すことだろうな。
今でも両親とも生きているわけだから、どうして1000年なのかわからないけど、父親系か母親系を殺すだけで俺は生まれなくなる。
1000年前に俺の祖先は何をしているのか知らないけど‥‥‥それなら200年前とか、300年前でもいいんじゃないかと思うけどな。
俺から隠れるために1000年前なのか?
1000年前に、何があるんだろう?
でもウルフの奴のことを考えると意味もなく1000年も遡るとは考えにくい。
何か意味があるはずだ。
*
さらに俺は練習を続けていく。
数分前じゃなく、時間単位でできるようにしなければ、それができたら日単位、月単位、年単位としていく必要がある。
それがあるから、過去に行っている俺は数ヶ月と言ったのか?
練習をしているところにオーリス王国から念話が入る。
「クリス殿、夜分に申し訳ないんだが」と王様
「どうしたんですか?」
「王都の近くにドラゴンが出て暴れ回っていて、兵士や騎士を派遣したんだが、どうにも対処できてない」
「わかりました、ロゼッタとシャーロットを向かわせます」
「シャーロットを?」
「ええ、シャーロットならドラゴンをやっけることができますよ」
「そ、そうなのか? それは頼もしいが、本当に大丈夫だろうか?」
「ええ、保証します。それにロゼッタならドラゴンたちのボスですからね、あっでも本気出して巨大化しないように言って起きますけど、もしかしたら戦いになる可能性もありますから、巨大化したら、申し訳ありません」
「いや、討伐してくれれば問題ない」
「じゃすぐに準備に入ります」と念話を切ったら、会話を聞いていたらしくロゼッタとシャーロットが俺の目の前に瞬間転移してきた。
そういえば念話の会話をオープンにしていた俺が悪い‥‥‥
2人は冒険者の格好をしているので準備はできているみたい。
と言っても普段の服に腰に剣を下げただけ。
「話は聞いたね、2人とも頼むよ。まずはオーリス王国の王都の上空に転移して、場所を確認すること、応援が必要なら念話で要請すること、すぐに行ける用意をしてくから」
「はい、わかりました」
「うん、任せるのじゃ」
何ことも経験が必要になる。
*
シャーロット視点
私たちが夜に寝る前に話をしているとクリス様から念話で誰かと話をしているのが頭に聞こえた。
この声はお父様‥‥‥
どうしたのかしらと思っていたら話の内容がわかった、もしかしたらと思ってきていたネグリジェを急いで脱いで服を整える。
横を見たらロゼッタさんも着替えている。ロゼッタさんも街で買ったネグリジェを着ているけど、それを一気に脱いだら、引き締まった体が出てきて、同性が見てもドキッとしてしまうほどの肉体美。
しかもバストも大きいし素肌に下だけ履いているから、なんだか怪しい雰囲気。
私は着替え終わって剣を腰に刺した。
ロゼッタさんも着替え終わったけど、剣は持っていない。
ロゼッタが「さぁ、ご主人さまの元へ行くのじゃ」と言って私の手をとって転移した。
すぐ目の前には念話の連絡を終えたクリス様がいる。
クリス様は「2人に任せるから」と言ってくれた。
私たちはロゼッタさんの瞬間転移でオーリス王国の上空に転移してきた。
上空からはオーリス王国の城が見える。夜にもかかわらず、なんだか人の動きが多い。
音がした方を見てみると、大きなドラゴンが上空や地上にいるみたい、1体だけじゃない。
私も飛行魔法を使ってドラゴンに近づいていく。
ドラゴンが火を噴きながら人を狙っている。
近くに行けば行くほど熱くなる。でも、そう考えていると突然、熱さが感じなくなった。
えっ、どうしてなんだろう? と考えていたらロゼッタさんが、ご主人さまの仕業じゃろう。と呟いた。
クリス様が見守ってくれていると思うと恥ずかしい戦いはできないと感じた、頑張らなくちゃ。
でも、クリス様って本当にすごい、遠くのイーノック王国にいるのに見守ってくれるなんて、私もメンバーの一員になれたことを誇りに思える人だ。
いざとなったら格好いいし、でも人間的なところもいっぱいあるし、弱い面も知っているし、最近は、出会った時のクリス様と全然、顔も体格も違ってきている。
何よりも変わってきているのは、風格ができてきていること。王族と渡り合っても臆することもなく対応することができるし威張らないし、私、そんなクリス様のことが好きだなって思う。
飛行魔法でドラゴンに近づいていくと、ロゼッタさんが話始めた「お前たち、住処に帰るのじゃ」と、でも暴れ回っているドラゴンは聞いていない見たい。なんだか狂ったように火を吐いたり暴れている。
みんな目の色が赤い。ドラゴンの色は知らないけど、元から赤いのかな?




