覚醒
棒を取ろうとしてフェイントをかけて、魔物をだましたつもりだったけど、そんなに甘いことで魔物を騙せることはなく、すぐに魔物が俺の方に駆け寄ってきた。
「ゴフッ、ゴフッ、グアー」
魔物が一気に棍棒を振り下ろした。
棒を取って構えた瞬間、魔物に棍棒で殴られた。
「バキッ」
俺は倒れて地面を転がる。
棍棒で殴られた腕を庇いながら、魔物を見上げる。
「痛い」と言う言葉では言い表す事ができないくらいの痛さを感じた。
痛さもあるけど、肩のあたりや腕から大量の出血をしている。
腕を伝って血が地面に落ちていく。
今まで感じたことがない痛さと出血から、意識がぼーっしてきた。
目がかすんで見えにくくなっている、でも顔を上げればまだ魔物がいる。
俺、このまま死んでしまうのか??
アリシアの倒れている方を、目だけ動かして一瞬見たが、アリシアが動いている様子はない。
痛さと出血からぼ~っとして薄れゆく意識の中、頭の中で俺は今まで感じたことがない意識を感じた。
その意識は、頭の中に聞こえるような感覚があって。いや、聞こえるんじゃない。なんだ、この感覚?
でも、そんなことよりも肩や手が痛い
あ~もう、どうでもよくなっていく感覚がある。
もう痛さを感じなくなってきた。
頭の中で薄れゆく意識だけがなにかを言っている。
あ~もう、そんなことよりも眠くてしょうがない。
瞼が下りていく。
アリシアは大丈夫だろうか?
俺の意識が途絶えていく‥‥
……………………………… 、
途絶える前に、薄れゆく意識の中に声が聞こえて、何かを自分に問いかけるような感覚に襲われる。
自分が死んでしまうような感覚を持ったとき、そこから自分の体の奥底から浮き上がるような感覚に襲われる。
奥底から何か湧き上がってきている、それはチカラが強く、俺を呼び続けている。
痛さと頭が朦朧とした感覚を伴いながら、湧き上がってくる何者かに自分の意識を走らせた瞬間に、昔のことが思い出された。
俺はこの時、何かはわからないが、つながったと感じた。
なぜか、自分ではない自分が、以前に生きていた記憶の断片だった。
たった一瞬だったが、以前、自分が生きていた記憶が浮上して来た。
全部ではないが、俺には以前の記憶がある。
その記憶が俺を死の瀬戸際から呼び戻してくれた。
現生ではクリスと言う名前だが、以前の名前は違っていた。
そうだ以前の自分は、アルベルトと名乗っていた‥
前世でのアルベルトの意識とクリスとしての意識が統合され、一つの意識になったことを感じた。
その瞬間は、長く感じたが、たぶん一瞬の時間だと思う。
俺は以前の能力も、同時に体に宿すことにも成功した。
体はまだ13歳の体だったが、前世の能力を少し取り戻すことに成功した。
しかし、それでも危険な状況には変わりはなく、長く感じた意識喪失状態も、たった1秒にもなかったことになる。
その証拠に急速に頭の回転が早まり、目の前の魔物に意識を集中する。
目の前の魔物は、右手に持ったこん棒を振り下ろそうとしていた。
アルベルトの意識と思考回路を集約した記憶から、魔物がどういう魔物か理解できるようになった。この魔物はゴブリンだ。
しかも剣は持っていなくて、コブリンの武器のこん棒で襲おうとしている。
スローモーションのように振り下ろされる魔物の右手を素早く見極め、痛さで倒れた体を少しだけ動かすと、口から出た言葉は知らない魔法の言葉だった。
「プロテクション」
魔法の言葉を唱えた瞬間に、自分の周りに膜のようなものが出来上がる。
魔法の膜は結界だった。
そうすると振り下ろそうとしたゴブリンの腕が、こん棒ごと弾かれた。
俺は傷を負った腕を治すために、一瞬で治癒魔法を使う。
「ヒール」
そうすると瞬間的に自分の腕の傷が治っていく。
そして近くに血を流しながら倒れているアリシアに対して、同じように治癒魔法を使う。
「ヒール」
そうするとアリシアも完全復活とは言えないが、深かった傷が少しずつ変化して治っていき、ゆっくり緩やかな息をしている。
アリシアのほうも確認をしなければいけないが、一応これで大丈夫だろうと思った。
俺は先ほどとは違い、落ち着き払った声で言う。「さて、まずは目の前にあるものから処理をしようか」
俺は武器を持っていないので、魔法でゴブリンをやっつけようと思った。
「ファイヤーボール」と唱えた。
そうすると広げた手のひらの少し上に炎が出現する。
出現したファイヤーボールを、ゴブリンに向かって投げつける。
そうするとファイヤーボールは渦を巻き、さらに火力を上げながらゴブリンに向かって飛んでいく。
ファイヤーボールをまともに受けたゴブリンは、全身を焼かれている。
炎に身を焼かれたゴブリンは、しばらくは地面を転げまわっていたがそのうち動かなくなった。
意識が戻ってまだあまり時間が経っていないため、本当に魔法でゴブリンが本当に死んだのか確認してみたが、死んでいるみたいだ。
「うん、死んだみたいだ」
俺は急いでアリシアの下に走った。
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