後悔
プロローグ(前世のアルベルト編)10
俺は戦場を馬で、魔法師を5人だけ連れて走っていく。
馬の速さで走ると、そんなに時間はかからずに現場に着くことができた。
今いるところは、現場を見下ろせる小高い丘。
やっぱり戦場は離れて見るのが一番。距離は離れているけど、両軍が戦っている。
しかし、数が異常に多いなと思った、それも敵の数が多いような気がする。普通は戦う時に、魔法師と剣士を組ませるのが普通だけど、敵軍は魔法師よりも剣を持っている奴らが多い。
それも、装備もつけていない兵が剣を持って戦っている。
軍隊と言っても正規兵もいれば冒険者もいる可能性があるし、志願兵もいるだろう。
俺は、小高い丘から魔法を放つことにした、ここは、ルーファス王国の土地だから、敵兵が侵略してきている。
放つ魔法はファイヤーボール。
魔力切れを起こさないようにセーブしながらファイヤーボールを作ったけど、俺が軍の試験に受かった時に使った、爆裂のファイヤーボールだ。
しかもその時よりも威力も増している。爆発の範囲が桁外れの爆裂を放つ。
俺は検索魔法で、動きが少ない後方にテントがあるのを確認しているので、そこに爆裂魔法を放つ。
結構距離があるが、大丈夫だと思う。
俺が放ったファイヤーボールは遠くまで飛んでいき、そこで大爆発を起こす。
『ドカ〜ンンン』地震が起きたように地面が揺れる。
検索魔法で確認してみたが、もうそこにテントはない。
「よしっ、次は、東に行くぞ」と俺が言うと「おい、司令官すごいな」と言う声を耳にした。
俺は馬を走らせて、2時間後に東に到着したけど、そこは増援されていても押され気味だった。
俺はまたファイヤーボール風な爆裂魔法を、戦っている人の後ろにいる奴らに発射した。
敵軍からも魔法が飛んできて、俺の爆裂魔法に挑んできたが、俺の方が威力が強かった。でもそれで敵の陣地に落ちはしたけれど、少し威力が落ちてしまった。
しかし、俺の爆裂魔法を見た味方の兵士が、一気に押し返し始めた。
俺は連れてきた5人の魔法師をここに残していくことにした。
俺は役目を終えたと思うので、もと居た場所に戻ることにした。
「あとは、頼むぞ」
「はい、わかりました。アル司令官」
*
俺は快調に馬を飛ばして、今は中間くらいの森の中だ。
あと1時間くらいで司令官テントに到着する。
だけど、俺に向かって一本の矢が飛んできて、俺の背中に刺さった。
「しまった、油断した」と俺は思った。
あと1時間くらいで到着すると気を緩めてしまったのだ。
俺は痛みに堪えながら、馬を走らせ、索敵魔法を展開してみる。
しかし、敵はいない‥‥‥ 味方の剣士がいるだけだ。
「??」おかしいぞ
俺は矢が一本、背中に命中したまま、回復魔法をかけながら馬で逃げていく。
回復魔法を自分でかけながら走る。振動で痛みに苦しみながらも我慢する。
しかし、矢が刺さったままだから回復魔法が効かない。
どうしてかわからないけど、味方の剣士の3人から追われている。
他には人がいないから、この3人が裏切ったのか?
俺に矢を放ったのは、この3人に間違いない。
馬を走らせながら、どうする? と考えた。このままじゃ逃げきれない。
俺は馬を止めて、3人に向き合った。
3人も、俺の目の前に馬を止める。
「これはこれは、魔法師の司令官様じゃありませんか。どうしたんです?」
「‥‥‥」
「背中に矢が刺さったままじゃ、しゃべれませんか?」
「‥‥‥」
「どうしたんです?」
「お前ら、どうして俺を狙う?」
「だって司令官さえいなくなれば、俺たちが報酬をもらえるんですよ」
「なんだって?」
「俺たちは、ガルシア帝国から、報酬をもらうことになっていましてね」
「報酬?」
「そうですよ。あなたが強すぎるから、どうにかして殺すことができないか、と依頼されましてね」
「ちょうどあなたが東に行くのが見えたんで、たぶん戻る時には、ここを通るだろうと思いましてね。待っていたんですよ」
「貴様ら、ルーファス王国の軍人だろう?」
「そうですよ。俺たちはルーファス王国の軍人です。あなたみたいに出世もできず、可愛い姫様とも結婚できずに一生を終えるなんて、馬鹿らしい」
「お前らが努力もせずにいたからだろう?」
「ええ。俺たちは才能がないもんで。そりゃ、あなたは才能がおありでしょうよ」
背中に矢が刺さっているので、目が霞んできた。
これは毒矢か。
「やっと気づきましたね。それには毒が塗ってあるんですよ」
「‥‥‥」
くそ。聖属性魔法で毒を消すことができるらしいけど、俺には使えない。
「あなたのことは調べ上げていますよ。毒を消す魔法は持ってないってことくらい」
「これで俺たちは、大金持ちだぜ」
「やったな〜」
「あとはもう、死ぬのを待つだけだぜ。やったな〜」
俺は頭が朦朧もうろうとして、魔法を発動できなくなってしまった。
毒の影響がかなりあり、考える力さえ奪われてしまった。
俺は足元がふらついて、地面に倒れてしまう。
「ヒャハハ、やったな。これで大金持ちだ」
俺はなんとか意識を保つことに成功して、3人に今の状態で出せる普通のファイヤーボールを作り、放つことができた。
3人は、炎を受けて、『ぎゃ〜」と大きな声をあげながら燃え上がる。
地面に転がりながら炎を消そうとするけど、簡単なことではない。
一人は地面に転がり、もう一人は走りまわって消そうとしている。
もう一人は、もう死んでいるみたいだ。倒れて動かない。
俺は倒れたまま、自分に回復魔法をかけ続けている。
聖属性魔法の方が効果はあっただろうが使えないので、回復魔法をかけ続けてみた。時間と共に立てるようになってきたけど、まだ、ふらふらだ。
俺が検索魔法をかけてみると、敵の兵士に囲まれていることがわかった。
今は立つのがやっとだ。このままじゃやばい。
馬を探したが、見つからない。
俺は、よろよろと歩き出すけど、逃げることはできないみたい。敵の兵士が、もう近くまで来ている。
「ハァ、ハァ、くそ、体が動かない」
敵の兵士がもう、見える位置まできていた。俺が顔をあげると、それは見知った人だった。
「ごめんなアル。俺も家族が人質になっているんだ」と目の前で剣を構える奴が言っている。
「家族が人質に?」
「そうなんだ。俺も後ろから敵に狙われているから逃げることもできないんだ‥‥‥
戦争を仕掛けてきた敵に俺たちの食料だけじゃなく家族も人質に取られてな。」
「‥‥‥そうなんですね」
「お前さえ殺せば、奴らは解放してくれるって言うんだ。だから、アル、知り合いのお前には悪いけどな‥‥‥」と言って俺に剣を突き立てた。
「ウグッ、 家族を解放してくれればいいですね」と言って俺は意識を失って地面に倒れた。
俺を見ていた敵の兵士は「やったのか?」と聞いてきた。
「はい、私が殺しました」
「それじゃ、お前も用無しだ」と言ってそいつも殺してしまった。
そいつが俺の上に倒れてくる。
その時に俺は意識を取り戻した。
くそ、やっぱり殺されたか。
「はぁ。ライラァ」と叶わぬ恋人の名前を呼んだ。
*
その時だった。俺の目の前にはライラが座っていた。
急に現れた俺にライラは驚いたけど、俺だとわかるとすぐに近づいてきてくれた。
そう、俺はライラに会いたい一心で、ライラの元に瞬間転移したのだった。
使えるはずもない瞬間転移‥‥‥
俺はライラに手を伸ばして「ラ‥イラ」とつぶやいた。
ライラは俺の手をとり、涙する。
「味‥味方に裏切られた‥‥‥」
「そんな。アル、大丈夫よ。私がついているわ」
俺の体温が徐々に抜けてゆく感覚がある、床が冷たく感じる。
ああ、俺、ここで死ぬのかな?
「アル、しっかり」とライラは手を握ってくれる。
ライラの手は暖かいけど‥‥‥俺はドンドン熱を奪われていく。
「イヤよ、アル。目を開けてよ、死なないで」
床の冷たさが、冷たく無くなってきた。
俺はゆっくりと瞼を閉じていき俺の心臓の音が止まった。
「イヤッ、ねえ、アルッ」
ライラが握っていた手が床に落ちる。
「いやっ ‥‥‥ いやよ、アル、私を置いていかないで‥‥‥」
もう一度ライラは俺の手を取るけど、もう死人の手になっている。
「アル〜、うっ、うっ」とライラが嗚咽しながら泣き出す。
しばらく泣いていたライラは立ち上がって、咄嗟にテーブルの上に置いてあった果物ナイフで、自分の首を切ってしまった。
ライラの首から血が噴き出していく。
首から多くの血が流れるけど、ライラはそれでもふらつきながら歩いて、俺の横までくると、俺の手をとり、俺に重なりながら倒れた。
そこに騒ぎを聞きつけた兄の王子が部屋の中に入ってきたが、部屋の惨状に驚き‥‥‥どうして出兵した俺がいるのか考えもせずに、息をしているか確認したが、もう二人とも息はしていなかった。
王子は俺たち二人の手を、合わせてくれた。
「‥‥‥‥‥‥」王子は二人を見ながら、涙を流している。
「くっ、どうしてなんだ?
こんな幸せそうな二人を死なすなんて
もし、神がこの世にいるなら、どうして二人を死なせたんですか!」
「妹の笑顔を見ることはもう、今となっては‥‥‥、くそっ」
「許さん、ガルシア帝国め」