俺が君なら君は誰?
部屋に埋め込まれている、これまた豪華な飾りがつけられている鏡を覗いた。
やはり、そこには俺の面影など全くない少女の顔があった。
背丈は俺より一回りほど低いが、顔立ちからして俺とほぼ同年代と思っていいだろう。
「まあ、女子は男子よりも成長が早いって言うから当てにならないけどな」
女子は、精神的にも肉体的にも男子よりも成長速度が早いと言うのはよく聞く説話だ。
最も、その実態は専門家でもなければ人並み以上の知識量を持ち合わせてもいない、俺には未知数の世界なのだけれど。
「て言うか………。うん、めっちゃ可愛いな、俺」
鏡の中の少女を俺と言っていいのか、それは微妙だし議論の余地ありなのだが、何にせよ少女の容姿が非常に整っている事実には狂いようがなかった。
俗に言う美少女、いやそんな言葉ではその容姿を表すのは役不足が過ぎるだろう。
長く伸びた艶やかな髪は黄金色に輝き、長いまつ毛と二重に縁取られた、まるで宝石のような翡翠色の瞳は、見るモノ全てを魅了するかのような美しさがあった。
透き通った鼻筋も、形のいい眉も、ほんのりと赤い頬も、ふっくらとした端で結ばれた唇も、全てが白く小さい顔の中に、絶妙な配置で位置されている。
全てが完璧に己の美を引き立たている顔のパーツ達、それはある種の芸術作品のように、いや下手をしたらこの世のどんな芸術よりも美しい存在この世に生み出しているのでは無いだろうか。
それほどの魅力が、少女の顔にはあったのだ。
気付いたら俺も、鏡を見てからかなりの時が経ってしまっていた。
俺が我に返ったのは、巨大な両開きの扉からノック音が聞こえたからだ。
「お嬢様、そろそろ起床なされた方が宜しいかと」
扉の向こうから聞こえたのは女性の声だった。
少々早口で無機質で平坦な喋り方だが、その声は透き通っていて聞いていて心地が良かった。
鳥のさえずりの様という表現があるが、なるほどそれはこういう時に活用するものなのか。
「はぁい……。今起きるわよ、クリス」
「左様で御座いますか。では、先にお食事の用意を」
そう言った後、女性が扉から遠ざかる音がした。
「えっ……。今、何で……」
「ふわあぁ……。さて、そろそろ起きないと……。って、なんで私化粧台の前に…?」
「えっ、今俺が喋って……」
「え?俺?あはは。アタシ、疲れてんのかな」
「やっぱりおかしい!俺は喋っていない!」
この状況は、傍から見たら完全に異常だ。
何故なら、一人の人間が声のトーンを変えながら別々の事を喋っているのだから。
まるで、一つの身体に二つの魂が入っているかのようにだ。
「ちょっと!」
「おい!」
「「アンタ誰だよ!!」」