胡蝶の夢
深い深い、闇の中から意識が浮かび上がってくるのを感じる。
そして、本能的にその感覚を嫌悪する。
まだ、闇の中に埋もれていたいと。
だが、それが世の摂理なのだろう。
俺の願いを一蹴して笑い飛ばすように、意識は段々と闇から追い出されて言った。
感じる、己が形作られていくのを___
細長い手脚が出来て行くのを、長い髪が出来ていくのを、華奢な身体が出来ていくのを、豊かな乳房が出来ていくのを___
いや…………待て、どういう事だ!
俺は勢いよく上体を起こした。
見ればそれは、俺の部屋の2倍以上はあるだろう煌びやかに装飾された豪華な部屋だった。
「えっ……ここ、どこ………」
思わず口から漏れたその言葉は、まるで女性の声のように高かった。
「んっ……んっ………」
喉に手を当てて軽く咳払いをしても、まるで喘ぎ声のような妙に色っぽい少女の声が出るだけで、元の俺の低い声が出る気配はなかった。
そして、もう一つ感じた違和感………。
俺は目線を下ろした。
やはりそこには、見慣れない膨らみが胸部の辺りに存在していた。
そもそも服装自体、ローブのような、ワンピースのような、詳しくはわからないが女性物の寝間着姿になっていた。
その寝間着特有のダボっとした感じのせいで、胸元からは豊かな谷間が露になっていた。
「……………。はぁ…」
自分の頬が赤くなるの感じて、俺はため息を着いた。
「あくまでも確認。そう、確認だ」
そう自分に言い聞かせ、俺は恐る恐る胸元へと、両手を向かわせた。
掌から、ややズシッとした重量感が伝わってくる。
そのまま、五本の指を包み込むようにゆっくりと沈ませた。
ムニュッとした、なんとも言えない心地良いような感触が、指を通して脳へと伝わってきた。
「…………ホンモノ、だ」
最も、実際に触ったことなどないが、俺はそれを本能的に感じ取った。
これこそ、世の男が喉から手が出る程に欲しがる、禁断の果実なのだと。
そのまま2回、3回と指を沈ませながら、俺は左右にある二つの果実を堪能した。
一通り満足した俺は一度指から手を離すと、更に下__
下半身の方を見つめた。
「………で、ここまで来たら、アレを確認しない訳には行かないよな」
俺は、主に下半身に掛かっていた布切れと呼ぶにはあまりにもよく出来ている布団を引き剥がすと、股間の辺りに手を伸ばした。
既に感覚で分かってはいるが、直接確かめるまではあまり信じたくはなかった。
「……………。やっぱり、ないか」
本来、男なら誰しもが持ち合わせているであろうソレは、残念ながら今の俺には跡形もなく消えていた。
もう、これは確定と言えよう。
俺は加山遥斗。
ある朝目覚めたら、女性になってしまった。
こうして、俺の____
否、『俺達』の奇妙な日々が始まったのだ。