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防人(さきもり)の戦後  作者: 佐久間五十六


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お疲れ様②

 妻や子供達は、黒沢の退官を労った。特に妻朝代は、黒沢の苦労を知るだけに、万感せきばくの想いがあった。

 「ただいま。今日で自衛官としての務めは終わったよ。」

 「お疲れ様です。本日まで長いお務めご苦労様でした。」

 「朝代や数人や則夫の支えがあったから出来た事だよ。」

 「貴方の頑張りで、子供達は成長出来たんですよ。」

 「一家の大黒柱が頑張るのは当然の事じゃないか。」

 「そうですね。それでこれからはどうされるおつもりですか?」

 「うん…。その事なんだが、また黒沢農園の厄介になろうと思う。」

 「明彦さんは、良いと言って下さったのですか?」

 「連絡はとってある。なーに、お前達の心配には及ばねーよ。」

 「現役を引退したのだから、もっとゆっくりしたら良いのに…。」

 「まぁ、体は元気だし体力も有り余っているしな(笑)」

 既に黒沢の二人の息子は社会人になっていた。黒沢が妻朝代と結婚したのは、かれこれ20年前双子の兄弟はその時の授かり者であった。籍を入れたのはその6年後の事であった。朝代は黒沢が巣鴨プリズンに勾留されている時も、数人と則夫をたった一人で育てた。朝代は黒沢に負けず劣らずの努力家だった。

 苦難の時代でも朝代は、黒沢の無事だけが心配だった。自衛官を退職したと言う事は、もう黒沢が銃弾に倒れる事は無いと言うことである。朝代はそれを歓迎した。しかし、多くの自衛官の配偶者は朝代のような気持ちになるのであろう。

 何時なんどき夫が死ぬかもしれない、と言う心理的負担はストレスのサイズとしては、決して小さくないものだろう。とは言え、自衛官はそれが仕事であり、それを元に生活が成り立つ。その為、口が裂けてもやめて欲しいとは言え無い。そう言う葛藤は多くの軍人の家族は持っているのであろう。

 子供とて同じだ。父親に死んで欲しい子供など普通はいない。逆に父親も戦争に巻き込まれても家族の事を考えれば、少しの事では死ねないとも思う。お互いにお互いが想い合うことで軍人が死ぬ可能性は減るのかも知れない。

 黒沢はこうした家族の支えもあり、40年近い陸軍兵士としてのキャリアを全う出来た。本来、軍人は家族を持つべきでは無いと言う人もいるが、家族を持つ事で、火事場の馬鹿力を発揮する人間がいない訳では無い。軍人こそ積極的に家族を持つべきであると言う意見も理解出来ない訳では無い。事実、多くの大日本帝国陸軍人や陸上自衛官が家族を持ち、子孫を残している。と言う事実はある。

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