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防人(さきもり)の戦後  作者: 佐久間五十六


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よく食え

 黒沢は、若い隊員に「よく食え。」と言ったものである。食料事情の厳しかった時代を生きてきた人間として、今の若い人間がたらふく腹一杯飯を食える"飽食"については、異論もあったが、それとは別に、黒沢は若い隊員には「よく食え」と言ったものである。その様な事は、上官の口を出す事ではないのかもしれないが、黒沢は部下に食べ物のありがたさや、生きていられる事の幸せについて、伝え続けた。

 それは決して、昔はこうだったと恩着せがましく言う訳でも、若者に対して当て付けている訳でもない。戦争を経験した今だからこそ、その気持ちを若者に伝えねばと、その一心だった。本当は駄目だが、食べ物を大切にしない隊員には黒沢の鉄拳が飛んだ。まぁ、見えない所では、黒沢以外にも蹴ったり殴ったり、頻繁にそれなりの"ヤンチャ"は、あった。

 無論、自衛隊は制裁を固く禁じており、ハラスメント問題でやかましい外部の目もあり、今は暴力は無くなった様である。黒沢は理不尽な暴力は、絶対にしなかった。手を挙げるのは、食べ物を粗末にした時だけ。よく食える時代だからこそ、黒沢の様な古参兵の主張は貴重なものであった。日本の未来を守る人間が、米粒一つのありがたさを大切に出来なくて、どうするんだ?

 黒沢はそれが言いたかった。彼が帝国陸軍時代から陸上自衛隊に至るまで、変わらないのは、国防に対する想いである。「天皇陛下万歳!」等と言う想いは、表面的なもので、本心は防人として、この日本国民と、日本を守りたい。ただ純粋にそれだけだった。第二次世界大戦の時でも、考えていたのは家族の事だけだった。同じ様に帝国陸海軍の兵士一人一人が、心の中でそれぞれの想いがあった。その為に厳しい戦いの中を生き残って来た者は少なくない。

 口にはできない。自分はまだしも家族が非国民の烙印を押されてしまうからだ。今思えば、酷い時代であった。民主主義など、形ばかりで。厳しい言論統制下を思えば、今は天国の様なものだ。まぁ、その根本的な考え方は米国に貰った様なものだが…。その過程を知る戦前・戦中の人間にとっては、複雑な心境であった。

 とりあえず、三度の飯に困らない時代になった。しかし、それは一次的なものかもしれない。それを日本人は肝に命じておかねばなるまい。ちょっと頑張れば飯に困らない時代になっても、黒沢が経験した飢餓体験は、平時の生ぬるい時にも思い出す事はあった。だから余計に食料を大切にしない事が許せなかった。いの一番に戦場に出て行った日本軍兵士の主な死因の第1位は圧倒的に餓死であった。その苦痛がどれ程のものかを平時から黒沢は部下に伝えていた。パワハラと言われようが何をしようが、食べ物を大切にしない部下には黒沢の罵声と鉄拳が飛んだ。

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