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防人(さきもり)の戦後  作者: 佐久間五十六


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転機①

 黒沢徹男が東京裁判でC級戦犯として、連合国に裁かれてから、3年後の1949年8月26日に黒沢徹男元大日本帝国陸軍少佐はシャバに戻って来る事が出来たのである。刑に服している間はとにかく、一刻も早く出て、農業による企業活動にを戻りたかった。しかし、それが直ぐには出来ない事が分かると、黒沢は"黒沢農場"の社員達に業務を分散して、巣鴨プリズンの中から指示を出していた。

 この時期が黒沢にとっての転機となる時期であった。この時期に会社の形態を確立させた事により、後に黒沢が復帰してからもスムーズに仕事に戻れる様になる。それは、何よりも黒沢徹男元大日本帝国陸軍少佐と言う肩書きを捨てても、生きて行ける機会に恵まれた事が、黒沢にとっても良かった。

 社員も社長である黒沢が不在の時こそ、一致団結して会社の成長を維持させ様と奮闘した。その社員の頑張りが無ければ、"黒沢農場"は廃業していたに違いない。刑に服すと言うのは、決して幸せな事ではない。ややもすれば、ボーッとしてただ刑期が終えるのを待つ者もいる。そんな人間が多い中で、黒沢は人生設計を見直し、また新たな姿で生きて行く事が出きるのは幸せな事だった。

 なかなかどうして、人間と言うの生き物は、与えられた環境の中で、全力を尽くさなければいけない、と言う事が分かっていても、実行する事は容易な事ではない。しかし、黒沢は自らが犯した罪と言うよりは、部下や上官の犯した日本軍全体の罪の一部を肩代わりさせられている、と言う側面が強かったから尚の事である。自分の罪の意識が無いまま、刑に服さなければならないのは、ストレスフルなものであるだろう。

 そんな中でも黒沢は毎日やることを考えては計画的にやっていた。例え、それが端から見て悪あがきに見えても。黒沢の努力は実らないはずがないと言えるほど、適切で効果的なものであった。勿論、黒沢は天下無双の神様ではない。だから、完全な状態には持って行けていないはずであろう。それでも黒沢はやれるだけの事をしていた。

 その努力を活かすのは、戦後にあっても彼が充実した人生を送るかという事に、ダイレクトに繋がってくる。それがきちんと出来ていた事は、素直に凄い事である。これは戦時中と言う特異な時間を過ごした人間にしか分からない感覚なのかも知れない。特段平和に暮らしている現代人には分かり得ない感覚と言うものは当然ある。解離と言って片付けてしまえばそれまでなのであるが、事は、そう単純ではない。

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