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防人(さきもり)の戦後  作者: 佐久間五十六


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嫌疑不充分

 「なぁ、黒沢はこれからどうやって暮らしていくつもりや?」

 「幸い自力で農業をしておりますので、なんとかなります。」

 「俺は帝国海軍一筋でやって来たから、厳しいわ。」

 「軍隊での苦しみを思えば、ビジネス等道楽ですよ。」

 「道楽か…。じゃあ一刻も早くこんなところからはおさらばしないとな?」

 「確かにそうですね。」

 「これからどうなる事やら。日本は変わるぞ。」

 「そうですね。きっと日本は力強く立ち直る事でしょう。」

 「この巣鴨プリズンで過ごした日々が無駄にならないと良いな。」

 「勝者による都合の良い裁判に、どれ程の意味があるのでしょう?」

 「そんな事は俺達が決める事じゃねーよ。どうする事も出来ない問題だ。」

 「負けた者には正義の花は咲かないシステムですからね。」

 「所詮この世は弱肉強食なんだよ。結局。」

 「その生存競争に生き残らなければなりません。」

 「黒沢は立派だな。俺なんか自分の事で手一杯やで。」

 「それはそれで素晴らしい事じゃないですか?まず自分ですよ。」

 「これだけの派手な戦争をやって裁かれるってのも、嫌だな。」

 「仕方の無い事です。米国の方が1枚上手だっただけの事です。」

 毎日栄野木と黒沢は、この様な会話をして過ごした。さてその頃、黒沢元少佐の嫌疑が不充分であるとの申し立てがあり、黒沢は近日中に仮釈放される事が決まった。いくら勝者による都合の良い裁判であったとしても、やっていない罪を認める程の理不尽さは持っていなかった。

 それだけ連合国側がスピード感を持って多くの日本人将校を裁いた証でもある。そういう意味では、黒沢はラッキーだった。拘留されて約二ヶ月。前科も付かず何の刑罰に問われなかったのは、不幸中の幸いであった。

 黒沢自身は、この様な決定は当たり前だと思っていた。やっていない罪を認めるのはおかしい。それも強制的に。米国は民主主義の国だと聞いていたが、この様な事をしていれば、只の暴君による見せしめである。日本人はこの様な見せしめに対して、出来る事は、何もなく無力だった。と言うより戦争に負けると言う事はそう言う事だと痛感せずにはいられなかった。

 「行くのか?」

「はい。お世話になりました。栄野木大佐。お元気でお過ごし下さい。」

「寂しくなるぜ。まぁ遅かれ早かれ俺もここを出る事になるだろうからな。」

「もしお困りでしたら…。」

と、黒沢は黒沢農園の住所を大佐に渡した。

「手紙書くな。」

「はい。お待ちしています。」

と言って、黒沢は巣鴨プリズンを後にした。

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