Destroyer
~海の章(上巻)~
1945年(昭和20年)7月28日、この年の3月に竣工したばかりの日本海軍の軍艦「梨」が、米海軍戦闘機グラマンF6Fヘルキャットのロケット弾攻撃で爆沈してしまう。
この物語の主人公である大文字龍太も大日本帝国海軍曹長として、この駆逐艦(destroyer)に乗り組んでいた。この米海軍戦闘機の攻撃で日本海軍の味方38~60人が戦死したが、運良く大文字は助かった。それから約半月後には、5年近くに及んだ大東亜戦争(太平洋戦争)が敗戦と言う形で終結した。そしてそれは、大文字にとって苦難と受難の時代の始まりでもあった。
大日本帝国は、米国を中心とする占領軍(GHQ)によって占領統治される事になってしまう。帝国陸海軍は、武装解除されてしまい、次の生きる糧を探す者やスガモプリズンに投獄される者とに、様々な道を辿ることを余儀無くされてしまう。鬼畜米英と言うスローガンは、ギブミーチョコレートへと変わり、世の中は手のひらを返した様に、アメリカ万歳となっていく。
大文字は仕事を探す為、仕事を探し回るが旧軍人の評判はすこぶる悪く、一般社会に受け皿は無かった。そこで大文字は、進駐軍(GHQ)から仕事を貰おうとした。卑しくも先の大戦では、敵方にいた米英から仕事を貰おう事には抵抗もあったが、生きる為にはそうとも言って居られなかった。戦後の混乱期にあっては、日本人の誰もが大変な運命にあったものの、内地にいた人間はまだ良い方だった。復員してきた旧軍人が一番辛酸を舐めた。1945(昭和20年)12月1日に海軍省と大日本帝国海軍は廃止になってしまうのだが、内地にも外地にも日本兵が沢山居た為、その復員作業が完全に終わるのは、終戦から14年後の1959年(昭和34年)の事であったという。
敗戦の手続きが着々と進んで行く中で、日本はGHQや連合国を中心とする勢力から、新たな欧米に噛みつかない欧米風に民主化した国家に、生まれ変わる事を強制されてしまうのである。一連の日本国憲法の制定や、東京裁判等はその最たる物であり、いささか公平性を欠いたやり方をされた事は、後世に指摘されるその通りである。
日本が戦中も大変だったが、戦後直後の向こう5年間1945~1950年と言う期間は、最も日本人にとってしんどかったであろう時間軸であり、戦後日本のベースとなったスタイルを形勢する時期であったと言える。