勉強会
突然だが勉学について考えてみよう。主にその必要性についてだ。
例えば義務教育。子供の知力向上に加え社会性を育て、様々な分野の知識の基礎を学ぶ教育過程だ。友達が出来、共に遊ぶのを経験するのも大体はこの頃だろう。
総じて現代人の基礎を覚える重要な過程で、社会の根幹に根差す優秀な人心成長機構と言えるだろう。
だが便利な反面に欠点があることは事実だ。
場合によっては学業の進行速度から置いてかれる人や、友人や家族関係で上手く教育課程を進めれない人も居る。
そもそもの産まれでも最大一年の差が出来るし、言うのはなんだが先生の質や、学校のレベルにも差がある。
個人の性格、体質、アレルギーや性別、成長速度の差違などで個性が出来るのだから問題も出てくるだろう。
それらを乗り越えれても覚えた知識を使うことはあまり無いらしい。それこそ教師使うのは教師位だ。
昨今グローバル化が進んでいるし、外国に行けば更に減るだろう。異世界なら尚更だ。
「と、いう訳で勉強をしても無駄なのではないか?」
「……どういう訳か分かりませんが、アイリス様が望んだことでは?」
「むう……。」
だって難しいんだもん。
気味の悪い事に文字は読めたが、知らない名詞がずらーっと並んでいるのは精神的にきつい。それに知ってる単語が出てもあれ?と思うものばかりだ。
例えばこれだ。――アルパインは食物が多く、樹木だけ少し見てもりんごが成るレルケーや、幹から蜂蜜が採れるシナノキなどが多く植生しており。この国で飢饉が起きるとしたら既に他の国は滅びてるとまで言われる程の食の王国だ。
――意味がわからない。
知らない単語が出るのはまだ良い。だがりんごが生えるレルケーって何? いやそれよりも木の幹から採れる蜂蜜ってなんだよ!蜂関係無いじゃん樹液だよそれ!
「それはそうだが、ここまで知識が通用しないとな……愚痴の一つも出ると言うものだ……。」
「大陸すら違うのですからそういうものなのでしょう。アイリス様は故国でも勉学を?」
「むぅ、あまりの出来の悪さに疑ってるのか? これでもここに来る前は勉強詰めだったのだぞ?」
何しろ受験生だったからな……出来の良さは別としても勉強するのは一応慣れてはいる。だがこれはそういう問題ではないと思う。
「はははっ、疑いなど御座いません。ただの世間話ですよ。勉強ばかりでは息が詰まりますので。」
「……そうだな、私も少々疲れていたらしい。」
「バエルの訓練の後ですし、仕方無いかと。休憩にしましょうか、お茶と菓子を用意させます。」
「頼む。」
王子はそういうと席を立った。
「……ところで王子は樹液って知ってるか?」
「? 木の幹から採れる液体の事ですよね?蜂蜜の様な。」
「……そうだな。」
……どうやらおかしいのは俺の方らしい。
多分だが自動的に似たような物を、知ってる言葉に翻訳されているようだ。というか樹液ならメイプルでよくね……?
使用人を探しに部屋を出てく王子を見送って目元を軽く揉む。
「はぁ、運動神経は向上したが頭ばっかりは自前のままとはな、冴えすぎてても怖いが少し位向上してても良いだろうに……。」
流石に頭の良さは女神様のサービス外らしい。痺れた頭を癒すように机に突っ伏す。
お茶会で王子に教師を頼んでから数時間。昔王子が教育を受けていたという部屋を一室貸しきって勉強会をしていた。
近くに備え付けられた窓から見える外は少し暗く成り始めていて、時間の経過を感じさせる。
「……昼飯食べて無いな。」
思い出したようにお腹が空いてきた。
俺が言える事でも無いが、どうやら王子は集中すると周りが見えなくなるタイプらしい。知り合ったのは昨日だが、正直あの王子はポンコツな気がしてならない。
と、王子が戻ってきた。俺は慌てて机から起き上がる。
「お待たせしました。使用人に伝えたので直ぐ用意出来るかと、遅く成りましたが御飯の用意も出来るとの事です。気が付かなくて申し訳ない。」
「! あ、あぁ……気にするな。それにしても早かったな?」
しまった聞かれたか?誰も居ないと思って油断していた。あまりぼやくのも考えものだな。
「ご厚意有りがたく思います。外のメイドに言付けをしただけですのでそう待たせは致しませんよ。」
「ふむ。」
てっきりもっと遠くに行くと思ってたが、それなら大して時間は掛からんか。
それから数分。王子と共に寛いでるとノックがされ、どこかで見た事のあるメイドがカートを押して入ってきた。
「お食事をお持ち致しましたアイリス様、ジョセフ様♪」
ていうかマリアンナだった。
「マリアンナ?何故ここに?」
「何故とは悲しいですね!私はアイリス様の専属メイドですよ!お食事をご用意するのは当たり前です♪」
「お、おう??」
ものすごい自信満々に返されたんだが……。確かに昨日はマリアンナが配膳してたしそういうものなのか?
「お二方は知り合いだったのですか。確かにマリアンナでしたらアイリス様に相応しい使用人ですからね。それで貴女は部屋の前に立って居たのですか。」
うん?部屋の近くに居たっていう使用人もマリアンナだったのか?
「はい♪ 御主人様の側にメイドあり!何時でも駆け付けるのが貴族付きメイドの所作ですから♪」
「そうなのか……。」
まじか、すると昨日もずっと近くに居たと? 全く気付かなかった……。
「アイリス様。一応補足させて頂きますと全ての使用人がそうという訳では無いとご了承下さい。あくまでマリアンナを含む一部の使用人に限ります。」
そうなのか……その一部って他のメイド貴族なんだろ? 結局メイド貴族って何なんだよ? マリアンナからは聞いたけど自称だしな王子にも聞いてみるか。
「ふむ。王子、メイド貴族とは何なんだ? マリアンナがそう名乗ってたが?」
「メイド貴族ですか? そうですね。言うなれば目覚ましい功績を上げて爵位を得た使用人でしょうか。爵位が無くとも優秀な使用人をそう評することもありますが。」
マリアンナは前者ですね。と王子。これは前にマリアンナから聞いたな。それじゃあ。
「マリアンナの家はどんな功績を上げたのだ?」
「確かマリアンナの家、ジーフリトは主人の為に竜を倒した事を賞して爵位を得たのでしたね?」
は? 竜??
「は、はい。使用人としてはいささか似つかわしく無い勇ましい功績ですが。事実です。」
ま、まじか……マリアンナの家の武勇伝もさるが、この世界竜が居るのか……。
「竜、竜とはあの竜か?」
「アイリス様の知る竜と同じとは断言出来ませんが、トカゲに翼を生やして巨大かつ、獰猛にした様な強大な魔物です。」
やっぱか~……。
「私の認識と相違ないな……。強いとは聞くが実際のところどの程度の強さなのだ?」
倒したら場合によっては爵位を得る程だし、かなりの強さなんだろうけど流石にバエルよりは弱いよな?
「そうですね。私は戦った事は無いのですが、バエルが言うには
、私が一対一で子竜を倒せるかどうかだそうです。私を含んだ近衛騎士総動員でなら成竜を下す事は出来るらしいですが確実とは言えないと昔言っていましたね!」
………子竜、成竜……。古竜と聖竜じゃなくて……?
「ちなみにマリアンナの祖先が倒したのは?」
「古竜だと聞いてます。」
わあ、出てきたよ古竜。強そう。
「た、たまたまですよ!老衰して弱ってたのを奇襲しただけですから!」
「例えそうでも竜は歳を重ねる程強大に成る魔物です。生半可な強さでは返り討ちに遭うだけでしょう。あまり謙遜しては祖先に対して無礼に成りますよ?」
「う、うぐぅ……。」
実際はどのくらいか知らないが、聞いた感じ王子よりは強そうだな……。
そういえばマリアンナも少しは戦えるって話だが、もしや額面以上に強いのでは?
「それは凄い! もしやあまり戦えないと言うのも謙遜だったか?」
「いえそれは――」
「弱いということは無いでしょう。特に隠形術にいたってはベルンハルトの隠形衆すら見失う程です。」
隠形衆って何?忍者か何かか?
……それが見失うって相当だな。忍者と言えば日本で最強説すらあるんだぞ?
「ジョセフ様!言い過ぎです! 私はメイドですので強さはあまり無いですから!」
「……そうだな、護衛はお前が居るのだから強さは必要無いな?」
「そうですね、マリアンナはあくまでメイドなのですから。私しの配慮が足りませんでした。申し訳ありません。」
王子がマリアンナに頭を下げた。
マリアンナはあわあわしている。
「そ、そんなジョセフ様がメイド風情に頭を下げないで下さい!!」
……この王子の頭はよく下がってる気がするが……。いや流石にこの考えは無礼か。
「いえ、当人の前で無遠慮でした。せめて頭を下げさせて下さい。」
俺が聞いたのが元だし、そんなに気にしなくても良いんだぞ?言わんけどな。というか――
「今言うことでは無いが、もしかして学園に付いてくるのか?マリアンナ?」
「えぅ~……えっ!はい! 同行するよう国王様から仰せつかっております。」
ほう。
「となるとここに居る三人は学園組か。マリアンナも生徒として行くのか?」
というかマリアンナって何歳なんだろう?二十代には見えないけど、王子と同い年位か? まあ俺王子が何歳か知らんけど十代後半位に見える。
……てかそれなら俺の年齢って幾つなんだ? 実際は十八だけどそれは男の時だし。
「いえ違います。私はメイドとして付いて行きます! アイリス様の御世話をするのに生徒の肩書きは邪魔ですからね!」
「う……私も護衛として見習った方が良いでしょう……。」
あっ、なんか王子が落ち込んでる。
「い、いえ! むしろ学内での護衛が必要ですので!」
「だな、私も一人では心細い。」
「!そうですか。では私は生徒として向かいましょう!」
……めっちゃ嬉しそうだな。そんなに学生が楽しみなのか?
そういう俺も結構楽しみなんだけどな、魔法学園とかあこがれるものがある。
「そうだ、マリアンナは国王から任命されたと言ってたな。それなら詳しい話を聞いてるか?」
「はい!今朝、アイリス様の了承を御伝えした際に聞かされてます。ですがその前に――」
うん?
「お食事に致しましょう!お食事もお飲物も冷めてしまいますよ!」
あぁ忘れてた。そういえば元々マリアンナが居るのは食事を運んで来たからだったわ……。
食事も済んで、改めて話を聞く。どうでも良いが飲み物は普通に紅茶だった。
「御待たせしました。それでは、国王様から拝聴した話をさせて頂きます!」
「はい……!!」
ふんす!と気合いを入れてマリアンナは話始めた。何故か王子も気合いを込めてるがツッコミ待ちかなんなのか。
「こほん。では!アイリス様の御入学についてですが、アイリス様はアルパインの貴族という建前で編入する事に成りました。入学式にはぎりぎり間に合わないそうですのでそこは御容赦を。とのことです。
学年は魔法修得の為に最低学年からの編入となっています。ジョセフ様も同様です。」
アルパインとはこの大陸の三大国の一つだったか、でも勝手に別の国の貴族だと名乗っても良いものなのか?
「ふむ、私のプロフィールについてもっと詳細を聞いてもよいか?」
「はい♪ アルパイン国のブリタニア伯爵の次女という設定です! 領地の設定はしていませんのでそこはお好きにとの事です。
編入理由は国家間の親睦の為ですね。道中トラブルがあり、入学式に間に合わなかったということになってます。王子はそのついでに、視察を兼ねての編入ということに為りました。」
なるほど爵位としては無難で、次期当主には成り得ない立場、領地については俺の常識とずれがどの程度か分からないから、下手に誤魔化すよりも故郷の事を話すのが良いと。
大方アルパイン国の貴族にしたのも単に遠いから誤魔化しやすいからなんだろうな。
「了承した。文句は無いが、一つ気になった。私の年齢はどうなってるんだ?」
「そちらは平均的な入学生の年齢、十五才に為ってます♪
とりあえず誕生日は未定にしてますが、そちらはどうしますか?」
「うぐ……。」
……どうするか、いやせっかくだし任せるか。
名前も性別も変わったし前の誕生日のままなのもなんだしな。
王子はスルーだ。大方年齢でダメージ受けたのだろう、気にしても仕方ない。
「任せよう、好きな日を設定しておいてくれ。」
「畏まりました!縁起の良い日に設定して置きます♪」
異世界にも風水とかあるのかな?
「では続けますね♪ 御二方は成績に左右されませんし授業も受ける受けない自由です。もっと言えば上の学年に上がるのも問題ないです!」
いいのかそれ? 飛び級は王子はともかく俺は変に思われると思うが……。
「飛び級は変に思われないか?」
「大丈夫です!こちらで適当な理由を考えておきますので♪ 飛び級事態は、ままあって難しく無いです。むしろそれでアイリス様の成長の妨げになっては本末転倒ですしね!」
そんなもんか。編入理由からして王子の事を除けば俺の為らしいし、束縛はされないか。
「それはそうですね。私も王子として学生を続けれなくなる可能性は高いですし。少々小ずるい気はしますが妥当な判断かと。」
「有難う御座いますジョセフ様。そう言って頂けると幸いです。」
「ああ。だがそうなるとアイリス様の護衛はどうするのだ? 有り得ない話では無いし予防策が必要だと思うが。」
確かに。今さらだけど王子様が護衛とかするもんじゃ無いよな。普通護衛される側だし、何もなくても護衛一人とか辛いでしょ、ワンオペでずっと護衛はブラック過ぎるよ。
てか城ならともかく学園に行けば夜も護衛が必要だよね?どうするんだろ……流石に王子と同棲は嫌だぞ?
「そこは心配無く。王の息の掛かった者も多くおりますし、何よりバエルさんが居ますから! それに夜は防衛設備の整ったお屋敷を用意してます。夜警にはプロを何人か借り受けていますので、万全です!」
お、おう。思ったより厳重だった……。俺はてっきり寮生活だと思ってたが違うらしい。屋敷なら護衛が一緒に住んでても流石に気にならないしな。てかあれ?
「バエル先生も来るのか?」
「はい!そうですよ。バエルさんから聞いて無いのですか?」
「聞いて無いな。」
王子はどうかと視線を向けると首を横に振る。どうやら王子も初耳らしい。
「そうでしたか……でしたらまだバエルさんには連絡が行ってなかったのかも知れないですね。」
あー決まったの朝飯の時だしな、そういえば学園に付いて聞いた時も頓狂な反応だったっけ?
「いつ学園に向かうかは決まってるのか?入学式は過ぎると聞いたが……。」
「明後日の昼ですね!その日に御屋敷に案内する予定です♪」
……速くね?俺聞いたの今朝なんだが……。
 




