一日目 その三
少々遅れましたが、明けましておめでとうございます。
拙い作品ながらなんとか書いていきますので本年も宜しければお願いいたします。m(_ _)m
「さ~て!! 大会も一通り過ぎ去ってして二巡目だ!! 疲れてないか~!!まだまだいけるよな~~!!!?」
『『おお~!!!!』』
アンサムの疲れの見えない元気な掛け声で観客は拳を振り上げる! まるで、そのまま戦いに出るかの様な熱量、太陽が中天を過ぎようとも衰える事のない熱狂が会場中を沸き上げていた……!
「いいね♪ 飲み物は飲んでるかい? 食べ物もちゃんと食べてるか~? 売り子が回ってるからみんな随時補給してね~♪ ―――飲み!食い!騒げ!!!! まだまだいくぞ~~!!!♪」
『『うおおォ~~ーー!!!!』』
飲み物を、食い物を掲げ叫ぶ!! 司会のアンサムはいつのまにやら楽器を取り出し歌い奏でる。
「ラララ~♪ 選手入場~~!!!!」
拍手声援が鳴り響く舞台に、二回戦の始めを告げるが如く二名の戦士が悠然と歩みだした。
***
店店を見歩く最中、王子が足を止める。
釣られて足を止めるとどこか見知った顔の女性が店前に立っていた。見覚えはある気がするが誰だっけ?
「あれ、アスタロト会長?」
「あ、ジョセフ様。アイリスさんに学友の皆さんも。」
ああ、生徒会長の人だ。制服じゃないし学園の案内の時に一回会っただけだったからな忘れてた。
軽い疑問が氷解してすっきりとした表情をしていると、何やらふたりは仲好さげに雑談を始める。
「店番ですか?確か大会に参加すると先日聞き及びましたが?」
「そうですね……その予定でしたがどうもその、魔法生物は武器とは認められないと言われちゃいまして……。」
「……なるほど、それは災難でしたね。確か規定上、魔法薬や兵器、それらに類する物の持ち込みは禁止とされていましたので、その辺りに引っ掛かったのだと思います。ですが、せっかくの舞台がご破算になっては……その心中お察し致します。」
「ええ、そうなんです! 魔術起動型なら何とか武器として認められると踏んだのですけど、予想外に審査員の頭が固くって……!」
よっぽど悔しかったのか会長は大人しい感じから一変し、唇を噛み苦り切った顔をした。なんかもう遺憾!といった表情だ。
「ははは……。そういえばこちらは何を? 一見したところ販売店には見えないのですが……?」
これ以上触れては不味いと見たか王子は店の方へ覗き込むと話を変える。
話題変換も有るだろうが確かによく分からない店だ。後ろの方に鎧兜が並び立ち、かと思えば奇妙な四足のタコ?らしき像やなんか言葉に困る冒涜的な物体が置いてあったりする。
………もしや邪教の祭壇だったり? 会長、変な宗教にかぶれてたりするのだろうか? わりと真面目に恐怖を覚えるんだけど……逃げるか……?
「―――あははは! それは流石に失礼じゃない?アイリスさん。」
「―――!? びっくりした……!? 毎度言ってる気がするが唐突に心読んで話し掛けるなよ……。」
ジョンに連れられて、王子達からこそこそと距離を開ける。
「どうした? ……やっぱり何かまずい店なのか……?」
「違うよ!あれはただの展示品だしね。まあ見た目はあれだけどあれでも第四研究所発の、結構な技術の結晶なんだよ?」
なるほど、勝手な印象だが四は不吉だしな。うんうん、納得だ。
「………まあ、いいや。それよりアイリスさんあっち見て見て?」
「うん?」
指差す先を見ると、何やらワイルドな格好をした男性がピリピリした雰囲気を纏って歩いている。あっ、店前に出てた椅子に引っ掛かって怒りだした。
「あれがどうした?」
「なんとなくだけど、君があそこに居ると無意識に煽っちゃいそうだったからね。ほらアイリスさんマイペースだしさ。」
「……」
失礼じゃない? まあ、マイペースは……否定しないけど……。
「たまにアイリスさん意味わかんないし、一応離しとくのが無難かなって。」
「………それはどうも!」
まったく、人をなんだと思ってるんだ……?
そんな話をしてると、その男性は店の店員に絡みだした。店員は驚き戸惑ってるようでいきなりの理不尽に困り、涙目だ。
「……助けた方が良くないか?」
「止めとこうか、僕らが行ってもいい結果には為らないよ。」
気にした風もなく言い切る。確かに俺達が行ってもうまく事を纏める自信はない。それこそ火に油で店に余計迷惑になるのが落ちだろう。だが見掛けた手前、野次馬してるのはなぁ………。
「そんな気にしないで巡邏の衛兵にでも任せようか。ほら、噂をすればだよ?」
「――うん?」
促す言葉に顔を上げると、ちょうど鎧兜に身を隠した衛兵が店に駆け寄るところだった。
「おら!? なんとか言ったらどうなんだ! あ!?」
「えぇ!? ………いらっしゃいませ?」
「どうしたらそうなる!? 謝れっていってんだよ!!」
「はいぃ~! ……えと、なにを、ですか?」
「椅子が、邪魔だっていってんだろ!!!?」
「言ってないですよ……!?」
感情のまま怒る男と突然の出来事に混乱する店員。そんなカオスな状況に、衛兵が割り込んだ。
「ちょいとじゃまするぜ。」
「――あぁ?なんだてめぇ、今取り込み中……――げぇ、衛士……!?」
「あ、衛兵さん!」
兵士の登場に少し頭が冷えたのか男性は表情を固くする。
「おう衛兵さんだ、邪魔するぜ。お、焼きそばか?旨そうだ。お姉さん二つ、頼めるか?」
「えっ? ……あ、はい!かしこまりました!」
商品を用意しに向かう。出来合いの商品が合ったのかすぐに戻って来る。衛兵の男はそれを受け取ると男性に向き直った。
「な、なんだよ!」
「――ほらよ、ひとつ食いな! 苛ついてるんだろ、話聞くぜ?」
*
「……それが、その、金が無くてよ……。」
「なんでぇ、ギャンブルでもやってスったのかい?」
食べ物を口に入れて落ち着いたのか男性が事情をぽつりと話し出した。それを聞き衛兵の男は食べながらも箸を向け相づちを打つ。
「そんなんじゃねぇ。ほら、闘技大会?てのがあったろ? ……期待されて出て来たってのに一回戦敗けで文無しだ……。」
堰を切ったように話が溢れだす。滔々と語る口調からは悔しげな、やるせない気持ちが籠っていた。
話を纏めると、どうやら両親や友人に期待されてお金まで支援して貰ったのに初戦敗けをしたらしい。……どんまいである。
「災難だな。じゃお前さん、このあとどうすんだ?」
「……考えてねぇ。宿を数日分取ってるからそれまでは居る積もりだが……。」
「ほーん? じゃギルドでも行ったらいい。」
「ギルド?」
衛兵は懐から紙を取り出すとなにやら書き込み手渡した。
「ギルドってのはまあ、雑用をするとこだな。単純な手伝いから専門的な事まで登録すれば色々出来る。実力はあんだろ? それ持ってけば手続きが少し楽になっから持ってきな。」
「……助かる。」
「おう、気にすんな! 俺は食事ついでに少し雑談しただけだからよ。」
男はお礼を言うと善は急げとばかりに立ち上がる。そのまま駆け出そうとするが何を思ったのか立ち止まり、店員に謝罪し頭を下げた。慌てた風に店員が受け入れるともう一度頭を下げ、走り出す。
「――と、待ちな!」
「――おう!?」
衛兵の男が声を上げた。男は急に呼び止められて転け掛ける。
「今思い出したんだが、大会の参加費は大半が医療費だそうでな? 全額とはいかないがあんま怪我してないなら幾らか帰ってくるって話だ。もし勢い任せで飛び出して来たんなら戻ってみるのもありかもしれないぜ。」
「――っ! 恩に着る!!」
今度こそ走り出す。先程までと打って変わってその足取りに曇りはなかった。
……
………何を見せられてるんだ俺は? てかバエルだろ、あれ。
「牢屋も限りがあるからね、場合によって更正を促すのも衛兵の役割なんだよ?」
「……なるほど? どことなくからかわれた気がしないでも無いがそれを説明したかったのか?」
「………そうだよ?」
………絶対嘘だな、からかう目的だったのだろうがその目論見は成功だ。例えるなら遊園地の着ぐるみの中身が知り合いだったと気付いたみたいな……見てはいけないものを見た気分だよ……。
微妙な表情で鎧兜を見つめていると、どうやらこちらに気付いたらしく近付いて来た。
「ようお嬢、楽しんでるか? ……そんな顔じゃねぇな、どうしたよ?」
「いやなに、えもいわれぬ違和感に苛まれているだけだ。」
「ん?」
バエルは首を傾げる。
「なんでもない。それよりそっちは何故ここにそんな格好でふらついてるんだ?」
そう言うとバエルは兜の目元を押し上げ、じとーとした目を向けて来た。
「ふらついてるって……あのな、どう見たって警邏だろうよ? 人が足りないらしくてな、手伝いしてんだ。」
「ふむ。」
いっつもなんか手伝いしてんなバエル。
「――これはどうも騎士様、王子様もあちらにいらっしゃいますよ?」
「おう、学友か? そいや前にちらっと見たな、王子が世話になってるぜ! …………あ~と、これでも忙しくてよ、挨拶は止めとくわ。じゃあな楽しめよ!」
そう言うと駆け足で去って行った。慌ただしいな、あのバエルが忙しくしてるのは珍しい。本当に人手不足なのだろう。
「あはは! 大変そうだね騎士様も!」
「ああ、やはり人の流入が激しいと治安維持も手間なのだろう。それより、もういいか?」
「ごめんごめん、用も済んだしみんなと合流しようか!」




