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國取り勇者  作者: 朝方
地の矜持
73/101

一日目




 小さな村くらいならすっぽり呑み込めそうな程の広さを持った楕円形の建造物、今日この日の為に特設されたその巨大な闘技場は―――今、興奮と期待で満ちていた。


「さあ!! 日の出と共にはるばるやって参りましたソドム街外特設闘技場! 吹きすさぶ大いなる風の導きにより―――馳せ参じたのは腕自慢の勇敢なる戦士術師の錚々たる面々! 誰が勝ってもおかしくない歴戦の勇士達だ!! みんな〜ワクワクしてるか〜〜!!!? ヒュ~♪」


『『おおぉ~~!!!!』』


 青髪の男の指笛の音と共に、爆発したような歓声が上がる。果てなど無いとばかりに上がる熱気に控えの闘士は胸を昂らせ、自然と背筋を正した。


「いいね~♪ では、盛り上がって来た会場に! いま! 闘士たちの入場だ~~!!!?」


 万を越す期待の視線の先、会場に続くゲートの暗がりから続々と人々が見えてくる。緊張に愛剣の柄を撫でるもの、歓声に手を振るもの、拳を打ち付けるものとう老若男女すら様々だが、一つ、進む足取りにだけは同様に力強いものだった―――

 ずらり、会場の真ん中に百人を越す闘志達が並び立つ。


「歓声溢れる舞台の上に、今! 勇士達が出揃った~!! いったい優勝は誰の手に!?『ソドム総合術技大会』ここに、堂々開幕~~!!!♪


 司会進行はワタシ!歌う騎士団、そよぐ金風こと第三騎士団 副 団 長 アンサム・ドットがお送りしま~す!! ラララ~♪」


 進行など知ったことかと歌い出すアンサム、悲鳴染みた叫声を上げる観客に闘士に怒声の如き声援を送るもの。割れんばかりの熱狂を持って―――幕は開かれた!




 ***




 ……すごい音圧だな……。狂わんばかりの熱に圧倒されてしまう。後ろの方の席でこれだ、一身に浴びる参加者たちはたまったもんじゃないだろう。


「……想像の上を行く賑わいだ。バルクは大丈夫なのか?」

「だいじょぶです。」


 俺が心配の声を漏らすと、クズハさんが案ずる事もなくさらりと言った。バルクをよく知る彼女が言うならそうなのだろう。だが少なくとも自分があの場に居たら緊張で石に成っていたに違いない、本当に大丈夫なのか?


「そう憂慮なさらずとも、司会の男が()()()()()()()()を歌っていますから問題ないですよアイリスさ……ん。興行騎士の名は伊達ではないのですから。」

「なに?」


 ……あの歌って意味があったのか……ただのひょうきんだと思っていたのだが、音魔術的な? 流石は副団長という事か。てか、ん?興行専門の騎士……?


「いい歌だよね!」

「よく聞き取れるですね? アルシェ耳良いです。」

「! えっへん!」


 ……まあいいか、呑気なふたりを見ていると端で一喜一憂してるのがアホらしくなってくる。それも大会の醍醐味だと思わないでもないが気にして他が楽しめないでは本末転倒というものか。


「ここからは順番決めのくじ引きが行われるようですね。見ていきますか?」

「やめとくです。時間掛かるですし、こっからは出店を回るので!」

「まつり!」


 王子の問いにアルシェが即答する。ここからは参加者が一人一人くじ引きをして控えから出てきた巨大トーナメント表を完成させるらしい。見たところ最初から名前のある人物もいる。恐らくだが明らかに強い人は何人か端に別けているのだろう、シードというやつか?

 それならすぐにバルクが負けるということはないだろう。百何人の知らない人がくじ引いてるのを見るのは面倒だし、昨日聞いた感じ何やら会場外でも色々やるらしく、俺も結構気にはなっていたんだ。


「それじゃあ行くとするか、バルクには少し悪いがな。」




 *




 会場を出ると、この為に切り開いたであろう広間に所狭しと店が出されていた。縁日を思わせる顔ぶれだ。歩きながら食べられる簡素な飲食物を中心に小物屋やくじ引きに的当て、無人のステージにお化け屋敷のようなものまである。昨日は準備中だったそれらが彩り鮮やかに賑わいを見せていた。


「まずはどちらに行きましょうか?」

「「ご飯系!」」


 アルシェと異口同音に口を揃える。どうせならこっちで食べたいと朝食を抜いてきたんだ。こうも美味しそうな匂いに包まれて他を選ぶ道はない!


「あはは、そうですね。私もお腹が空きました。ジョンたちとの合流まで時間もあります、先に頂いてしまいましょうか。何か気になるもの等ありますか?」


「そうだな――「甘いの!」……甘味寄りで食べ堪えのあるものが良いな。」

「でしたら、キマイラステーキの屋台が出てたと思います。」

「! いいですね!」


 ……なんだそれ??? ステーキ?甘味なん?? どっかで聞いたことある気もするが……まあ、皆乗り気だし変に毛嫌いはしないが……。


「アイリス?」

「……ん、いいと思うぞ?」


 とりあえず行ってみるか。



 鉄板の敷かれた屋台で、何やら緑色の固形物が焼かれていた。昔テレビで見たサボテンステーキにも見えないことはないがキマイラの名前からどうしても動物系の肉をイメージして不気味に感じてしまう。匂いは悪いものでは無いのだが……。


「おじちゃん、よっつ!」

「あいよ、ちょうど出来立てがあるぜ!」


 店主は会計するとすぐに商品を紙の皿に取り上げ、香辛料をひと振るい、さじと共に提供してくれる。


「熱いうちに食べな! あとのゴミはそこらにあるゴミ箱に頼むぜ!」

「ありがとうございます。」


 王子が受け取り皆に分配してくれた。今回の支払いも王子持ちだし、ひとりだけ男なだけあってエスコートは万全らしい。……というかさじで食うのかこれ……。

 あまりに主張してくる緑に思わず周りを見渡すが皆特に何事もなく食べている。ええいままよ……!


「はむ。」


 さじを向けると抵抗少なく突き刺さる。そのまま掬い上げ一息に頬張った。


「むぐ!?」


 口内を想定外の甘味が襲う。甘いとは聞いていたが正直アボカドくらいの味と想像していたせいかギャップでむせそうになる。


「……いや、でも案外と……。」


 悪くない。慣れてくると色目なく味わえる様になると癖はあるがそれが気持ち悪くなる範囲ではないことに気づく。近いものに無理矢理例えるのならばバターみのあるプリンだろうか? ねっとり胃に重そうな食感にくどさのない甘味が合わさり――意外と旨い。


「……初めて食べたが美味いな。正直この場で食べなかったら見た目で疎遠にするところだったぞ?」

「それは良かった。こちらは街の名物の一つですから、気に入って貰えたのなら幸いです。」


 研究所産ってこと? ……まあキマイラだしなぁ。



「――そう、甜牛っていう甜菜ばかり好んで食べる牛がいてね? それを量産できる様にあれやそれやした結果がこの肉だよ。キマイラっていうのは自然ではない生命の総称、って感じかな?」


 食べながらそこはかとなく思考を巡らせていると、突如後ろから説明をされる。


「……ジョン、あいさつもなくいきなり心を読んで解説をするんじゃあない……。イストも一緒か、早かったな?」


「まあね、思いの外イストの仕事が早く終わったんだよ。」

「おまたせ~みんな~。うん、ジョンが手伝ってくれたからね~助かったよ~!」


 イストの家はかなりの大店で、彼自身手伝いをする事が多いらしい。聞けばこの大会の食料品の大半に関わってるとかなんとか。


「良かったふたりとも来れて! ご飯はたべたの?」


「やあ委員長、ご飯はまだだよ? 仲間外れは寂しいしせっかくだから同じのいただこうかな? イストもそれでいい?」

「うん~これ好きなんだよね~♪」


 いつの間に食べ終えたのか、委員長が率先して購入しに向かう。流石委員長、良く気が付く人だ。



「それで、どこから行くとかあるのかい? 確か昨日下見してきたとか聞いたけど?」

「特に無いですね。準備中でしたし、クーポンを貰ったので幾つかは顔を出す予定ですが決まった順路とかはないですよ。」


 品が来て、皆で食べ終わるころにジョンが切り出した。


「そうだな、景品形式の店なんかは日毎に品を変えると聞いた。広く丸く見るで良いのではないか?」

「アイリスさんは挑戦系のお店が良いのかな? 私は、ほら、先生も言ってた展覧会?を見てみたいかも。」


 ほう? ああいうものって学校の文化祭とかにもあるが、何となく観ちゃうんだよなぁ。


「ごはん!」

「食べ物屋もいいよね~、やっぱりこういう時に食べるのは同じものでも趣が違うんだよね~♪」

「お二人は食べ物ですか? 良いですね、口慣れない物が多いので私も正直興味があるんですよ。」


「ふふん~では~おすすめを紹介するよ~!」

「是非にとも。」「やったー!」


 ということで、みんな一緒で適当に歩く事になった。



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