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國取り勇者  作者: 朝方
地の矜持
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ガーベラ




 青空を見上げ黄昏る。漏れ聞こえる戦闘音?は、ちょっと何がどうなってるのかわからない位無茶苦茶だ。地鳴り、水音、雷鳴、平時ではそう聞く事のない災害の音がところかしこから聴こえてきて、肝を冷やす。


 “ああ、なんで自分はこんなところに居るんだろう……?”


 ジン・グラシャは現在、怯えに瞳を震わせて空をなんとなく見上げていた。

 元来彼は小心者だ。魔術学園に入学したのだって父の仕事――軍務に関わりたくなかったから。魔術も危険な部分はあるが、もし学術校に入学していたら自分は周りに押され、なし崩し的に軍務系に進んでいただろうと考えたからに過ぎない。


 ……それなのに何故、彼は交流戦の指揮官なんて引き受けたのか―――



 ―――それはひとえに()()()()()からだ。


 唐突に空へ雷電が打ち上がった。立ち上る残光にジンは眼を焼かれ―――幻視する。




 *




 ――――星を見た。


 大地に伏せって、動かない体に苦しんで―――そんな僕らを救う星だ。



 凶悪な火の星が、その星を呑み込もうと迫る。まるで火之神が住まうかと見紛うばかりの大星だ。小さな輝きなど、邪魔だとばかりに迫って行く。


 対する星は矮小だ。大きさなど比べるべくもない矮躯、だけどその輝きは一等で――――遂には火の星を切り裂いた。



 僕は忘れない――忘れられないんだ。あの輝きを、瞳に残る残光を――――彼女に助けられた現実を!!! 傷付きながらも良かったと笑う彼女の笑顔を!!!!




(魔術の腕も、地頭も良くはない)




 僕は弱い。




(度胸も勇気もない)




 戦うのが嫌で、それを見るのも億劫で逃げていた。




(身体も動かせず縮こまるだけ)




 でも救われた。助けられた。なら、それ――なら……!



()()()()()()……!)



 助けてよかった。いつかそう思ってもらえるように、そうなるまでは――――!




(負けられないんだ!!!!)




 地から腰を上げる。依然として手足は怯え震え続けていた。だが――瞳はそれ以上に熱量を湛え燃えている。


「……情けないですね、本当に。」


 胸の淀みを吐き出す様に長いため息を付くと、落ちた眼鏡を拾い埃を払う。魔術の触媒が確かに指に付いているのを確認し、いまだ鳴り響く戦闘音、そのひとつに足を向けた―――弱音を払う、その為に。




 *




 細剣が、短剣が、手が、足が乱舞する。それはまるで岩壁に穴を穿つかの如くだ。彼女の身を纏う土鎧を斬り、抉り、剥がし、打ち砕く。アイリスは防戦一方、土鎧の修復に全力を尽くし動けないでいた。


「(好き放題殴りやがって……!! 土の塊だからってサンドバッグじゃ無いんだぞ!?)」


「くぐもってちょっと何を言ってるか聞き取りづらいですね? 一旦そこから出るのをおすすめします、よ……!」

「ぐっ!?」


 装甲の薄くなった鎧の腹部を狙って鋭い突きが放たれる。魔力が込められたからか何なのか、剣の軽さに似合わぬ重い打突が土鎧に突き立った。そのあまりの威力に、重厚な土鎧を纏っているにも関わらずアイリスの足は宙に浮かぶ。


 ……これで獣化縛ってるとか嘘だろ!? アイリスはヤバいと感じ反射的に剣を頼るが、何かに引っ掛かり右腕が動かせない!?


「しまっ――!!?」

「手強かったですが、これまでです。」



 軽い衝撃が腹部を襲う。短剣が投げ放たれ、狙いたがわず刺し傷を穿ったのだ。見事な投擲術、次いで狙い放たれた蹴り足が短剣の柄を金槌の如く蹴り付け―――短剣を()()()()()……!

 火薬か何かでも仕込まれていたのだろう。刃先が土鎧の内側から爆ぜて、アイリスは身体を大きく吹き飛ばされる。


 ……だが、アイリスもただやられっぱなしでは無い。吹き飛ばされながらも空中で体勢を立て直し足から着地する。更に足先の土を地面と固着させ転倒を防ぐと魔力を即座に循環させ装甲を修復させた。



「あれ?魔道具が起動しない? おかしいですね、威力を見誤りましたか……?」


 訝しんで様子を伺うプルトに、アイリスは感情の籠った強い瞳を向ける。


「………ずいぶんと、好き勝手にやってくれたな……!」


「嫌なら降参を勧めますよ? 魔力切れは辛いでしょう?」

「―――ぶっ飛ばす。」


 胎動させた過剰な魔力の影響か、アイリスの耳に薄い風切り音が聴こえた。気にすることもなく怒りと魔力を荒だたしく連動させ、()()()()()と足下に叩き付ける――地面が大きく盛り上がり小さな丘を作り上げた。隆起した大地に切り弾かれ地を這っていた銀線――()()が引きちぎれ宙を跳ね飛ぶ。


「――っ!」


「『大王土(サンドマウンテン)』――近距離は不利、離れても詰められる―――なら、上を取るだけだ!」


 樹木を上回る程の上空からプルトを見下ろす。ここなら走り詰められる事もなく距離を開けられる。準備は万端、ここからは魔術校の学生らしく遠距離戦と行こうか?



「次は俺のターンだ。一方的に攻撃するが………文句は言うなよ?」


「…………ええ、文句はないですよ。正々堂々と――――逃げさせてもらいますので……!」


「………え?」


 背を向けプルトは躊躇なく走り去る。流石の拙速だ、瞬く間に背中は森に消えていった。



「……………え?」




 *




 森を何か大きなものが引き摺られるような、地滑りのような音が鳴り響く。音を元を探すと細長い巨大な影が縦に伸び、おぞましい事に砂を撒き散らしながらうねり、爆走していた。



「………!? なんでそれごと動けてるんですか!??」



 よくよく見るとその先には小柄な影がある。可哀想な事にあの化け物に追われてるらしい。



「やったら出来たんだ! それよりなんで逃げる!?戦え!!」


「嫌ですよ!! 気持ち悪い!!」

「気持ち悪い!???」


 武術の指揮官が心底嫌そうに言い捨てると、ショックを受けたようにその塔?の動きが止まる。しばしそうしてると、突然先程を上回る速度で動き出した。



「それはないんじゃないか!!? 人の切り札をそんな言い方はないんじゃないか!? これはお詫びに戦うしかないんじゃないか!?!?」


「恩着せがましい!? 嫌ですよ! 獣化も無しにそんなきもデカイの相手してられませんって!! もしうっかり一撃食らったら連帯責任で敗北なんですよ!? それなら魔力切れで倒れるまで逃げてやるまでです!!!」


 嫌そうに顔を歪めながらも強い意思で宣言し、足を速める。


「一日中追いかけっこしても私の魔力は尽きないぞ?」

「化けもんですか!!?? ああもぅ尻尾に砂が付く、近付くな!!!」


 プルトは走り抜けながら木々を細剣で切り裂く、おまけに剣先に取り付けられた鋼糸を絡み付けると、天高く放り投げた。勢い良くアイリスまで迫るが、あと一歩届かず土砂の塔に呑まれていく。


「こんの、化け物! 少し位効いててくださいよ!?」


「はっはっは!! どうしたどうした!! こうなったら自棄だ。地獄の果てまで追い掛けてやるぞ!!」

「本気で言ってるんですか!?このサンドワーム!! ああもう、何か打開策は……!」


 プルトは直感的に《離間》に似た歩行術を使うと、瞬時に横方向に移動する。アイリスは見失ったのか少し迷い動きを止めるが、すぐに方向転換すると追跡を再開した。




 ………




「………え、何ですかあれは……?」


「ん? 属性魔装だろ? お嬢、練習してたのは知ってたが使えるようになってたんだな……。」


 軽い頭痛を感じて、鏡から顔を上げ額を押さえる。思わず口を付いた言葉に反応しバエルが簡単な感想をしみじみと述べた。

 ……そんな、当たり前みたいに言われても……。


「確かそれはかなり高等技術では……? いつの間にそんな………というかあの姿は一体何なんですか……?」


「知らねぇ、お嬢に後で聴いてくれ。」


 バエルは興味無さげにばっさりと切り捨てる。愕然としていると、それを哀れに思ったかアルバート教諭が話に入ってくれた。


「横合いから失礼します殿下、属性魔装は習得条件が困難ながら利便性の高い術でございます。魔術をより深く扱えるといいますか……。ですが、反面()()()()()()ので精密な操作は困難となります。」


「………ふむ。」


 魔術においてやり過ぎるのは危険だ。自己の魔術ならばある程度の弱体化は可能だが所詮それはある程度でしかなく、あの身を包んでる土鎧ですら窒息、圧死の危険性が高い。

 足場の塔が無駄に高いのも、魔術の操作性のもたらす結果なのだろう。ずいぶんと奇妙に思えるがあれで最適なのかも知れない。



「へっ、考えすぎだぜ王子! お嬢は器用なとこあるがその実内面は適当だ。考えてるように見えて基本場当たり的に動いてるからよ。一応は持ち前の器用さで取り繕えてるんだがあれは真性の脳筋だぜ? むしろ最初から考え無いで直感で戦う方が強いまである。」


 ……それは流石に言い過ぎではと感じますが……? と、言ってもバエルの教育眼は大したもの。教え方も実践式が基本ですし、案外的を得ているのでは……。


「……バエルさん、師弟なのは存じてますが流石にそれは失礼では? ……確かに彼女の座学は振るってないですが、それは他大陸出身なのを鑑みればよくやってる方だと思いますよ?」


「……あー……まあそうなんだがよ。言い方は悪かったがお嬢はがんばり過ぎってか……向いてないの位手を抜いても良いんじゃねぇかってな………やめだやめだ! ほら、鏡見ろ王子!なんか動きがあるみたいだぜ!?」


 促されて魔導鏡を覗くと、丁度状況が変化する所だった。



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