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國取り勇者  作者: 朝方
地の矜持
62/101

激突





 不意打ちと罠を警戒しながら木陰から飛び出す。邪魔な草に顔をしかめて切り払い、視界を広くすると少し驚いた様な視線を向けられた。


「あれ、ちょうど探すところだったのですが、手間が省けて助かりました。確かアイリスさんでしたか?」


「ああ、そうだプルト・ガンド。身を潜めて居たんだが、お前を見掛けてつい、な。これで私は負けず嫌いなんだ。」


 抜き身の剣、願掛けも兼ねて訓練にも使う刃引きの剣を手に歩く。目的はあくまで時間稼ぎだが、今言った事に嘘は無い、そろそろ俺だって勝ち星が欲しいのだ――――それが今なら望むべくもない。


 カッコつけて出てきたが、要はただの欲に溺れた功名心だ。負け続けるのは飽きたんだよ。この敗北の連鎖を断ち切るのに、お前はこれ以上ない相手だろ……?



「それはそれは、気が合いそうですね? ボクも負けるのは嫌いなんです。あっ、あと何人か隠れてたりしますか?」

「――ああ、沢山居るぞ? だから、存分に警戒するといい。」


 左手の指環――魔術の触媒を確認する。魔力弁を軽く捻り、魔力を流す。魔力は指環をすんなりと通り抜け、魔力の性質が変わったのが肌を伝う感覚で分かった。


「そうですか。それなら、あなたを倒した後、残党狩りと行きましょう!」


 彼は腰に下げた細みの剣を抜刀すると数度振るう。調子を確認したのか、右手側に隠すようにして引き構えると、その身から強者独特の圧迫感が放たれた。

 おそらく魔力を纏ったのだろう。こちらも負けずと()()()魔力を身に宿す。


「ご託は勝ってから言うんだな。でないと、負けた後に恥ずかしいぞ?」


「では、ますます負けられませんね。本気でいきましょうか―――?」


 好戦的な笑みを浮かべ、速攻を仕掛けて来る!

 身を伏せ、低い位置から放たれた鋭い刺突を半身で避け、空を泳ぐ細剣に力一杯剣をぶつけ、強く弾く。


 ……軽い、剣同士に重量差があるにしても手応えが薄過ぎる。流されたなこれは。


 プルトは弾かれた勢いを捻転させ、くるりと一回転、速度の乗った突きを繰り出す。間一髪剣で防ぐが、続けて連続突きを仕掛けて来た……!?


「ちっ、すばしっこい!!」


 鋭く速いが、その分威力は弱い為防ぐのはわけない。だが段急ある連撃に翻弄され身動きが制限される。これでは反撃など望むべくもない、戦闘の主導権は完全に相手側に奪われてしまっていた。

 逃れ出るには、後ろに下がれば良い。だが――――


 ……昨日はそれで負けたんだよな……。


 考えてる間も攻撃は続く。プルトが左右に移動し、または前後に距離感を変動しながら放つ剣線や突きは、俺から慣れというものを引き剥がし責め手を読ませてはくれない。

 戦い慣れている。俺は完全に相手の手のひらの上、まな板の鯉状態だ。その凶刃を受けるのは時間の問題だろう。


 ……だったら、敵の魔術(なれてない)ものを使い逃げれば良い。


「“()()()()()() ()()()()()()()() 泥人形(クレイロック)”」


「―――なんだって!?」


 足元から土が溢れると、()()()相手を呑み込もうとする。プルトは即座に下がり逃れたが、俺はそのまま呑み込まれた。


「……多属性使いとは思いませんでしたが、自滅……?」


 対戦相手が、土に呑まれるという珍事に困惑しているプルトに………隙ありと()()()()()



「―――っ!? 怖っ!?」


 プルトは、もはや本能的とも呼べる程の見事な反射神経で飛びす去り剣撃から逃れた。


「《土着物(クレイスーツ)》 怖いとはご挨拶だな、繊細な乙女に対して失礼とは思わないのか?」

「……それが貴族淑女のドレスなら、ボクは国を出る事を考えますよ?」


「……まあ、確かに。」


 手を見ると、見事に土の塊だ。出来の悪い土人形、これが沢山居るパーティーホールを想像すると………出来の悪いホラーみたいな風景だな……。


 まあ、見た目はともあれ、これが俺の切り札、約一週間の成果《()()()()》だ―――――




 ***




 バルク達を連れてきた訓練の後、呼ばれてベネの元を訪れる。

 どうやら教える魔術を選んだらしく、適性を確認したかったらしい。その魔術というのが―――


「属性魔装?」


「そうですアイリス様。なの通り、本来は無属性の魔力を使う《魔装術》を、()()()()()()()()()()()()行うというものです。」


 相変わらずの包帯男――ベネは表情をにこっと歪めて楽しそうに言う。ここで言う触媒とは、十中八九属性魔術を使う為の触媒、つまり学園で配られた指環だろう。だが、それで魔装術を使うとはなんだ? 手間が増えるだけだと思うが……?


 疑問が顔に出てたのか、一つ頷くとベネは話を続ける。


「アイリス様も知る通り、本来属性魔力は身体に毒です。生物は全ての属性魔力から出来てますからね、そのバランスを大きく崩す事は自殺行為に他ならない。」


 ……知らなかったが? 似たような事を習った気もしなくもないが、それは単に属性適性の話であった筈だ。


「………続けますね? 普段魔術を使ってても少量の属性魔力を取り込み、体調を崩す事もあるそれを、わざわざ使うのはもちろん理由があります。」


 少し困り顔をすると、ベネはそう続けた。


「というと?」


「それは――魔術操作性能の上昇と、魔装術と魔術の併用性の向上です。」


 なんか凄そうだな。


「ええ。例えば火の属性を纏えば、()()()火の中を歩けますし、身体中から火を出せます! 使い方を例にするなら、強力な魔術を放った先に突撃して近接を仕掛けれますね。使い勝手は微妙そうですが、火で象った武器を振り回したりできるでしょう。」


 それはロマンだな。火の剣とか格好いいし、それに背中とか足から火を出して加速するのもありだな。是非にとも習得してみたい……!


「……急にやる気になりましたね? 良いことです。

 出来るかどうかは適性次第ですが、おそらくアイリス様なら可能でしょう。……ただ、危険性は高い為、魔力量を調整しつつ、数日掛けて適性を見ていきましょうか。」


 まあ、そうか……時間を掛かけてでも絶対に習得しよう……!


 今日はもう遅いためここで解散だ。適性検査くらいしたいが、明日も学園があるため仕方ない。だが、明日からはもう少し本格的に教われる事になった。



「最後に一つ聞きたいのだが、直近の交流戦におすすめの属性はあるか?」


 これは聞いておきたかった。後数日しかないが使えるものならそこで使いたいし、その方がやる気が出るというものだ。


「それなら土が良いかと。取らぬ魔物の皮算用となりますが、他の“属性魔装”では仲間を巻き込み兼ねないですし……まあ岩場ですからね。」


 ………土か、地味だな………。




 ***




 ……自傷扱いになるかは心配だったがうまく行って本当に良かった……。


 “属性魔装 土”《土着物(クレイスーツ)》は、平たく言うと体表面で魔術製の土を操る魔技だ。それだけなら弱いかもだが、“属性魔装”の特性で、武器魔装の様に()()()()()()()()

 極めればそれこそ、とてつもない習得難易度の魔術である、オリハルコンゴーレム以上の硬度と持続時間、汎用性をあわせ持つ事も()()()可能らしい。


 ………初めて出来た時は嬉しかったなぁ~。まあ、見た目で喜びも吹っ飛んだケド………。


 少し過去に思いを馳せたが、気を取り直して相手に意識を戻す。プルトはどう攻めたものかと困っている様子だ。

 ――今が好機と斬りかかった。


「! 思いの外素早いですね!?」


「遅かったら意味ないだろう?」


 少し動きにくくはあるが、足先の魔力を流動させ、地を滑る様に移動する事で補い、速度重視の斬撃を繰り出す。避けられた。

 続けて腕の土を吹き飛ばす。これは決まると思ったのだが小器用に躱される。


「“土よ呑み込み 集え《土球(クレイボール)》”」


 剥がれた土を補充がてら、土を手のひらに集めると全力で投げ放つ。


「……動きはそれなり、修復は容易、遠距離攻撃も出来る。ですが、それだけですね。練度が足りてない――」


 高速で迫る土球を、無残にも一振で消し去ると、疾走し突っ込んで来る。


「《土流徒(クレイフロー)》」


 土砂が溢れさせ、俺達の間を塞ぎ止めた。視界を奪う程の土煙が副次的に立ち上がり、数秒だけ辺りを汚す。



「いちいち邪魔くさい……!!」


 だが、プルトにはその程度の目隠しや土砂など通用しない。速度を落とす事なく走り抜け―――そこには誰の姿もなかった。


「! どこに!?」


 見渡すが姿どころか分かりやすい痕跡すらない。隠れたにしても、そもそもそんな時間はなかった、足を緩めず駆けて来たのだから。


 だとするなら必然的に―――


「土砂の中?!!」

「正解、だ……!《土球(クレイボール)》」


 土の()()()()()()()、土球を投擲する。それも出来る限りの数を連続でだ。この状態(属性魔装)なら、ある程度魔術の構築を省略出来る!その分少し小さいが、当たればそれで勝利だ!!


「とったぞ……!!」


 無数の土球がプルトに迫る。所詮土なので威力は微妙だが、当たれば俺の勝ちだ。振り向いたばかりの状態では全ては流石に対象出来ないだろう、切り払うにも限度がある。


 ――よし……!!


 どんどんと土球が迫っていき、勝利を確信した。その瞬間、全ての土球が()()()切り裂かれた。

 キラキラとした土の残骸が無力に宙を舞う。


 ……………え?


 思わず手を振り上げたまま固まる俺の耳に、いやに大きくため息が聴こえてくる……。


「………少し、いや結構嘗めていたようです。昨日勝ったからといって、少々手を抜き過ぎてました。―――謝ります。貴女は手加減して勝てる相手では無さそうだ。」


 そう言うと、今まで空いていた左手に、短剣――おそらくは投擲用の物を――持つ。

 そして流れるような所作で()()()構えた。


「それでは存分に、手を尽くしましょうか。」


「………勘弁してくれ。」


 おそらく土球を落としたのは、あの短剣ではない。かといって右手の細剣でもないだろう。つまり、短剣以外にも後一つは隠し技を残している訳だ。全くもって器用なやつである。



 ………俺は正直ネタ切れだぞ……?



 土かぶりで顔が見えないのが幸いだった。もし見えてたのなら、感情が顔に出やすいらしい俺の事だ。これでもかと表情をしかめてただろう。


「………そろそろ昼時だな。そうだ、ご飯が食べたくならないか?」

「……? ご安心を、先程頂きましたので。」


「…………そう……なら安心だな、うん。」


 ……そういや、関係ないかもだが後どのくらい時間を稼げばいいんだ? そろそろ厳しいんだが!? 援軍はよ……!!





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