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國取り勇者  作者: 朝方
地の矜持
61/101

相対




 僕の種族である犬の獣人に限らないが、獣人には始祖が同じでも()()が別れる事がある。代替わりの変化かもしくは近似種の影響か、ともかくとして産まれから“差”があるのだ。


 簡単に分けるなら大型種、中型種、小型種。それ事態はなんの問題もない。だが――――


(能力が同じなら、当然()()()()()()()。)


 強きを尊ぶ獣人だ。始祖を崇める獣人だ。その程度が大きな“差”になる。どだい産まれから不利なのだ。だが、それでも――――


(諦めたくない……!!)


 大きいから強い? なら小さい方が強いと認識を()()()()()、僕はその為にここに、この街に来たんだ……! だから……!!



 ―――霧から少女が二人現れ、片方が雷槌が引き抜く。昨日の戦いを鑑みるに相手の主力だ。指揮官を直接狙いに来たのだろう。


「隊長ぉ……!?」

「大丈夫です……! こちらは任せてあなた達は拠点に集中して下さい……!!」


 既にグリムとヴラドが戦闘に移ろうとしている。―――なら大丈夫だ。集団で叩くより挟み撃ちを避けるのを優先させるべきだろう。

 この交流戦は僕の目的の第一歩、強者の定義を塗り替える前準備だ。敗ける訳にはいかない……!故に――だからこそ――――!



(悪いけど、勝ちを譲って貰おうか?――――)



 仲間達は雄叫びを上げ敵拠点に突撃する。それと同時に魔術が声を打ち消すかの如く飛び迫り―――――闘争が開始した―――――!!




 *




「『雷火』!」

「―――むん!」


 雷槌から紫電が迸りヴラドを穿たんと迫り―――棍棒の一線で凪払われる。

 次いで振るわれた棍棒を雷槌が受け止め、紫電を撒き散らし鍔迫り合った。


 大男が大きな棍棒から繰り出す重撃を、幼い少女が細腕で振るう小ぢんまりとした小槌が抑えているのは異常な事に他ならないが。小槌から飛び出る紫電がその槌が強力な魔術の産物であることを、自然を覆す異常な物体であることを示していた。



「……見事だ。」

「すごいね! おじさん!どうやって避けてるの?」


 アルシェは踏み込むと軽い足取りと手練で二度三度槌を振るい攻撃するが、棍棒に受け止められ槌を纏う電流もその肉体を()()()横に逸れるのみである。


「……牛の種族、その始祖は雷を纏い操ったという。既にその権能は血統から失われて久しいが―――技は連綿と継承されて来た。」

「?」


「…………相性が悪い、という事だ……!」


 ヴラドは弓なりに腕を引き絞ると、大気が唸る程の強烈な叩き付けを放った……!


「!《雷身》」


 瞬間的に魔力を脈動させ、加速し身を引き逃れる。追って棍棒が地に叩き付けられ、地面を放射状に抉り砂混じりの衝撃波を生じさせた。

 風圧に煽られ、アルシェはあわや転げそうになるが近くにあった木を支えに転倒を防ぐ。


「おっととと……!」

「――《放雷》放つ打撃は雷の如き速さと広がりを持つ牛の技、防いだか。」


 凄まじい威力だ。地に刺さる棍棒を中心に数メートル程は地面が窪み抉れ吹き飛んでいる。

 もし知らぬ者が見たのなら、隕石でも落ちたのかと見紛うだろう―――そしてその中心に動じる事もなく立つ男を見て恐怖するのだ。



「うしのおじさんすごいね! じゃあつぎは、ちょっとつよめでいくよ?」

「ふ、ならば来るがいい―――!」



 これが本来と言わんばかりに紫電を迸る小槌――雷槌が振り上げられ棍棒と激突する―――片方の物だけではあり得ない強大な電撃が中空に爆ぜ、地を焼き焦がす。


 大人と子供、それ以上に身長差があれど奇しくも雷の技を持つ実力者同士――竜虎が相打った―――!




 *




 白い飛沫を撒き散らし、銀線が水波を斬り飛ばす。追って放たれた火球を斬り返しの風圧で吹き逸らした。

 心臓の鼓動を落ち着ける様に残心する。


 場所は少し変わって森の奥、グリムに対し()()()()()()()の二人が対峙していた。


 移動しながらの戦闘で他のみんなからはかなり離れているが、それでもなおも聞こえる破砕音にグリムは口元を歪める。



「――っと。はっ!あっちは随分派手だな! ―――こっちもいい加減身体温まっただろ? んじゃそろそろ愉しくいこうぜ―――?」


 グリムはそう言いニヤリと嗤い掛けると、大鎌を軽い物でも扱う風に持ち上げ―――ぶん投げた。


「―――!? 無茶苦茶、です……!?!?」


 まさか、主武器を手放すとは想像もしていなかったクズハはグリムの奇策に驚愕し、一瞬意識を奪われ動きを強張らせてしまう。


「――“火よあれ 南方より出でて 彼方からの悪意を燃やせ『火扇!』”」


 虚を衝かれ、万事休すに陥ったクズハの横を、()()()が放った扇状の炎が通り過ぎる。彼の全身全霊、これ以上は無理と言う程高速で編んだ渾身の魔術は、迫る大鎌を捉えぶつかり逸らした。


「――ぜぇ、はあ! 油断、し過ぎだ……!」

「――バルク! 助かったです!! ―――っ!『水手裏剣』」


 残火を切り裂き尖った木の棒が飛来する。しかし今度はクズハがしっかりと認識しており慣れた魔術で迎撃した―――だがそれを隠れ蓑にグリムが迫る。


「はははっ!しゃしゃり出るじゃないか、しっ………あーー()! ―――活躍出来ただろ?そろそろヤられとけ――!」

「男!? な――まえ、くらい、覚えとけ!! バルクだ!!」


 グリムは逆手に枝を持ち、まるでそれがナイフであるかのように数度振るう。恐ろしい速度の連撃だがバルクは意外な程身軽に避けると、触れ合う程の距離で名乗りを上げた……!


「……じゃ()()()、お前邪魔だ。そろそろ終わっとけ?」

「―――らあっ―――!!」


 バルクの顎を狙い蹴りが迫る。さっと首を反らし躱すと反撃の横蹴りを繰り出そうと―――グリムが嗤った。


「――埋まっちまえ《蛇縫》!!!」


 バルクの蹴り足を逆に狙い、禍々しいまでの魔力が乗った踵落としが落とされる!


「―――避けるですよ!!」「ぐえっ!?」


 間一髪、距離を縮めていたクズハがバルクの首根っこを引き攻撃範囲から離脱をはかった。ぎりぎりで目論見は成功して、グリムの魔蹴りは空を裂き地面に突き刺さった―――地が揺れる。



「クズハ、助かった!」

「はいです! 前に出過ぎですよ? ここからはふたりで一緒にやるです。」


「! おう!!」


 確かに少し焦っていた。バルクはそう非を認めるとグリムから距離を開ける。


 クズハが後衛を勤め、バルクが前衛に立つ。これが戦い慣れた()()()()立ち位置だ。


「ひゅ~妬けるねぇお二人さん。ひとりほうって置かれるのは寂しいぜ? ―――――オレも混ぜてくれよ?」


 いつの間に拾ったのか大鎌を構えたグリムは、禍々しい威圧感を噴出させ、()()()



「「お断りだ!!」です!!」

「ははははっ!! 残念だ!!」


 三者共に身構える。魔術生側の最強組と武術生側の最強、一対二の状況ながらそれを不利とは感じさせないグリムに狂笑を、負けじとばかりにクズハとバルクは二人分の強い意思の籠った瞳で睨み付け対抗する。


 ひりつくような戦闘前の特有の空気が辺りを包み込む。……凍えるようなそんな雰囲気の中、相反するように双方の戦意は燃え上がるように上昇し、臨界に達すると同時に静寂が切り裂かれる―――今ここに、双方の最強が激突した――――。






 ***






 …………どうしよう?完全に想定外だよ?


 クズハさんの魔術『霧隠れ』にて森の隅に隠れながら頭に手を当てて内心ごちる。


 ……確かに色々予想した中にはこんな感じの事も考えてたけど……それって悪い寄りの想定だよ? それもかなり……。


 現在の状況は当初予定していたものを大きく逸脱していた。

 まず、囮作戦の失敗だ。これは成功率が怪しくなっていたのでまだしも、()()()()()()()()()は想定外に過ぎた。確かにその可能性がは頭を過りはしたが………普通人ってものは電気に対抗なんて出来ないんですよ?


 それだけが最大の誤算だ。電気は一応、纏う魔力の多さで減算は出来るのだが減らせるだけでしかない。対雷の技なんて使いどころの少ない技術を相手が習得してる事を想定した作戦なんて、馬鹿らしくて用意していなかった……。


(………どうしよう……?)


 考えるが答えは出ない。どうにか良い作戦を考え出そうとするが悩みに動かす頭は、情けない事に良策を考える以上に愚痴を作り出す事に忙しいらしく、良い案の切っ先すら浮かばない。

 そんな思考の袋小路に陥っていた自分の視界の端を、()()()()()が過った。


(―――っ!?)


「? ジンどうした?」

「……い、いえ、何でもないです。」


 不思議そうな顔をしてアイリスさんが小声で話掛けて来る。……そうだ、いま彼女と行動を共にしていたんだった。

 あまり情けない所は見せる訳にはいかない、それは周り回って父にも迷惑を掛けかねないのだから。


(はあ……。)


 自分の頬でも叩いて気合いを入れたい気分だ。だが、隠れてる状況でそんなことは出来ない。仕方ないので代替え行為に眼鏡を無意味に直す。


「それでどうするのだ? このまま隠れてるのも悪くはないのかも知れないが。」

「……そうですね……。敵の出方次第ではありますが……確認ですけどアイリスさんは()に勝てますか?」


 隠れつつ木陰からこっそり顔を出す。すると、その先には相手側の指揮官、プルト・ガンドがあごに手を当てて佇んでいた。


「そうだな……正直難しいと言う他ない。先日の戦いでは私も全てを出した訳ではないが、あちらも底を見せてはいなかった。慣れない森の中ということを踏まえると……いささか厳しいだろうな……。」


 ……厳しいか……普段授業で頭を抱えてる印象が強いが意外と彼女の実力は高い。特出するものは無いが多くの属性をそれなりに扱う彼女は、間違いなく入学前から魔術を使える者を除いて最も実力を向上させた一人だろう。

 その彼女が厳しいと言うのなら、見付かる危険を冒してまで戦うのは愚策だ。それにもし自分が見付かれば足手まといを抱え、敗北する事になる。


「そうですか……。でしたら、彼が何かしら行動を始めたら足止めをお願いします。どちらかの援護に行かれでもしたら難ですので。……? どうしました?」

「…………どうやら隠れてるのが()()()らしい。話過ぎたな、少し早いが行って来る。」

「――――!」


 そう言うと彼女は意外な程の早さで木陰から飛び出し行った。遅れて、背中にある木を伝って真新しい戦闘音が響く。




 ………独りになると急に弱気が顔を出して来て、座り込み膝に顔を埋める。瞳を閉じるとただ魔術が爆ぜる音、敵の怒声、木等の何かしらが壊れる破砕音だけが聴こえた。


 ――怖い。


 身体が震えてるのが分かる。……ここにいる全員が自分を探し出し、始末しようとしてる気すらした。――勿論そんな事はないのは分かっているが―――………震えはいっこうに収まらない。


 今日の為にどれだけ頑張り、心を取り繕おうとも、心細さに煽られて鍍金が剥がれ落ちる。どれだけ弱いのが嫌で強がっていても、僕の本性が怖がりで弱虫なのは変わってくれないみたいだ………。


(せめてもっと何かしらの索を用意をしておけば………。)


 どれだけ愚痴ろうとも自分に出来る事はもう無い。―――既に賽は投げられた。後はただ、仲間を信じて隠れるしか出来ないんだ。




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