交流
「さて、まず何も問題が起きずつつがなく進行して良かったと所感を述べる。だな……。
よし、よく頑張った! みんな拙いながら良い戦いぶりで先生は嬉しいぞ! 特に魔術学園の中には将来研究者志望も多いだろうに見事な戦意だった。だが戦闘経験が無駄になることはないぞ――――誇るが良い、例えそれが敗北でもな。」
皆で整列し、警備員の先生からの総括を静かに聞く。
先生はメモに目を通し直すと話しを続けた。
「さて、前振りは短く。結果に移ろうか!
既に結果を理解して居るものも多いだろうが、戦功は拮抗していた。負ければ取り返す様に勝ち、追い越したと思えば盛り返す。実に見応えある展開だった。俺も楽しかったぞ!」
心から満足した様に頷く。
先生の言うとおり勝敗は最後まで分からなかった。
あれから身近な所だとアルシェが相手を瞬殺し、バルクは鬼みたいな大男に負けた。意外なのはジョンはともかくイストが勝った事だ。かなりぎりぎりな戦いだったがあれで勝ちを拾えたのは僥倖という他無い。あとジャンク君は速攻で負けてた。
「みんな本当に頑張った。個人的に優劣なんて決めたくないが決まりなのでな、勝敗を告げようか―――――」
健闘した方だと思う。士気も上々、勝ち目は十分だ。だが――――
「勝者は――――プルト・ガンド率いる武術校組だ!!」
結果は俺達の敗北だ。
「なんと勝ち星の差、実に一勝分。接戦だったな、だが大きな一勝だ。
明日の団体戦があるとしても全敗の心配が無くなっただけでも意義のある結果だな。プルト含め皆良くやった!」
「……光栄です。」
称賛の籠った視線と声を向けられ、プルトは静かに礼を返す。
俺の悔しい気持ちに反して特に喜びは無いらしい、当たり前の結果として受け止めてるってか?
「うむ! では、解散!
みんな疲れがあると思うが明日の方が疲れるので、よく食べてよく寝る様に―――」
*
先生が武道館から出て行くと場の雰囲気が弛緩する。授業終わりに気を抜くのは何処の学校でも変わらないみたいだ、武術学園だからって常在戦場なんて事も無いらしい。
どちらの生徒も思い思いに行動しだす。さっさと帰るものや、結果を話し合う者、意外なのは違う学園の者同士で話してる人達だ。これが案外と多く、今回の個人戦を出汁にお互いの学園の授業内容を話し合ってたりする。
魔術生に好奇心旺盛な奴が多いのもあるのだろうが、武術生も向上心が高いのか魔術師の事に興味があるみたいだ。
………俺はどうするか、既にいつもの皆は誰かと話してる。魔術生だけならともかくあっちの生徒が居るし少し入り難いし……帰るかな?
「あらぁ? 確かうちのボスと戦ってた子じゃなぃ?ひとりなのぉ?」
「―――! あ、ああ、そうだな、ひとりだ。」
話し掛けて来たのは赤毛長髪にくせっ毛をした少女。武術校の生徒だろう、確かアルシェに瞬殺されていた人だ。
「んむぅ……その覚え方には言いたい事があるけどぉ。せっかくだし話さなぁい?」
「……いいぞ?」
話し方に癖のある人だな、というか俺って初対面の人に心読まれる事多くない? ………絶対なんかおかしいって。
「表情に出てるわよぅ、あなたって分かりやすいから。」
「………こほん。それで? 話すと言ってもこちらには話題がない、何か聞きたいことでもあるのか?」
ぶっちゃけ初対面の人、しかも話し掛けられた人相手に何を話せば良いのかよく分からない。しかも相手は今まで接点の無いタイプの人物なのだから尚更だ。
「そんな身構えなくても大丈夫よぅ? ほら、うちのボスとどう戦ったのか気になっちゃって、途中から見えなかったからねぇ?」
あーなるほど。
「納得した。……とはいえ面白い話しはないぞ? 単に遠距離攻撃主体で挑み、接近されて敗けただけだ。」
………言っててなんだが、やはり面白みの欠片もない。せめてもっと粘れよな、俺。
「そうねぇ、確かに予想通り過ぎて面白みはないわねぇ。」
「……悪かったな。ちなみにだがそのボスとやらはそっちでどのくらいの強さなんだ?」
敗けた相手に敗けた理由を聞いたのだから、代わりにこれくらい教えて貰っても良いだろう。
彼女は頬に手を当てると、少し考えてから口を開く。
「そうねぇ、二番か三番かしら? もちろん上からよ?」
は~まじか、そりゃ勝てねぇや。
「二、三番? じゃあ一番は?」
「グリムよぉ? あなたも会った事あるんでしょう?」
即答する。どうやら少なくとも彼女の中で最強はグリムで一択らしい。
「ふむ、だが―――こちらはグリムには勝ってるぞ?」
「あら?」
俺が戦い勝った訳ではないが学園襲撃と今日、もう既に二回も勝利している。総合的には敗けたが一勝なんて誤差のようなものだし、上位陣だけを見ればこっちのが上だろう。
「負け惜しみぃ? それに、グリムなら次は勝つわよ?」
なんでもない様に彼女は言う。その姿からは、それこそ負け惜しみのようなものは見られず。当たり前の事を言うかのような気軽さがあった。
「………どうしてそんな事言い切れるんだ?」
あまりにも自然体で言うものだから、ついふてくされた様に疑問が口をつく。
すると、懐かしそうに目を細めて彼女は言う。
「だって、少し前まで彼女弱かったのよぉ?」
「――――ぇ?」
弱い? ………誰が、あのグリムがか?
「そう、初めは私でも勝てたのよぅ。でも、次から勝てなくなってぇ、負けちゃった。他の子も大体そうよぉ?」
「………」
……それは、凄まじいな。それが本当なら尋常ならざる成長力だ。天才ってやつか? それとも――一回目は本気じゃないのか?
「まあ、それでも勝つがな。こちらの指揮官は優秀だ。」
「あら言うわね? うちのボスも負けてないわよぉ?」
確かにプルト君も子犬みたいな見た目に反して統率力はありそうだが……ジンが必死にがんばる姿を見ている。敗けるつもりは無い。
「今日の情報もあれば策は磐石を期すだろう。そちらからグリムの話しも聞けたからな?」
一番警戒するべき相手が確定すればそれだけでも大きな情報となる筈だ。ジンならばおそらくうまく使ってくれるだろうさ。
「あらぁ? あなたグリムと縁が薄そうだし気にしてなかったけどぉ、どうやら敵に塩を送ってたみたいねぇ? 内緒にしててくれる?」
「………断る。」
「残念ねぇ。」
困った風ながら、焦った様な様子は見られない。………厄介な相手は想定していたより、ずっと多いみたいだ。
「ちなみに、グリムはずっとあんな大鎌を使ってるのか? そっちの学園ではそんな武術を?」
「そんなわけないじゃなぃ? グリムは気分屋でいつも武器を変えるのよぉ。あの鎌はお気に入りみたいだけどねぇ? 変な趣味だわぁ。」
*
(ふぅ~……)
つとめてゆっくりと息を吐き、目を閉じる。
「―――よお、案外落ち着いてるな。落ち込んでるとばかり思ってたが?」
瞑想するジンにバルクが話し掛けた。
どうやら敗北を気に病んでないか心配して声を掛けたようだ。
「落ち着いていますとも、今回の戦いは所詮時の運。くじで結果が前後するものですからね、それよりは明日の本番を気にしています。」
強がりではないのだろう。確かに一勝差程度なら誤差、しかもほぼランダムな戦いでなら結果を気にする程ではないのかもしれない。
指揮官の活躍ですら誤差程度、それなら気を煩わせずに明日に全力を投じるのが最善というものだろう。
「そりゃ良かった。なら今日の結果を踏まえて気になる事とかあるか? ―――俺はあるぞ?」
「………でしょうね。」
バルクの用件はグリムの事だ。
戦いを見ていたがあれは流石に身軽が過ぎる。地面に刺した大鎌の柄に乗りあれだけ高く跳ぶとか意味が分からない。これでは岩場での戦闘はあちらの有利となるだろう。
更にその上で速度技量で大きく負けている。武器の大きさを利用しようにも生半可なものじゃもろとも斬られるだろう、現実的とはとても言えない。
そのうえ―――――
「クズハさんが勝っちゃいましたからねぇ。いえ、良いことではあるのですが……。」
「だな、正直啖呵切ったは良いが、そもそも乗って来るか怪しくなった。……いっそ役を交換するか? 俺ではちょっと力不足だが……。」
「む~? それは、ちょっと……ん~。」
ジンは少し考える。正直遊撃部隊は主力二人任せてその間耐えるだけの部隊だ。囲まれない様に速攻速殺を主軸にしている以上、主力の半減は大きなマイナスとなる。
―――それをするくらいなら一緒に戦った方が得策か?
「………とりあえず予定通りに。もし作戦が上手くいかなかった場合は、そうですね、グリムの妨害を任せます。狙うのはクズハさんでしょうし貴方が適任だと思います。」
「おう、任された! それなら全力でやるぜ!!」
了承すると、やる気を示す様に腕を天に突き上げた。ジンはその姿に感化され気概を露に口にした。
「はい!任せます……!絶対に勝ちましょう!! 全勝なんてさせるもんですか……!!!」
「だな、やってやるか!!」
二人して拳を突き上げ、勝利を誓い合った。
「………やっぱ今日敗けた事気にしてるじゃねぇか……」
「? 何か言いました?」
「んや、何でもねぇ!」
「?」




