盗み聞き
「時間稼ぎは良くて三分程度ですか……厳しいですね、最低でも五分は欲しかったのですが、これは何か対策が必要でしょうか……。」
毎度お馴染み運動場こと校庭での授業のさなか、バエルとジン君が話し合いをしていた。どうやら例の囮作戦について話し合っているらしい。
他の皆は自習だ。掛け声に魔術の発動を合わせる練習、発動させた魔術を解除し他の人がその場所を埋める連携練習など様々な事をしている。
「五分? それっぽっちでどうする気だ?」
かくいう私も魔術を練習しているのだが………聴こえてくる話が気になり、つい意識を傾けてしまっていた。
「それだけ時間があれば主力だろうと問題なく勝てるでしょう。問題は敵将を見付けれるかどうかですが……それならそれで籠城部隊に攻め入る相手を殲滅すれば有利に立ち回れます。やはり問題は相手側の…………。」
そこから一人言を呟く、後の方は小さくて聴こえなかったが少し楽観的過ぎないか?
「ちょ、ちょっとまて!! 話が飛びすぎだ!何がどうすればそうなる? 相手側には、最悪グリム級の主力が二、三人いるって話はどうしたよ??」
バルクの言う通りだ。ジンの話はちょいとばかし希望的に過ぎる気がする。
「……と、失礼しました。この頃考え込み過ぎでして、いけませんね少々話を急ぎ過ぎました。ええと、どこからでしたか……ああ、時間稼ぎの件ですね?
……こほん、そもそも今回の交流戦では、単純な実力差を抜きにすれば相手側の方が不利なルールです。相手が主力二人含めた五、六人程度なら遊撃部隊で難なく勝てる筈ですよ。」
…………ちょっと考え込んだが、言われればそうなのかな? 今回のルールは、ゲーム的に例えるなら全員HP1のオワタ式で戦う訳だ。
俺達の殆どは普通に剣で斬りかかった方が早い程度の魔術しか使えないので不利な訳だが。実力が上がれば、逆に広域魔術を使えるようになった俺達の方が優位に立てる、って事か?
―――と、ととと!? 気が削がれ過ぎて火が上がっちゃった。仮にも魔術の訓練中なのだから気を付けないとな。
「もし仮に“三英傑”が戦うとしてもこのルールなら“魔導星”の一人勝ちでしょうね。であれば相手の実力が高くとも限界はありますし、こちらの主力が集まれば勝てます!」
「……なるほどな、だがそれなら囮なんて要らなくねぇか?」
「――必要です! いくらなんでも主力級が三人も居ては人数負けして不安要素が増しますので!リブートさんが攻撃、クズハさんが支援、自分とアイリス様が防御を、そして君が囮を担当「おい!」……するとして、前衛二人に対して後衛が弱いです。
少し強い程度の人ならともかく、自分達に主力級は長々と相手には出来ません。そも自分がやられたら負けなんですし。」
「だから、人減らしの為の囮か?」
「ですね。」
ほうほう、ジン君結構考えてるんだな、流石指揮官を買って出ただけはある。それで―――
「“三英傑”とはなんだ?王子?」
側でニコニコと練習風景を眺めてる王族に向けて、出し抜けに水を向けると、きょとんとした顔を返された。
「……随分藪から棒な質問ですねアイリス様?……別によろしいのですが……。それで、“三英傑”でしたか?」
「ああ、なにやら漏れ聴こえて来てな、それで何なのだ?」
納得したのかそうでないのか微妙そうな顔をすると、王子は口を開く。
「……“三英傑”は、一般的にこの国で三指に入る強さを持った人物ですね。」
「一般的?」
この場合の一般とは大衆――一般国民で良いのだろうか?
「そうです。国内外に向けた象徴的な強者と言いますか……政治的には国の三本柱を代表するもの、ですかね?」
「?」
まったくピンと来ないぞ? 俺の理解力のせいもあるだろうが説明がふわっとし過ぎてないか?
「つまり?」
「―――貴族の最強、平民の最強、みたいな感じです。実際に強いのですが優劣を付けてはならないといった不文律がありますしね。
現在では平民出身の騎士団総長が“武将星”、貴族出身の魔導学園理事長が“魔導星”を拝命しています。」
なんか凄そうだな、平民出の騎士団総長とかもう肩書きだけでも格好いいし。バルクとかより強いのかな?
てか、魔導学園理事長? ……あの腰の低い人、貴族の代表者だったんだ……。
「……両者共に、力自慢な国民が一度は憧れる存在でしょう。国内最強を語る上で一度は名が上がりますね。」
そう言い終えると、王子は口を閉じた。
「………ん? 三人目は?」
「ぐっ……!」
うーん? なーんか様子が変だな?王子向けの話題だと思ったのだが。
「?」
「えっと、その、ですね? ………………三人目は私です。」
「……………。」
え、と……つまり? ああ……。
「三本の柱ってそういう……。」
「―――はい、推察の通り、平民と貴族と―――」
「王族か。」
そりゃあ言いづらい訳だ。おかしいと思ったんだよ、英雄譚とか好きな王子が奥歯に物が挟まったような物言いなんだもん! そりゃあ目の前で友人に俺、国で三指に入る強さだから!とか言い難いわな。
「そうです。一応意味はあるにしても、私だけ世襲制みたいなものですからね……。」
「まあそれは仕方ないだろう。見栄を張り国民に勇気と安心を与えるのも王族の務めだからな。だが、言いづらいのは分かるがもう少し堂々として、いっそ胸を張るくらいの方が格好いいぞ?」
その方が民に示しが付くってもんだ。まあ、俺が言うのもなんだけどさ、一応貴族って事になってるんだからこれくらい良いだろう。
「アイリス様……。そうですね、醜態を晒しました。これからは名前負けをしないよう頑張りたいと思います!」
「無遠慮な言葉だったが、少しの助けになれば幸いだ。―――頼りにしているぞ?」
そして一緒に魔族から国を護ろう! お前が強くなればその分生存率上がるしな!
「ところで、その、二つ名?は何なんだ?」
「…………“風皇星”です。」
わーお。かっこい。
*
「無理がねぇか? 確かに有利かも知れないが、相手にもっと強いやつや、その主力級が大勢いるかも知れないだろ?」
「……大勢、というのはないでしょう。いかに城直々に勧誘をしているとはいえ、一学年に三人居たら精々の筈です。獣人も居るかも知れないですが、あちらも獣化は使えないので問題ありません。
………もし万が一、そんな大勢居たり、強すぎるのが居るのなら――――降伏しましょう、勝ち目なんてありません!」
ジンは俺の目の前で、それはもう清々しい程に断言した。
「!? 言ったな!言い切ったなおい!! お前、格好付けたい相手が居るんじゃなかったのか!? それで頑張りたいって言ってたじゃねぇか!」
「!?!? そんな大きな声で言わないで!!! ……それもそうですが、だって相手側の事を調査しないよう先生から言い付けられてるんだもん。そんなん居るなら専用の対策が必須だし、臨機応変とか無理だって! だいたい、元々こっちに勝たせる気あんまりないんだから仕方ないでしょう!?」
口調を崩し、開き直った様に言いつのる。……ストレス溜まってたんかな……。
「あん? 勝たせる気がない?」
「あれ、気付いてなかった? 交流戦一応相手に不利なルールがありはするけど……そもそも実力差が大きいんだよね。
あっちの学園は最初から力自慢が入って稽古するのに比べて、こっちは初めからやっと覚えだしたくらいでしょ? そりゃ勝てないよ。」
「……あーそういう。」
例えるなら職業レベル――訓練時間が違うのだ。こちらが見習いレベルとするなら、相手はぎり一人前って所だろう。
「そう! つまり、この行事は、魔術覚えて調子に乗り出した生徒に身の程を知らせる行事なんだよ。
それだけじゃ相手の特にならないから、おそらく学年末にもう一回やるんだろうね。それならほぼ確実に勝てて成長を実感出来るし、あっちも一度負けた相手に追い抜かれたら身が引き締まるだろうし。」
ジンは丸眼鏡を押し上げると、得意気に言い切った。
「……じゃあ、俺達は本当は負けた方が良いのか……?」
……負ける事を望まれながら戦うというのは嫌ではあるが、教育上必要だとするなら……仕方ないのだろう。
「いや、勝って良いよ。」
「!」
「ほら、自分達は初めに君とリブートさんの試合を見てるでしょ? ……あれで実力差をちゃんと理解してる。それに、例の事件もあったしね?皆身の程は知りきってるんだよ。
逆に、あっちは学園に侵入して喧嘩売るほど驕ってるんだし、そんな鼻柱、折ってあげないと可哀想―――でしょ?」
「……だな!」
不敵な笑みを浮かべジンは強気に宣言した。
胸が熱い、少し沈んでた心に火が着く―――勝てば良い。負けるだなんて考えてる先生方や武術生に、俺達で目にものを見せてやろう!
「囮の件ですが、死ぬ気で頑張って下さい。幾つか状況を想定して置きますので、負ける際、分かりやすく負けて下さい。」
「おう……!」
不意打ちを避ける為か、分かりやすく負けろとは難しい事を言う。
「それは良いが……お前以外と黒いんだな……」
「!?」
「いや、そんな心外そうな顔されても……。」
不満そうな顔に思わず笑う、囮だとか鼻柱へし折るだとか、ここまでずっと楽しそうに話してたやつが黒くない訳ないだろう? だが、それでこそ俺達の指揮官に相応しい。
「よろしくな、リーダー?」
「え、はい、頑張らせていただきますよ。囮君?」
………やっぱこいつ黒い。
*
………王子と雑談している内にあっちはなにやら盛り上がっている様だ。――あの二人仲良いのか?今まで接点ないと思ってたが……。
「……意外だな。」
「? あの二人ですか?」
……口に溢したか。
「ああ、仲良さそうなのが意外でな。」
王子は首を傾げる。
「ですか? この頃よく話してる印象ですし、気があったのでは?」
まあ、そんなとこだろうな。
「ところでアイリス様は何をしてるのですか?」
「少し試したい事があってな。まあ、他の魔術の練習もしたいしそろそろ打ち切る所だ。」
出来はするが、維持が微妙過ぎる。ロマン技だなこいつは。
「やはり風壁の練習ですか?」
「いや、土魔術の練習だ。単純な防御力ならこっちの方が上だし、足場を崩せるのは便利だからな。私は魔力だけはあるし無茶しやすいからな。」
攻撃の魔術は覚えて無いが私は防御だけやってれば良い。攻撃は二人に任せよう………それに電気防げるしね……。
「ふむ。―――では、お相手に私はいかがですか?」
……ははあ、もしや暇をもて余したな?
「助かるが………土だらけになるぞ?」
「―――ご冗談を、その程度気にしませんので。」
軽く笑顔で流すと剣を引き抜く。………いま、気のせいじゃなきゃ、俺だけが土まみれになるのを想像したな?
「手加減はしろよ?―――土まみれにしてやる!」
「ははは、お戯れを。もちろん手加減はしますのでご安心を、魔術ごと切っては練習になりませんから。」
………やっぱムカつく……! いつか絶対負かしてやるからな!!




