うとうと
少し短いと思ったので追記しました。
「――そこまでだ。攻撃を止めてくれ。」
その制止の声にマリアンナは姿を現す、そして俺によく見える様に武器を収めた。
それを見て、俺も魔力を消し去り膝を付く。
「……はぁ、っく、はあ……。」
疲労を抑える様に肩で息をする……結局訓練中一度も姿を捉えれなかったんだが、ほんとどうなってるんだ?
「お疲れさんだお嬢、マリアンナどうだった?」
「……そうですね、三回といったところです。」
「俺の見立てでもそれくらいだ。すげえじゃねぇかお嬢! まさか一日でここまで出来るとは思わなかったぜ?」
……それは僥倖、と言って良いのか? 全体通しての成功率は1、2%くらいだが?
「いいんだよ! その数回を重ねていけば確実になんだし! そもそもこいつの攻撃を防げただけでお嬢はすげぇのさ!」
不満が顔に出てたのかバエルはそんな事を言う。
「……そうか?」
「おう! 嘘なんか言わねぇって!」
……そうか、なら自身持って良いのかな?
胸をくすぐる充足感に、握り拳を眺める。……よし、明日も頑張ろう。
そんな風に決意を固める俺へ水を掛ける様に言葉が投げられた。
「やる気出してるところ悪いが――明日の朝練は休みな?」
「――なっ、何故だ?」
「何故ってな、お嬢、授業に集中できてねぇんだろ?」
………うぐぅ、言い返せない……。コツを掴んできたから忘れないうちに反復したいんだが……てかなんで学園の事知ってるんだ?
「……でも――」
「わりぃが、これは決定事項だ。休むのも訓練だぜ? 一日休んだら腕が三日落ちるなんて言うけどよ、俺が昔師事してたお師匠曰く、それは休む修行が足りてないんだとよ?」
むう……そんなもんなのか? ……まあ、マリアンナも忙しいだろうし、俺も無理は言いたくない。
「お嬢も交流試合の為に魔術を練習しなくちゃだろ? まあ、そんでも昼に時間開けてっから、元気余ってたら訓練しようや!」
「……ああ、その時は頼もう。」
「おうさ!」
……すっかり意識外だっだがそういや交流戦もあったな。
だけど、魔術の練習と言っても正直何をしたものかと言った感じだ。威力、効率を考えれば雷属性一択だけど、反面団体戦で雷は使いづらい……かといって一週間程度で幾つもの魔術を実戦に耐えうるまで習熟するのは相当に困難だ。
……いままでは精々が的当て程度でしか魔術を使って来なかったからな、対人形式で教わってるであろう武術生を相手にするには、魔術戦闘の経験が足りてない。
なんなら魔力を一切使わない俺と、魔装術以外の魔術を使う俺が戦ったのなら、魔力無しの俺が勝つまである。その辺も明日学園で話すのだろうか? う~ん?
「……そういえば、ふと気になったのだがバエルならマリアンナの攻撃をすべて防げるのか?」
「? まあな、一応近衛騎士名乗ってるんだし不意打ちには強いぜ? やってみるか?」
「……お断りします。それではアイリス様、湯浴みの準備が出来ましたのでご案内致しますね♪」
「う? うむ。」
提案をばっさり断ると、愕然とするバエルをほったらかして湯場に連れてかれる。……とりあえずドンマイ
!
*
湯船から上がり、食堂に入る。広い食卓の上にはすでに料理が並んでおり、王子が一人席に座り待っていた。
「アイリス様、訓練お疲れ様です。」
「ああ。」
適当に相づちを打って席に付く。無駄に広い机にふたりきりとは始めは変に思ったがもう一月、大分慣れたものだ。
(王子相手なら今更緊張もなにも無いしな、スペースは無駄だがむしろ大勢の方が据わりが悪い。)
前の教師陣との会食とか慣れなさ過ぎて、なに食べたとか、話した相手の事とか完全に覚えてないからな……。理事長の名前すらもう忘れたぞ? 確かテリウスさんであってたか?
「随分と眠たげですね、余程充実した訓練だったのでしょう。」
ぼーっとそんな益体もつかない事を考えていると、王子に指摘される。
「う~ん? まあな。」
生返事を返し、ナイフとフォークを駆使して料理を切り分け口にした。
「それは良かったです。いまは何の訓練を? 前日バエルは新しい訓練を始めたいと言っていましたが、そちらでしょうか?」
「もぐもぐ、はむ、むーん? ……ん、なんだろう? 攻撃反射的に防ぐ?訓練かな?」
何の訓練かと言われて困ってしまった。特段技名とか知らんしな~。
「……恐らくですが《魔装術》の高速集中訓練でしょうか?」
「多分?」
なんかそれっぽい単語が出てきたな。
「そうですか。察するに技の前提訓練のようですね。いえ、バエルの事ですし、その上の技《瞬堅》まで教え込むつもりでしょう。」
ふ~ん? なんか技名出てきたな。とりあえず食事を食べ進める。
「それ出来ればあの移動技とか出来るのふぁ?」
「《離間》ですか? でしたら危険はありますが《瞬堅》より難易度が劣るのですぐに習得出来るかと。」
「ほぉっか。」
もぐもぐ。あのばっ!て移動するの楽しそうだよな~。
「……アイリス様? 大丈夫ですか? 食事中に寝るのは少々危険ですので、勿体無くはありますが寝室まで移動された方が宜しいのでは……。」
「ん~? 食べる~。」
「……そうですか、ではくれぐれもお気をつけて下さい……。」
美味しい、なんだろうこの肉じゃがっぽいの? ナイフとフォークで食べるのは違和感だが普通に旨い。惜しむらくは、しらたきが入ってないのが残念だがそこは仕方がないよな。
食事に舌鼓を打っていると、ふと思い出す。
「そういえば……なんだっけ?」
「……?」
口に出そうとしたら何を話すか忘れてしまった。
……こういう時は順繰りに思い出せば良いんだ。確か肉じゃががナイフでしらたきがなくて?
「あっ、と思い出した。王子は交流戦に出られないのだし、授業の時どうするんだ?」
「……一応他の生徒が無茶したり怪我しないかの監査と応援と聞いてます。」
「ふ~ん?」
王子に監視されて訓練とか、俺はともかく他の生徒の気苦労やばそうだな~。同級生には貴族も多いし、参加してなくても負けたら王子も負けた事になる。そりゃ身が引き締まる思いだろうさ、同情しとこう。
「魔術か……どーするかな。」
あーヤバい、瞼が重い……背もたれに寄り掛かる。あまり良くはないがこのまま寝てしまおう、寝室まで歩ける自信が更々ない。後でマリアンナに運ばれるだろうし彼女には悪いが、この、まま……。
「それでしたら魔術の家庭教師をご用意致しましょうか? ひとり心当たりがありまして♪」
現実かはたまた眠気に依る幻聴か、マリアンナの声が聞こえる。聞き取り切れなかったがどうやら何かを提案しているようだ。
「……まかせる。ふぁ~あ、好きにして……。」
「はい♪ それではお休みなさいませアイリス様、良い夢を!」
「あぁ……。」
瞼を落としきり脱力する。次第に世界は輪郭を崩し意識を夢の世界へと旅ださせた。
*
「その様に無理やり同意を取るのは、あまり良いとは言えないですよ?」
苦笑を浮かべマリアンナに苦言を呈す。
「申し訳御座いません。ですが上からの指示ですので……御容赦を……。」
そう言うと寝苦しくない様にアイリスを支えた。
「ああ失礼、責めるつもりは無いのでご安心を。これは一人言と言うか父への愚痴みたいなものですので。」
例のクリフ事件の時に勇者の力が確認されて早一月、その力は一度も確認されていない。
どうやらその力には魔力が関係してるそうだが……。
たとえ自衛の力を得ても、代わりに加護を失えば本末転倒だと言う父の危惧も理解は出来る。だからと言ってやる気を見せてる所に水を掛けるのは良い事だとは思えなかった。
それに―――もし加護が無くとも勝てるように成れば問題はない。他国、他大陸の出身の彼女と違い、私は王族なのだから――それが責任と言うものだろう。
「はぃ。……ですが現状を抜きにしましたら、アイリス様の最高適性は魔術です。確かに武術の適性も高いですが、あの魔力には数歩劣りますから。」
「む。」
「学園の授業が劣る訳ではないのですが、……如何せん複数人を対象としております。友誼を育むのには適しておりますが、アイリス様の才能を御し切るにはいささか不足しているかと。」
……理解は出来ますが……。いえ、私も少し感情的になっていますね。無意識にバエルを贔屓にしていたかもしれません。
「……失礼、貴女の前で言うのはお門違いて過ぎました。私は現在ただの護衛です。生まれを意識せずいち使用人の愚痴として扱って下さい。」
「そう……ですか。」
む、芳しくない様子。やはり王族と使用人の壁は彼女にとって軽いものではないようだ。……ここはこちらからもう少し歩み寄るとしましょう。
「ええ、むしろ仕事上の立場としてはメイド長である貴女の方が上です。もっと使ってくれても良いのですが?」
「……でしたら、バエルとの訓練の時もう少し隠蔽しやすいように留意を戴けますでしょうか……?」
ぅ……。
「…………善処しましょう……。」
 




