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國取り勇者  作者: 朝方
地の矜持
38/101

観戦




 野原に火を放つが如く繰り出される大鎌を、両の腕に構えた旋棍でそよ風の如く受け逸らす。その姿はまさに堅牢で、不落の砦を思わせた。


 ……というかあの旋棍(トンファー)どこから取り出したんだろう……。



「先生ー、あの武器ってなにー?」


 先生に向けてイストが抱いた疑問を問う。


 俺は現在、アルシェと共に他の生徒達と合流し、先生解説の下観戦をしていた。因みにバルクもここで応急処置をされ観戦している。


「武術生の方はわからないけどアイシャ君のは旋棍だね。アルパイン生まれの道具でぱっと見L字型の木の棒の様だけど、ああ見えて突いてよし、殴ってよし、守ってよしの優秀な武器なんだよ? 携帯しやすいしね。」


 おー、そうなんだ。名前しか知らなかったけどそう聞くと強そうだし便利そうだ。確か外国の警官の装備だった気がするが、やっぱ便利だからなのだろうか?


「因みにあの少女の連撃は《雨季雲(うきぐも)》と言う技だ。確か雲から雨が落ちるかの様な連続攻撃との事で名前が付いたんだったかな? 適当に振り回してる様にも見えるが、ああ見えて魔力循環と動作を極めて一致させる棒術の絶技だよ。」

 

 詳しいな……魔力循環って事は《魔装術》関連の技なのだろう。もしかして俺が教わってるやつも、なにがしか技名があるのかな?


「では先生、シー……委員長の防御も何かの技なのでしょうか?」


「グラシャ君。そうだね、この学園では教える事は無いが、あれは《気功術》だよ。」

「《気功術》?」


 記憶違いじゃなければ一月前、アルシェの治療にも使ってた奴だ。名前からなんとなく分かってたが、治療用の技と言う訳ではないんだな。


「そう。魔力ではなく体力や生命力なんかを用いた術だよ。魔術より汎用性に乏しいけど、その分身体強化に特化していてね? 主に剛、柔、堅、癒、の四種類に分けられるんだ。いまアイシャ君が使ってるのは恐らく堅なんだろうね。」


 ふむ? じゃあ治療に使ったのが癒って事か? この一月で結構魔術覚えたけど、回復系統は未習得だし、可能なら覚えたいんだが。


「……それは便利そうだが、何故教えて無いんだ?」


「アイリス君……それはね、単純に()()()()()()()。」


 危ない?




 攻守が逆転する。お返しとばかりに旋棍を用いた打撃を見舞う。打撃の合間を縫う様に蹴りや尻尾の叩打を挟み、絶え間無い連打を織り成した。


「猿知恵《猿闘法“打打”》」


「ははははは!!! 強い!強いぞ!!!」

「……うるさい、早く倒れて?」


 下がりながら鎌全体や肘、膝、足を巧みに用いて捌く。気のせいでなければ確実に動きが良く成っていっている。


「キツイこと言うなよ!! せっかくのダンスなんだ!? もっと楽しもうぜ!!?」

「――いや。」


 《離間》を使い急加速して距離を離すと――全力で大鎌を振り落とす。


 大鎌の切っ先と旋棍の先端が衝突する。とても金属と木がかち合ったとは考え難い、硬質な音を辺りに響かせた――




「危ない?」

「そうだ。あくまでも外側から魔力を纏う《魔装術》と違い、生命力は身体に程近い為か《気功術》は()()()()()()()()()()。故に()()()()()()、《魔装術》では失敗や無理しようと気絶程度で済むが、《気功術》では()()()()()()()()()()()()。」


「「はぁ!?」」


 思わず声を上げて委員長を見る。すると、丁度敵の大鎌を吹き飛ばす所だった……大丈夫そうだな。



「……と、言っても一度習得すれば《魔装術》と同じく無理な使い方をしなければ大丈夫だ。だけど教えるならそうは行かない。ほら、魔力を扱うのに最初からうまく行った人は居ないでしょ? その少しの失敗が気功術だと洒落にならないからね、それで学園じゃ教えて無いんだよ。」


 ……それは、仕方ないか……治療は時間を掛けて魔術を覚えよう。治癒能力を得たいがために大怪我してたら世話無いしな。



「……それは良かったのですが、ひとつ気になる事があります。」

「何かなグラシャ君?」


「気功が内、魔力が外なら、()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


 ジン君が眼鏡を直して質問をする。どこか重大な事に気付いたかの様に興奮した様子だ。

 …………いや、そんな馬鹿な、出来るわけが……。



「ああ――()()()()()。難易度は極悪ながらも実際にそれが出来る人間は少ないながらも実在している。この国にも数人居たかな?」


 …………嘘だろ?


「その魔力と気功が入り交じった術を《()()》と言うんだ。」

「《仙術》……。」


 ……はぁ。……またハードルが上がったんだけど……!? やめてくれよ! 俺の中の人類が強くなる程、魔族も強くなるんだよ!? これじゃ一月で使える魔力倍になったー!わーい! なんて喜んでたのが馬鹿みたいじゃんか……!!




 *




 武器を落とし地に座り込む少女に、旋棍の先端を突き付ける。所詮木の棒でしか無いが彼女の膂力で振るわれれば意識を刈り取るに十分だろう――決着だ。


「まだやる?」


「……いや、残念だが降参だ! 降伏するよ!」


「受け入れる。じゃあバルク君に謝ってね?」


「バルク? あ~! 獣も……悪い悪い、冗談だ。あの猫男だろ? 了解! 負けたんだしな!従うよ!」


「うん。」



 委員長が武器を引くと、グリムは一息で起き上がる。軽い足取りで生徒達の方に歩き出し、地に座るバルクの前で止まった。


「よっ! 猫男、悪いなさっきは獣モドキなんて言ってさ! 本心で言った訳じゃないんだぜ? 戦闘中の茶々みたいなもんなんだよ!」


「……あー、別に良いぜ? ただその代わり――次は勝つ!!」


「ははは! 言ったね!次も勝つよ!グリムがさ!! 次は全員倒す!!」

「上等だ……!」


 狂笑を浮かべ勝利宣言をする。心底愉しそうに挑発するグリムに、地に座りながらもバルクは威勢良く言い放つ。



「ふふ! じゃあ敗者は去るとするよ! お前は精々素早くなる事だ! それじゃあ小鳥も取れないよ?」


 それだけ言い返すと、技を用いた高速移動で、消えるように去って行った。



「……言い逃げかよ! 誰が猫だ!! 痛っつ……。」


 衝動のままに立ち上がって叫ぶと、傷跡が痛みを訴えだし思わずその場で踞る。


「なにやってるですか……魔術で傷は塞がっても治った訳じゃないですよ? ほら痛いとこ見せるです! 撫で撫でしてあげるので!」


「……わかった。安静にするから……! 子供扱いはやめてくれ!?」


 介抱しようとするクズハを手で妨害しながら座り直すと、それに会わせたかの様に先生が手を叩いた。


「はい、トラブルはありましたが、授業を続けますよ。話を初めに戻しますが指揮官に立候補する人は居ませんか?」


「では、僭越ながら私が――」

「申し訳ございません、伝えるのが遅れましたが今回ジョセフ様は未参加でお願いします。学生とは力の差があり過ぎるので。」


「……なっ! ……いえ、仕方ありません。」

「ご理解戴き有難うございます。」


 王子は渋々引き下がる。……あの王子が参加出来ないとなると少し難しくなるな……あっち側にグリムと同レベルが何人居るかは分からないが、仮にあれレベルが二人、奇襲でもしてきたらヤバイだろう。……最悪それだけで敗けかねない、ルール上指揮官がやられれば終わりなのだから。


 ――故に指揮官は重責を背負う事になるだろう。


 委員長も指揮に自信がないのか立候補せず、静まり返る生徒達の中から、ひとつ手が上がった。



()()()立候補で良いかい?」

「はい。父の名に恥じない働きを致します。」


「……そうか、あまり気負わずに頑張ると良い。他に立候補は居るか? ……居ない様なので、ジン・グラシャを指揮官とする!」


 皆で拍手をする。そうしているとタイミング良く授業終了の鐘が鳴った。


「では話し合い等は次の時間にする。その間は自由にしておいてくれ。」




「じゃあ、軽く訓練でもするかね? 怪我もあんま痛まねえしな。」


 バルクは立ち上がると身体を解すようにストレッチをする。


「敗けて悔しいのは分かるが無理はするなよ?」

「わあってるよ! 少し獣化の訓練をするだけだ。無理はしねぇって。」


「それならいいが……。」


 そんな話をしていると、出てったばかりの先生が戻ってきた。忘れ物でもしたのだろうか?


「どうしました?」


「言い忘れた事があってね。」

「うん?」


「交流戦はあくまで魔術生と武術生の交流だからね、アイシャ君とバルク君、ふたりとも交流戦では()()()()()()。」

「……」


 それだけ言うと、今度こそ先生は去って行った。



「嘘だろ……? ……リベンジ宣言しちまったぜ……?」


 バルク、魔術の実力は下から数えた方が早いくらいだもんな……ご愁傷様である。




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