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國取り勇者  作者: 朝方
地の矜持
36/101

落ち着かない日




 座学が終わると同時に机に突っ伏す。


 ――内容がまったく頭に入ってこない……!


 今回の授業が『社会』に分類されるもので覚えがたい部分が多いのもそうだが、単純に集中力が足りてない。朝の訓練で神経を消耗し過ぎたようだ。ノートは取っているので後で復習しよう……。


 結局あれから、マリアンナの攻撃を百は受けたが一度たりとも防げなかった。バエル曰く、初日で反応出来てるだけですごいらしいが……先は長そうだ……。


「アイリス? だいじょうぶー?おつかれ?」


 しばらくそうしてると、アルシェが下から覗き込む様に話し掛けて来た。


「ああ、少し訓練ではりきり過ぎてな……。」


「おー? そうだ! じゃあ、まっさーじする?」


 マッサージ?アルシェがか? 確かに武道とか習ってるっぽいし、印象は薄いが案外整体にも心得があるのかも知れないな。


「……そうだな、頼めるか?」

「うん!」


 アルシェは元気良く立ち上がると、俺の背中側に回る。


 ……考えてみればこの状況って、年下の女の子に労われてる訳だよな? 実年齢から考えると五つ位下の子に……。まあいいか、そもそも性別が換わってる時点で今更な考えだし。


「いくよ! ()()()()

「え、ちょっ!?」


 ぼーっと脱力していると、突如耳元で電気が乾いた音を鳴らし、反射的に飛び退る。どうやら朝訓練の成果はあったらしく素早い身のこなしで席から離れ、振り向くと()()()()()()()()()()()アルシェがきょとんとして立っていた。


「? どうしたの?」


「……耳元で電気の爆ぜる音が聞こえてつい、な……。一応伺いたいのだが、それをどうするのだ?」

「えと? まっさーじ?」


 ……やっぱりか……。いや、彼女は雷の魔術が得意だし、良い案配の電力(電流?)を使ってコリをほぐせるのかも知れない。過剰反応をしては失礼か……?


「すまない、マッサージに魔術を使うのは初めて見たからな、少々驚いてしまったんだ。

 ………ちなみにだが、そのマッサージを誰かにやったことはあるのか?」


「うん! 先生にやったよ!」


 彼女の言う先生とは親の事だったな、言葉は悪いがその人が人柱になったのなら安心だ。アルシェは嫌がらせをする様な子ではないし、とりあえず命の危険は無いらしい。俺は内心ほっと胸を撫で下ろした。


「……そうなのだな。アルシェは、よくそのマッサージをしてあげてるのか?」


「う~ん、一回だけかな? 先生あんまし肩こりしないみたい。でも! まっさーじした時は天に昇る心持ちだ……。って言ってたよ!」

「……うむ。」


 ……それは比喩でか? それとも物理的にか? なんとなく後者な気がするんですが……二回目からは避けてただけなんじゃ? とすると、安全とは言えなくなったぞ……?


「ほら! すわってすわって!」

「…………わかった……。」


 逃げたい! 正直逃げたいけど……。アルシェの表情に悪意は欠片もない。むしろ楽しそうに目を輝かせている。――ここで断れば確実に顔を曇らせることだろう、それが俺に出来るか?いや出来るわけない!


 覚悟を決め椅子に座り、両腕を机の上に置き背を軽く丸める。衝撃に備えた体勢だ。これからマッサージを受けるには筋肉が強張った格好だが、これくらいは許して貰おう。怖いものは怖いんだ……!


 ――電気の音が強くなる。ただ距離が近くなっただけなのにしては大きい気がするが、これは精神的な影響に依るものか、はたまた実際に大きくなっているのか……背を向けている状態では判別がつかない……。


「じゃ、いくよー!」

「――こい。」


 腹をくくり目を瞑る。アルシェの電流を纏った手が触れんとした――その寸前、教室の扉が音を立てて開かれる。


「あっ! やっぱりまだ居た! ふたりとも授業に遅れるよ? 何かしてたの?」

「――いや助かっ、すまない委員長! 少しのんびりしてて、時間を忘れてしまったんだ。 ほら、アルシェ行くぞ? 授業に遅れては皆の迷惑になるからな!」


「むう、そうだね。まっさーじはまたあと――」

「――さて! 次の時間は野外運動場だったか?委員長?」


「えっ、うん? アルバート先生はそこに集合って言ってたよ?」

「了解だ。すぐに向かおう。」


 俺は急ぎ席を立つと、足早に委員長の方に向かった。




 *




 俺の通う“魔導学園ベリアル”では、前半座学、後半実技に別れて授業を行っている。授業内容は日に依って変わるが、その順番だけは変わらない。

 先生曰く、知識を蓄えて実行する事で身に成るからだそう。


 つまり、言い方は悪いが実技の方が重要ということだ。戦いに出る俺にとっても特に重要だと言える。


 俺の次受ける授業もその実技だ。正式名称は魔術戦闘教練といってクリフ先生が元々担当していた。事件後は座学を担当していたアルバート先生が兼任で授業を行っている。……今気付いたが、もしかして学園って人員不足なのだろうか……?


 集合場所が魔道場ではなく野外運動場なのは、魔道場が改修中だからだ。なにやら色々施されていた魔術的な(なにがし)が酷く損傷したそうで、危険なため立ち入り禁止になったらしい。

 ……まあ、()()()()()がぶつかりゃそうなるわな……むしろよく倒壊しなかったもんだ。



「みんな居るか? ……よし!じゃ、授業を始めるな。」


 俺達が最後だったらしく、到着してすぐ先生は授業を開始した。


「みんなこの一月で、初歩的な魔術はだいたい習得した。これでお前たちは魔術師を名乗れる最低限を学んだ事になる。

 そんなお前たちに朗報だ!来週、武術学園アトラスとの交流試合をする事が決まったぞ!」


 交流試合? ピンと来なくて周りを見るが、他の人も俺と変わらず頭の上に疑問符を浮かべている。


「先生、交流試合とは具体的に何をするんでしょうか?」


 丸眼鏡を掛けた男の子が、手を上げ先生に質問した。彼は委員長以外で良く先生に質問をする真面目な子で、俺とはあまり交流の無い生徒だ。

 確かジン・グラシャとかいったかな?


「そうだな、知らない人もいるだろうから説明すると、武術学園というのはこの街に三つある学園の内の一つで、名前の通り武術を主に教えてる学園だ。

 毎年様子を見て、初年度の生徒間で交流試合をするんだけど……。」


 そこで一呼吸置くと、先生は真剣な眼差しで俺達を見渡した。


「ここまで早くやるのは初だ。自信持って良いぞ? それだけ、みんなが優秀って事だからな!」


「「おぉ……!」」


 その感情を伴った称賛に、思わず声が出る。おだても幾分か含まれてるだろうが、ここまで率直に誉められると、こう、なんか嬉しいものがある!

 特にアルバート先生は、普段適当にしか褒めないから、尚更感慨深いと言うもの……!


 見渡すとみんなも心なしか誇らしげな表情だ。……最初から実力者の王子がドヤッてるのは謎だけど、彼は彼で皆が褒められて嬉しいのかな?



「肝心の交流戦の内容だが、ある程度のダメージを受けたら壊れる専用の魔道具を要い、個人戦と団体戦の二回行う。

 個人戦は総当たりではなく、一戦退場で人数分行う事になった。戦う相手は先生同士話し合いで決めるので、戦闘が苦手でも安心するように。」


 ふむ、つまり魔術対武術をする訳か、なら俺達の本命は団体戦か? 個人戦で武術の方が有利だろうし、それに集団でどうやって対処するのかが肝になるかも。

 ……てか人員的に余裕じゃない? 王子ひとりで十分勝てるでしょ?


「団体戦は北の岩石地帯()()()()に先生達が魔術で地形を作って行う。

 ルールは一人指揮官を用意した大将戦だ。指揮官の魔道具が破損したと同時に決着とする。故に魔術を適切に使えば何の問題も無く勝てるだろう。

 誰か指揮官に立候補するものは―――なんだ?」


 ―――突如風切り音が響き、上空から何か大きなものが落ちて来る。

 それは大きな衝突音と砂煙を撒き散らし、俺達から少々離れた地面に落下した。


(なんだ!?襲撃か!?)


 突然の事に動揺しざわつく生徒を制してアルバート先生が先んじて落下地点に近付いていく。


 固唾を飲んでそれ眺めていると次第に砂煙が薄れ、隠れていたものの姿が浮き出て来た。―――女の子だ。灰色掛かった長い髪を土で汚し、()()()()を両手に持つ、どこか死神染みた雰囲気の少女がそこに居た。


 ……なんだ、あいつは? 死神? ……それともまさか、()()()()()

 最悪の想像が脳裏を掠め、咄嗟に魔力を高め纏う。確率としては低いだろう――だが警戒するに越したことはない。俺はいつでも剣を解き放てる様、柄に右手を添えた。


 先の事件のせいか、緊迫する俺達を尻目に少女はおもむろに鎌を一閃し、残留する砂ぼこりを風圧で吹き飛ばす。……が、威力が強すぎたのか風圧で新たに砂が舞い上がり、少女は再度砂に包まれた。


((え……?))


 登場の衝撃がくすぶり、何とも言えない空気が俺達を包み込む。


 ………いや待て、ギャグみたいな展開にはなったが、実際もの凄い威力の一閃だった。とても重厚そうな大鎌だというのに、今の一振には腕をただ降っただけの様な軽さを感じさせる程だ。


 風圧が強過ぎたのだって、刃が少し倒れていたからだろう。これが本気の一振りならもっと威力が出るに違いなく、それこそまさに命を刈り取る一閃と成り得るだろう。



「……あれって、おばあちゃんの所で売ってる『ウォーサイズ』じゃないですか……。買った物好きがこんなところに居たですよ……。」


 何とも言えない静寂に包まれた空間で、クズハさんがぼそっと嘆息するのが漏れ聞こえた。


 なんかそう言われると、途端にコスプレ中二少女っぽく思えて来たんだが……彼女が誰かは知らないがとりあえず魔族と言う事は無さそうだな……。

 


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