魔術師戦
難産でした。
「や、やっとレジスト出来た……。どんだけ強い魔術よ……!」
俺が四苦八苦しながらバルクを救出していると、委員長が起き上がってきた。
「! 無事だったんだな委員長! 起き抜けで済まないがアルシェを頼めないか!?」
助かった! 流石にバルクを見殺しには出来ないがアルシェをこのままには出来ない。正直かなり切羽詰まってた所だ。起きてきてくれてまじで助かる!!
「わかった! 状況はある程度聞いてて、把握してるから! アイリスさんはそのまま、救出作業続けといて!!」
「わかった。話が早くて助かるよ。」
委員長は言い終わるとすぐに触媒の指輪を外し、更には側で倒れてたクズハの指輪も外した。
「何を?」
「うん、ちょっとね? ……感覚だけどこの魔術、指輪を基点に発動してるみたいだから……。よし!」
やることは済んだと、一直線に委員長はアルシェの所に走って行く。救護室に連れてくと思いきや、そのまま怪我に手を当てる。
「《快気功》……これなら何とかなるかな?」
すると、アルシェの顔色が遠目にも良くなっていくのがわかった。
「委員長は治療魔術が使えるのか? 何にせよ助かった。私ひとりでは手に余っていたところだ。」
「少し魔術とは違くて、気功術っていうやつだけど……。治療は得意だから任せてね! このくらいならすぐ治せるから!」
気功術? そんなのもあるんだな……。魔装術は魔術らしいし魔力以外の何かなのか?
そんな疑問を浮かべながらも、俺は少し安堵してバルクの救出に専念する。
方法としては水の魔術を使って浮かび上がらせるといった感じだ。あのムキムキで浮かぶのか? という不安があるが、他に思い付かなかったし仕方ない。
一応魔術で変質させた部分を土に戻すのは簡単にできるのだが、それでは生き埋めにするだけなんだよなぁ……。
「おっ? 浮かんできたか?」
沼の真ん中の方が少し浮かび上がる。泥だらけで見辛いが、あれは背中だろう。
少し遠いので沼を一部土に戻し、足場を作って近付いて行く。手に泥が付くのは嫌なので、剣を服に引っ掻けて吊り上げた。
「がはっ!? ごほっ、ごふっ……。」
沼の外に投げ捨てる。意識は無いようだが、地面とぶつかった衝撃で息が戻ったみたいだ。一応警戒しながら脈を測るが特に異常は無い。
……これで一件落着だな。疑問はあるしいまだに大半の生徒は倒れてるが、委員長曰く命に別状は無いそうだが……少し気が抜けた。悪い気もするが一旦休憩させて貰おう……。
*
「う~ん、くらくらしますう……。いったい何が? ……みんな倒れてるですよ!? バルクは泥んこですぅ?!」
状況が落ち着いて人心地付いていると、クズハさんが起きてきた。他の人がまだ倒れてるのを見るに、どうやら指輪が原因という委員長の予感は当たってたらしい。
「クズハちゃん! 起きたんだね!」
委員長が心底嬉しそうにそう言うと、クズハさんも声に反応して顔を向ける。
「委員長? おはようですけど、これは何があったですか!?」
「……どうやら、みんな魔術の影響下にあるみたいなの。指輪を基点にしてるようだから、みんなの指から外してくれないかな? 起きたてで悪いけど私はいま手が離せないの……!」
「う、うん!」
少々困惑しながらも、クズハさんは倒れてる人達から指輪を外し始めた。
……俺も手伝うべきだろう、だが、どうにも疲労感がすごい。みんなには悪いが、もう少し休ませて貰おう……。
(何にせよこれで皆が起きるなら騒ぎは終わりだ。そろそろ先生も帰って来るだろうしな。)
黄昏ていると、入口の扉が開いて誰かが入って来た。クリフ先生だ。これが噂をしたらなんとやらか?
「遅かったな先生よ、こちらはてんやわんやだったというのに。」
「……すまないな、準備に手間取ってしまった。それで、どうなった?」
「どうとは?」
うん?何が聞きたいんだ? 状況の説明を聞くには少し変だが……。その言い回しだと、まるで何が起きたかは知ってるみたいな……。
「それはだな―――『風壁』」
――突如クリフ先生の背後から短剣が振り下ろされ、金属音を響かせながら透明な壁に止められた。奇襲を仕掛けた犯人は俺のよく知る人物、マリアンナだ。
「アイリス様逃げて下さい!!」
彼女はその場から飛び退くと何かを投げ付ける。
何か球状の物が魔術の壁にぶつかると、とたんに白い煙が広がり、辺りを覆い包む。
「煙いな『清風』」
だが、短縮された詠唱を先生が唱えると、瞬時に煙が掻き消える。
「地よ抉れ『地針』」
「地よ均せ『整地』」
地面から針が数本生え、先生を刺し貫こうと迫り、当たる瞬間砂と化す。
その隙に、いつの間にか投擲された鉄針が先生に迫るが、またしても透明な壁に弾かれた。
「……二属性同時に操りますか。」
「魔導学園の教師なのでね、その程度は手慰みだよ。『地弾』」
先生が足を踏み出すと地面が盛り上り、野球ボール大の土弾が飛び出る。
下から迫り来る土弾のことごとくをマリアンナの鉄針が打ち落した。
「っ……! 戯れ言を!」
「器用だな、それならこれはどうだ?『地波』『風撃』『火炎』」
「なっ!??」
地面が波立ちマリアンナを呑み込まんとする。飛び上がって避けるが、それを予想した様に放たれた風の魔術が命中した。
短剣を盾にしてダメージを抑えるが、その後から火炎が追いすがり爆発する。彼女はその威力を表す様に勢いよく吹き飛ばされた。
「ま、マリアンナ!?」
魔道場の壁にぶつかると、そのまま地面を転がる。意識を失ったのか、倒れ付したまま起き上がってこない。
強い……! いまのマリアンナが見せた数十秒程度の攻防ですら俺が対応するのは困難な程だ。だというのにクリフには傷ひとつついていない。
「……いったい、どういうつもりだ!?」
マリアンナをやられた事で怒りが沸いてくる。正直まだ、状況が理解できてないが――あいつは敵だ!
「どういうつもりだと、まだわからないのか? ――こういう事だよ。」
怒る俺を前にして、嘲る様に言い捨てると、パァン と、乾いた音が突如クリフの手にした物から響く――銃声だ。
「あぐぅ……!?」
それは円筒形の筒だった。銃なのだろう、ゲームや漫画ですら見たこと無いフォルムだが、間違いない。あの筒形の口から、薄く煙が上がってるのがその証拠だ。
はっ、と遅れて銃口の先を見ると――そこには血溜まりの中でうずくまる様にアルシェが倒れていた。
「アルシェ…………。」
「これは魔銃というものだ。魔力の高い相手はその耐性も同様に高い、即死級の攻撃を大怪我で済ます程にな。そういったものを、確実に倒すために造られた魔石を弾丸として打ち出す武器だ。
魔石の強度故に威力はそこそこだが……。見ての通り人間には十分に通用する。」
「て、めぇ!!?!」
冷静に性能を自慢するクリフに頭が怒りで沸騰する。怒りのままがむしゃらに剣をぶつけるが、透明な壁に阻まれた。
ああ゛ちくしょう!うっとうしいなこの壁!!
「アルシェちゃん!? 待ってて!いま治療を!!」
「させんよ『招来“アルキマイラ”』」
「っ……! 何、これ!? 魔物!?」
委員長が慌てて治療をしようとするが、突如として現れたバケモノに襲われて飛び退く。
ライオンの様な頭に虎染みた身体、何の意味があるのか蛇の様な尻尾を持った怪物だ。漫画などではよく見る混成獣だが、実際に見ると酷く異様で、閉口してしまう様な妙な威圧感がある。
「う、邪魔!? 怪我人がいるんだよ!!」
「だから邪魔するんだ。治療されては敵わないからな。」
「……ふむ、もう一体位必要か?『招来“アルキマイラ”』」
クリフの詠唱と共に怪物がもう一体現れると、的が大きかったからか、倒れてるバルクに襲い掛かった。
「させないですよ!!《水手裏剣!!》」
「ぐぁう!!」
クズハが間に割り入るって、怪物の顔面に水で出来た手裏剣を叩き込む。たまらず怪物は足を止める。
だが、ダメージが少ない。怪物の顔には掠り傷さえ付いて無かった。
「頑丈ですねぇ、これ勝てるかな?」
「ぐるぅう……!」
*
斬る。何度でも壁が壊れるまで、切り続ける。
微動だにしないが、気にはしない。耐久が無限ということはない、いつか限界を迎える筈だ!
「愚直だな、少し鬱陶しいぞ?『地波』」
地面が波だつと、呑み込まんと襲い掛かってくる。
俺はそれに対して、直感的に全力で魔力を足に込めると、踏み消した。
「……なに?」
「魔力が多いと魔術は効きづらいのだったな?」
いまのは直感でやったが、過剰な魔力があれば魔術を無効化できるようだ。
それなら何故この壁は壊れないんだ? ……あぁ、上手く剣に魔力が込もって無いからか。
今度は魔力が剣に染み渡る様に意識して振るう。身体に注ぐ魔力が減ったから威力、速度は落ちたが、その変わり剣そのものは強力になった。魔力量のせいか、どこか青く光ってる気さえする程だ。
「っ……!『土壁』」
土がせり上がってきて間を阻む。だが、剣は難なくその土壁を切り裂いた。
「斬ったぞ!!」
「……成長が早い、羨ましい事だな! 火よ 地を溶かし 終わりを告げよ『溶岩弾!』」
溶岩の玉が、眼前に浮かび上がり襲い掛かって来る!
全力で魔力を込めた剣を打ち合わせるが――――嫌な予感がして弾き反らした。
ドォン!!
反らした先で爆音が轟く。溶岩が溢れ、地を抉り溶かしていた。
(っ……! あのまま受けてたら死んでた……!)
冷や汗が背中を伝う。少し有利になったと思ったが、依然としてクリフの方が強いらしい。それこそ、強さの先が見えない程に……!
 




