想い人
「おばちゃん! 自分の変な武器コレクションを自慢しないの! もっと普通のあるですよね!」
「変とは失礼ね、これらはみんなこの街で造られた立派な武器なのよ?」
「変なものは変ですよ! 大体それ使ってる人なんて居ないですよ!」
「そうでもないわよ? この前ひとつ売れたもの」
「……誰ですかその物好きは……。」
俺の怒鳴り声で駆け付けたクズハのお陰で、おばあさんの武器紹介が終わった。
あんなに自棄になってたのに、すぐに助けにきたあたりやはり彼女は善い人だなぁ。
「まあまあ、クズハさんそのくらいで。アイリス様はどんな武器をお探しですか?」
「訓練で使ってるのが片刃の直剣だから、そのあたりの武器がみたいな。後は手数増やしに投げ物だ。訓練用に刃潰ししたのもあるとありがたい。」
よく武器ぶん投げて怒られるからな、それ用のが欲しかったとこだ。
今のところ初回を除いて、王子との模擬戦はしてないが、風刃対策にもなるしな。
「あいよ、その辺だね。ちょいと待っときな」
おばあさんが店の奥に向かう。クズハも心配なのか付いていった。
「訓練用ですか? それならこちらで用意致しますが。」
「わざわざ用意させるのもな、それにいきなり使った方が隙が付けるだろう?」
「なるほど……。」
「もぎせん? アイリス戦うの?」
そこで興味があったのかアルシェが話に加わった。
「ああ。訓練でな。」
「う~ん? わたしも訓練してるよ? 一緒にやる?」
「……いや、辞めとく。」
……電気とかどう避けていいか分からんし……バルクより脆い俺が受けたら多分死ぬ……。
雑談してると二人が戻ってきた。腕には幾つかの武器を抱えている。
……今更だがあのばあさんパワフルだな……。
「よいしょっと! さあ!これなら文句の付け所がないだろう!」
「うん! 良い武器ですよ!」
二人は次々と剣を鞘から抜いて机の上に陳列した。
意匠や造りが様々な武器が並ぶのは目に楽しく、まるで宝石店の展示を見るような心持ちにさせてくれる。
この内の一本が自分のものになると想像するだけで気分が上がるというものだ。武器をコレクションしたくなる気持ちも何となく解る。
「よい剣だ……。」
「ですね、意匠も造りも一流かと。」
よかった。目利きには不安があったが王子もそう言うってことは良いものなんだろう。
「まずは直剣さ! 片刃の剣は少ないからね、全部持ってきたよ!」
「触ってみてもいいか?」
「ああ、握るまではいいさ! 振り回さないでおくれよ?」
「もちろんだ。」
剣をひとつ握って持ち上げてみる。
案外軽い、模擬戦の時の剣より軽い位だ。もしかしたら訓練用の剣は重めになってるんだろうか?
試しにひとつずつ、全ての剣を持ち上げてみた。
すると重さは対して変わらないが、重心が違うのがわかる。ひとつひとつ個性があって、長い剣でも案外剣先に影響を受けず、逆に短いのに先が重いなど様々だ。
すこし試したくなったが自重した。注意されてなければすこし位と振り回してたかも知れない。
「どうだい? いい塩梅のはあったかね?」
「ああ。これにしよう。」
さんざん迷った結果、選んだのはいつも訓練で使ってるのと、同等の長さをした剣だ。
結局のところ使いなれた長さがちょうど良いと感じた。
「あいよ、そんじゃあ他はしまっとくよ! 次は投げものだったね? ちょっと待っとくれ!」
俺が選んだ剣を置いて、他を鞘に仕舞うと奥へ持っていった。ナチュラルにクズハが手伝ってるが、まあ今更か。
「そういえば私がメインで見ていたが、二人はいいのか?」
「そうですね。私は自前のが既にありますし、見るだけでも楽しいですよ。」
「わたしも! 色々あってたのしいよ!」
最初に行こうと言ったのは王子だろうに……冷やかす気だったのか?
「アルシェは武器を扱えるのか?」
「うん! 槍をつかうよ!」
ほう?槍か、意外だな。小柄な彼女が長物を振り回すのは想像し難いが……。まあ、俺が言うのも変な話か。
「いいですね!槍は魔術を基本に使う者に、人気ですから。ぜひ一手お願いしたいところです。」
……王子ってたまに戦闘狂だよな?
*
アイリス達が投げものを見てあれこれと話していると、扉が開いて、からころと鈴が鳴らしながらひとりの男が入ってきた。
「うーす、ばばあいるかー? おお!クズハ!……に王子に天然女!? てめぇら何故ここにいんだ!?」
……ハブられた。
「やっほーバルク!」
「誰かばばあかっ!!」
「やっ、ぶねぇ!!?」
おばあさんは突如側の投げナイフを掴むと思いっきりぶん投げた。
挨拶を返そうとしていたバルクは、一瞬反応が遅れたが、間一髪空中でナイフを掴み取る。
「な、ななな何しやがる!??」
「……怒りで手が滑ったね、まさか外すとは……若さかねぇ。」
「当てる気だったのかよ!? あと歳だぜ!?」
「誰がばばあかっ!!」
「言ってねぇ?!」
ツッコミを入れたバルクに、今度は二本のナイフが飛来する。彼は空いてる左手と口で何とか止めた。
「商品を咥えるんじゃないよ!!」
「ひふひんふひんはろ!!」
なんて言ったか分からないが態々ツッコミをいれる。……懲りないというか律儀というか……。
多分わざわざ掴んだのも商品だからとかなんだろう。変なところで糞真面目なやつだ。
……あっそっか! 誰かに似てると思ったけどそうだ、親友に似てるのか。この外面だけ悪ぶってる感とかまさにそっくりだ。
「はあ……、それで、なんで居んだ?」
俺がうんうんと納得していると、どこか疲れた様子でバルクが話し掛けてきた。
「街を見ようとしたのだが、そしたら彼女が案内を買って出たのだよ。」
「そんでか……てかそれでなんでこんなところに……。」
「お前も来てるじゃないか? 武器を買いに来たのか?」
授業の時から考えるに素手のイメージだが。
「悪いか? 俺はその、短刀を見にだな……。」
「あれ? バルクも武器壊したですか?」
「!? か、関係ねぇだろ! ちょっと武器見てみたくなったんだよ!!」
「? ああ負けたからですね。でも武器変えても強くはならないですよ?」
「……るせぇ、今度は勝つ!」
そういやクズハは武器を壊したんだっけ? ……なるほど、ははぁ……こいつもしや……へぇ~。
「こんども勝つ! つぎはやりすぎない……!」
「……そうか、てめぇも居たんだったな、てかもう勝つ前提かよ……。」
「もしよろしければ私もお相手しますよ!」
「…………止めてくれ……。」
「バルク! それなら、それがしもたまには相手になるですよ!」
「……………泣きたい……。」
こうして俺達の放課後は賑やかに過ぎていった。
……結局武器屋しか行ってねえな……。
***
目が覚めると白い部屋のベッドで横になってた。
「こ、こは、?」
疑問を口にしようとしたが、口がからからで上手く声が出ない。
俺はどうしてここに? 確か戦ってて………。
……っ! 鋭い痛みが全身に走る。特に痛みが強いのは腕だ。
思わず袖を捲り腕で見るが、想像に反して特に怪我ひとつ無い。
(どうなってやがんだ?)
「目が覚めた様だな。」
! 困惑していると、思いの外近い距離から声がした。
「おあえは?」
「………水だ。飲みたまえ。」
……しゃあねぇ、飲むか。
差し出された水差しを呷る。
「ぁ゛あ゛あ、あ~、おし。」
「どうかね? 喉に良い薬草を浮かべてみたのだが。」
「……そんでこんな苦げーのかよ……。全身痛いがそれ以外は問題ねぇぜ?」
「それは良かった。痛みは我慢してくれ。処置した者に依ると、怪我を急激に治したせいで起こる不具合だそうだ。すこししたら勝手に治る。」
怪我だあ?――そうか!あの天然女!………てことは俺は負けたんだな……。
「――思い出したかね?」
「……あぁ、それで何のようだ? 看病してたって訳でもないんだろ?」
「いやなに、補習だよ。きみだけ授業を受けれなかったからな、それでは授業の進行に支障が出る。」
「そうかい……。」
……なに考えてるかわかんねぇやつだが、割と生徒思いなのか? ……いや、王子さまに気い使ってるだけか。
「なら行くとするか。俺も用事があるんでな、さっさと済まそうや。」
「……話が早くて助かる。」
俺はベッドから飛び起きる。いきなり動いたせいで全身に痺れる様な痛みが走るが無視だ。どうせ錯覚だろうからな。
「ほんじゃあ行くかね、俺は道知らねえんだ。案内してくれ。」
「大丈夫かね? ……まあ良いこっちだ。」
男の先導に従って後を進む。今何時だ? まだ日は傾いてないが、武器屋に行きたいからな、すぐ終わらせよう。
歩くペースがのんびりで焦れてきた辺りで、男が徐に口を開いた。
「――そういえばお前は両親を失くしてたのだったな。」
「…………それがどうしたよ。」
「いやなに――――――」
「……はぁ?」
***
視界の先ではクズハのやつが投げナイフでジャグリングをしていた。
それを見て王子と天然女がすごいすごいと拍手を贈る。
店主のばばあはそれを見て苦笑して、編入生の女が何事かを話してた。
(はぁ。)
誰にも気付かれない程度に小さく嘆息する。
(どうしろってのかね?)
クズハの方に向きかける視線をずらして、あの天然女を向く。王子さまと一緒にクズハに拍手してる姿は仲の良い兄妹、家族のようで……。
『その両親を殺したのがアルシェだと言ったらどうする?』
(…………俺にどうしろって言うんだよ……)
探してみるが、俺の中に答えは無かった。
武器購入のお金はマリアンナが払いました。
 




