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國取り勇者  作者: 朝方
風纏う国
17/101

対戦




 魔道場の中。少し開けた空間でアルシェとバルクが対峙する。


 両者の距離は大体十五メートル程、近接をするには遠く、魔術を使うには違い絶妙な立ち位置だ。



「両名共にに準備は良いか?」


 クリフ先生が二人に確認する。


 俺が遅れてる間にクリフ先生が審判をやることに成ったらしい。流石にそのまま戦うのは心配だったがこれなら少しは安心だろう。


「勿論いいぜ!」


「うんいいよ! ぶっとばす……!」


「! 上等だでめぇ!返り討ちにしてやるよ!!」


 二人共やる気満々だ。大怪我をしなければ良いのだが……。


「元気が良い様で何よりだ。これより模擬戦を開始する。解ると思うが過剰な攻撃は禁止だぞ?

 ……よし、初めだ。」


「おぉ!」「うん!」


 クリフ先生の静かな声で戦いの火蓋が切られた。



 先制を取ったのはバルクだ。得意な近接に持ち込む為か一直線に駆け寄る。


「《部分獣化“半獣”》」


 身体がゴツくなりとてつもないスピードで距離を詰める。


「痺れよ『糸電』」


 あわや絶体絶命かと思ったが、アルシェも負けてはいない。

 短い詠唱から放たれた細い糸の様な電気がバルクを襲い足を止めさせた。


「ガアァ!! 糞ガぁ!!」


 低い獣染みた呻きを上げ、痺れた足を無理矢理動かして前進する。根性の成す技か、その速度は痺れる前とそう見劣りしなかった。


 遂には距離を殺し切り、拳を振り襲い掛かる。


 ()()()()


「雷よあれ 雷は神の声 地を汚すものを諌める怒声なり ならば今こそかの者に裁定の槌を下せ」


 アルシェは既に魔術を完成させている。



「雷よ纏い砕け『雷槌』」


 回転しながら現れた紫電を放つ石の小槌が現れ、バルクを弾き吹き飛ばした。


「ぐぎゃあぁ!!」


 十メートル程吹き飛んで転がる。全身から煙を上げながら痙攣している。特に直撃した腹部の傷跡が痛々しい。服が焼き破れ黒々と皮膚が焦げている。


 ――生きてるよな?


 俺の懸念をよそにバルクが弾かれる様に起き上がった。


「ぜっ。はぁぁ! し、死ぬかと、思った。なかなか、やるじゃ、ねぇか。はぁ、はぁ。」


 息も絶え絶えだ。もう立っているだけでも限界に見える。それでも根性で虚勢を貼っていた。


「バ、バルク! それ以上はだめだよ! 治療しなくちゃ!」


「クズハ……。意地があるんだよ……!負けてられるか!」


 クズハさんが止めるが、逆にやる気を煽ってしまったらしい。

 バルクは獰猛に笑う。


「むぅ、げんきそうだね。ちょっと手加減しすぎたかも。」


「へっ! 追撃しなかったのがてめぇの敗因だ! もう当たらねぇよ!!」


 バルクが飛び掛かる。さっきより速度が落ちているがそれは慎重に成っているだけだ。勢いに陰りは無く負傷を感じさせない。


 完全に油断していたのかアルシェに詠唱をする様子がない。


 好機だと見て、大胆かつ慎重に打撃を放つ。威力より速度に重きを置いた一撃だ。速度にして王子の風刃に匹敵しており、これを至近距離で避けるのは困難極まりない。


 アルシェはそれに対して、まだ滞空していた紫電を纏う石の槌を()()()()殴り掛かった。



「あっぶねぇ!? なんでそんなもん持てるんだよ!?」


 バルクは即座に腕を引き、身を躱した。


「? こういうものだから。」


「ざけんな! 自分にだけ効果がない魔術とかおかしいだろ!!」


「どんまい……!」

「憐れむな!ど天然!!」


 そこからは接近戦が繰り広げられた。一進一退の攻防だ。

 動きはそれなりだが強力な一撃を防御に使うアルシェに、速度は速いが攻撃を警戒して攻めきれないバルク。


 獣人の治癒力の高さからか、時間が立つ程速度が上がるバルクが優勢か。少しずつ癖や攻撃範囲がわかってきたのか攻め手が苛烈に成る。


「っ!『雷火』」


 捌き切れないと見たかアルシェが札を切った。

 槌から紫電が拡がり空間を焼き焦がす。


 だが獣の感かバルクは即座にその場を離れ難を逃れた。



「あっ、ぶねぇ! へへっ!だが避けたぞ? もう二度と当たらねぇぞ?」


 冷や汗を流しながらも得意気だ。無理もない、さっきのは間違いなく切り札の一つだろう。あれを無傷で躱されたのだ。アルシェの勝ち目は少なくなったに違いない。


「てめぇの技の範囲、攻撃の癖、対応速度は把握した。次で決めてやる!覚悟しやがれ!!」


 バルクは自分から距離を開け、大体二十メートル程の位置に陣取った。

 両腕をクロスして構えると唸る様に魔力を高めだした。


「うおぉ!!」


 全身が隆起しだし全身が赤み出す。爪や牙が伸び、完全な獣と――――


「――雷よ纏い砕け《雷槌!!》」


 化す寸前、紫電を纏った小槌が豪速で飛来した。

 アルシェが小槌を()()()()()のだ。


「く、くそったれ!!《完全獣化!!》」


 変態中で避けないと悟ったのか腕を盾にしたバルクに小槌が突き刺さる。

 紫電を撒き散らし、確実に最初の一撃を上回っているのを証明するような爆音が鳴り響いた。


「がっ、はぁ!!」


 黒煙を吐きながらバルクが倒れる。完全獣化の影響か吹き飛びはしなかったが、その分大きなダメージを受けたようで腕が完全に炭と化していた。


 ……あれ死んだんじゃ……。


「あっ。やりすぎたかも……。」


「バ、バルクぅ……!?? 生きてるですよね!?」



「………る、、せぇ、。いき、ぇる、に、、きま、、だろ、」


 ぽつりと言ったアルシェのことばにクズハが絶叫する。

 それで意識が戻ったのか彼は蚊の鳴く様な声で呻く。


 クズハはその声に慌てて駆け寄ると介抱するように手を当てた。


 それをよそにクリフ先生が冷静に宣言する。



「勝者アルシェ。……私はこれからバルクを養生室に連れていくが、お前達は常識の範囲内で授業を続けるように。

 ……よし、では誰か運ぶのを手伝ってくれるか? こうデカイと一人では骨が折れる。」


 確かに今のバルクの身長は二メートルを越えている。魔法でも使わないと一人で運ぶのは無理だろう。


 てかクリフ先生もっと早く止めろよな! 居る意味ほぼ後処理位じゃないか!


 俺が少々不満に思いつつも手伝いに声を上げようとした寸前、一人の男が前に出た。



「では私が運びましょう。力仕事は得意ですので。」


「む。ジョセフ様……。お手を……いや、好意に甘えよう、助かるぞ。」


「はい! では先生は養生室までの案内をお願いします。私はまだ校内の地理に明るくないので。」


 そう言うと同時に王子はバルクを横抱きにした。精々が男性の平均身長位の王子が殆ど獣と化した二メートルはある大男を抱き上げる姿は、視覚的な違和感がすごい。


 というか最初バルクが王子に難癖付けた事が元でこうなってるのに張本人に介抱されるとか……。プライドがずたぼろになりそう……。


 俺がそんな呑気な事を考えてるとバルクを連れて二人は魔道場から出ていった。


「あっ! それがしも行きますので!」


 それを追ってクズハも出ていく。



(さてと。)


 先生達を見送ったアイリスはざわついている魔道場を見渡すと、一人の少女の下に歩いていく。


「アルシェ。勝利おめでとう。」


「アイリス!」


 冷や汗を流し涙目のアルシェが顔を上げる。


「で、でもわたし。やりすぎちゃったよ? 悪い子だよ?」


 ぅ……涙目で不安そうに見上げてくるアルシェは彼女には悪いがとてもかわいかった。変な扉が開きそうなくらいに……。


 アイリスは身体のおくから沸き上がるSっ気を、数十秒掛けてどうにか抑えると、安心させるようにアルシェに語り掛ける。


「…………そんなこと無いさ。クリフ先生が止めなかったのが悪いのであってアルシェは悪くない。」


「……うそだよね? いますごい間があったよ?」


 済まない。それは君じゃなく煩悩が悪いんだ……。



「嘘じゃないさ。私は慰めるのに慣れてなくてな、どうしようか迷ってしまったんだ。」


「……そうなの?」


「ああ! それよりすごい魔術だったな? 私は魔術を習得してないから出来ればどういったものか聞きたいのだが、良いか?」


「! うん!」


 よかった。やっと笑顔に成ってくれた。やっぱり友達が元気ないと俺も寂しい気持ちになるからな。


 それからはアルシェの魔術談義を聞きながら授業を過ごした。



「えっとね。この魔術はね。天を表す雷を大地の産物の鉱石に纏わせて人を裁く裁判のカゼルのように扱うことで、天と地から姿を成して人を裁くという、自然の構図を擬似的に表現する魔術でね! 雷は扱いが難しいし地との相性が悪いけど、詠唱に雷の事をおおくして地との関連性をたかめることで解消してるの! それを持つ事で自分の事を神の御使いとして特殊な《魔装術》を発動させれるんだ! それでね! この腕輪が触媒なんだけど――」


 ……動けなかったとも言う。

 彼女魔術オタクだ。正直半分も理解出来なかったが、魔術が好きなことは良く伝わって来た。

 きらきらとした目で身振り手振りして楽しそうだ。


 ……まあ、アルシェが楽しそうなら良いか。





 * * *





 バルクを養護教諭のシャディ先生に預けると養生室を後にした。

 一人付いてきてた少女は彼に付き添うようだ。


「それで何か用ですか?ジョセフ様。」


「用という程では無いですが聞きたいことがありまして。」


「と申されますと?」


 訝しげに見るクリフをジョセフは鋭く見据えた。



「いえ、貴方彼を()()()にしようとしましたね?」


「……どうしてそのような事を?」


 目を見返してクリフが言う。堂々としたものだ()()()()()()()()()()()()()()


「……あの攻撃は確実に命を奪う一撃でした。わざと見過ごしましたね?」


「考え違いだよ。現に彼は生きている。」


「それは――」

「わかっている。君が()()()からだろう?」


「私としてもあの威力は想定外だったのだ。そもそも生徒の実力は仕事上把握しているが、私としても彼女が勝とは思っていなかった。彼女に勝ち目があるとするなら獣化する前に倒すくらいだと考えてたくらいだ。」


 ふてぶてしく告げるクリフにジョセフは困惑した。


「……では貴方に害意は無かったと?」


「勿論だ。それに生徒を害す意味など無いだろう? 私の責任問題になってしまう。

 私自身、研究畑の人間だからな。今回の件でデータだけではいけないと実感したよ。」


 沈痛そうに目を閉じ首を降る。


「……そうですか、疑ってしまい申し訳無い。」

「謝る必要は無い。さっきの出来事で私の能力に疑いを持つのは分かる話だからな。」


「では私は仕事があるので失礼する。」


 そう言うと身を翻してクリフはその場を立ち去った。



「……口が回る男だ。」


 クリフ・ベネディクト。彼は元宮廷魔導師の次席だった男だ。魔術については私の遥か上を行く、そんなやつが魔術の威力を見誤るだと? 私でもわかったというのに?


 ()()()()()。それに彼は()()に罪を詰問されたというのに、動揺一つ見せなかった……。なかなかの食わせ物だ。


(父上が怪しい輩は排除したと言ってましたが、見落としましたね? ああ見えて父は抜けてる所がありますし……。今度あった時に備えて情報を集めて置きますか。)


 警戒を新たにジョセフはアイリスの元、魔道場に足を向けた。



 そう、クリフ先生が去った方向へ……。




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