習得
読み返したところ、読みづらかったため修正しました。内容に変化は御座いません。
馬車に揺られ、これから住む屋敷にやって来るころには日がすっかり落ちきっていた。
屋敷は城壁に囲まれていてお城みたいだ。重厚な門戸は頑丈そうで、爆弾を受けても小揺るぎもしなさそうに思えた。
奥に見える家屋も見事で、夜に映える姿は荘厳さすら感じさせる。
まさに現代人がイメージする貴族のお屋敷そのもので、俺は深い感慨を覚えた。
マリアンナが門の先の警備員に話掛けると、門扉が重そうな見た目に反して物静かに開けられる。
中に入るとよく手入れされた庭園や厩舎が見え、その全てが作り出す調和を、素人目にも感じさせ、一層見事な景観に思わず感嘆の息を漏らした。
「……見事だな……。」
「はい♪ こちらの御屋敷は代々王族の所有の別荘と成っておりまして! この町一番の豪邸に成っております♪」
「なるほどな。」
王族の持ち物ならこの素晴らしさも頷けるな。これから俺が我が物顔で暮らすと思うと、場違いに思えてならないな。
*
「では行くぞ?」
「おう!がんばんなお嬢!」
お屋敷の庭に隠れるように造られた。だだっ広い空間で、俺は深呼吸をする。
俺は現在バエルを伴って、夕食後の訓練に臨んでいた。
出来るはずだ。三人で語り合ったことは無駄ではない、魔力を制するのだ!
己を奮い立たせ、出来ると言い聞かせる。
……よし。始めよう。
まず最初にイメージだ。
魔力を何に例え、操作するか。これが鮮明な程、扱いが容易に成る。俺はいつも水道をイメージしてたが、これではダメだった。ならば他のものをイメージし直す必要がある。
これについては話し合って各々のイメージを聞いて来たから参考に出来るだろう。
まず、王子のイメージは風。吹き付ける風の強さで魔力をイメージしているらしい。だが俺には合わなそうだ。
次に王子の魔術の先生だ。彼か彼女かは聞いて無かったが、その人は魔力を土に例えたらしい。
曰く、土を掘るのを魔力を引き出す事に、最初は硬いが何度も掘ると土に空気が含まれて柔らかく為るのを魔力の習熟に例えたそうな。
良い例えかもだが俺には合いそうもない。それで例えるなら俺の魔力は流砂だからだ。軽いだろうが、もろともに呑み込まれる気しかしない。
最後はバエルだ。バエルはこれといったイメージがないとの事だが、強いていうなら温度だそうだ。バエルは魔力を暖かいものと感じるらしい。
温度……なんとなくしっくり来るが、曖昧過ぎて制御が出来そうもない。燃え尽きる気がすごいする。だが、なんだか掴んだ気がした。
要は温度を調整出来る物を思い浮かべれば良いのだ。
…………思案する。温度を調整……エアコンとか?……駄目だリモコンで魔力を操作出来る気がしない。
もっと直接的に操作しないといけない……温度なら火とか良さそうだ。……なら、ガスコンロとか? ……いや駄目だ、フライパンがイメージ邪魔になる。かといって蝋燭やチャッカマンはオンとオフしかないし……。調整、火、ガス、火力?
うん? なんかピンと来たぞ? そうだ!昔学校で実験したあれなら! 名前は忘れたけどガスバーナーみたいなやつで、ガスの量と空気の量を調整出来るやつ!
それならイメージ出来る気がするぞ? いける!いけるぞ!とりあえずやってみよう!
ふう~~。
細く息を吐くとイメージを鮮明にする。
魔力はガスに、体力を空気に置き換える。空気が多過ぎると火力は弱く、ガスが多過ぎると勢いだけに成り息切れする。
ならば中間。最も熱く色づいた炎を目指して魔力を引き出す!
ねじを回すように慎重に魔力を引き出す。空調ねじは残念ながら全開だ。弄ることは出来ないがイメージとしては十分だろう。
次第に全身から魔力が引き出され、身体に纏わり付いているのが熱として感じられる。
――よし、順調だ。あとは一定で魔力を維持するだけだ。
魔力のねじを回すのを止め、勝手に動かない様に想像の手で抑え付ける。
………どうだ? 感覚では維持出来ているが……。
バエルをちらりと見ると力強く頷かれた。どうやら出来ているらしい、抑えきれない笑みに口元が緩んでるのが自分でも分かった。
――ならあとは維持するだけだ。だが思いの外簡単に制御出来る。試しに強めたり弱めたりするが、バエルが百面相するだけでなんともない。この位の魔力量なら、一度コツを掴めば余裕のようだ。
一分は維持出来たし、試しに魔力のねじを緩めてみる。油断しないようにゆっくりと。
ある程度回したら維持出来るか確認、回しては確認を何度か繰り返すと、ある段階で維持が完全には出来なくなり、魔力がどんどん出てくるように為った。
慌てて魔力のねじを締めようとすると、少しの抵抗があったものの、魔力を弱めるのに成功する。
どうやらこの辺が俺の限界らしい。
感覚ではねじを三捻り位だろうか? これ以上は間違いなく暴走させるだろう。
「ふう……ヒヤリとしたが、ものにしたみてぇだな! ちょっと魔力を弱めてから、歩いたり走ったりしてみてくれや。」
「分かった。」
言われた通り魔力を緩める。三分の一位までねじを締めると、まずは歩いてみる。
維持に問題は無いがなんだか変な感じだ。まるで体重が軽く為った感じがする。普段の歩きをしようとするとスキップみたいになってしまう。
だが、少し練習してるとなんとなくコツが分かってきた。要は地面を蹴る力が強すぎるのだ。それに慣れさえすればなんということもなかった。
十分普通に歩けるように成ったので、今度は走ってみる。向かう先は城壁だ。もし止まれなくなっても壁なら蹴って勢いを殺せるしな。
さっきまでとは逆に、地面を蹴って前に進む。軽く蹴ったつもりだがびっくりするくらい加速した。もう既に素の全速力に近い速度だ。
またも慌てて止まろうと足を出すが、勢い余って飛び上がってしまった。まるで某ゲームのキャラクターの様な二段跳びに思考が停止しかけるが、現実は止まらない。
どんどんと城壁が近くに迫ってくる。跳び跳ねた事で速度は少し落ちているがこれでは衝突は免れまい。ならば足からぶつかれ! とばかりに跳び蹴りを壁にぶちかました。
どぉん!と衝突音を鳴らして、やっとこさ足が止まる。勢いよくぶつかった割には怪我もなく、城壁も無傷だった。おそらく魔力によって、耐久力も上がってるのだろう。
「じゃなければ怪我じゃ済まないだろうからな、当然といえば当然か……」
(はぁ~焦った。まだ心臓がばくばくしてるよ。)
ともかくとして、魔力の維持はぶつかっても問題なかった。この位の魔力ならば、よっぽどの事がない限り暴走は起こらないだろう。
とりあえずは訓練だ。次は早歩きで試してみよう。
………
よし、これで早歩きなら完璧だ。
……ちょっと地面が酷い事に成ってるがご愛敬だろう、多分……。
……これであとは少しずつ速度を上げてって慣れるだけだ。この調子ならすぐに走る事も不可能じゃないに違いない。
それが出来れば次は急ブレーキと急加速の練習かな? ……なんか車の教習みたいだな……。
「お疲れさま、お嬢。一段落付いたろ? なら、あとは明日にしときな。明日からお嬢は学園なんだし、初日から寝坊助じゃしまらねぇぜ?」
早速訓練に入ろうとするとバエルに止められた。
……そうだな、無理して今日やることでは無い、か。それに、言われた通り明日から学園だ。ただでさえ入学式直後に編入するのにこれ以上悪目立ちは出来ない、か。
「……そうだな、今日はもう休むとしよう。 マリアンナ!湯場に案内するが良い!」
「はい! 畏まりました!アイリス様♪ それではこちらへどうぞ! お着替えも用意しておりますので♪」
お、おお……。試しに呼んでみたら本当に来たよ……しかも一瞬で……。メイド貴族、流石なり……。
てか、よく考えたら現れた方向には城壁しか無いのだけれど……もしかして潜んでた?
「お……おう、流石だな。それじゃあ頼んだぞ。」
「はい♪」
「お嬢、またなー。」
誘導されるがままに、俺は風呂場に向かう。
っとその前に……。
「ああそうだ。 バエルよ。」
「おう? どうしたよ?」
「いや、礼がまだだと思ってな。……ありがとう。お前のお陰で《魔装術》が収得出来た。感謝している。」
これは言っとかないとな。
俺の言葉にバエルは予想の埒外の事を言われた為か、まるで奇妙なものを見た様な顔をする。
……いや、流石に失礼ちゃう?その反応?
「……よせやい、おらぁ仕事でやってるだけなんだからよ!」
「ふむ? おかしいな、バエルの仕事は護衛のはずだが? ……それに城で教わる時には、仕事の前だと聞いた気がするが?」
「……あー……なんだ。…………どうしたんだよいきなり……?」
「さっきも言ったが、礼がしたかっただけだ。迷惑だったか?」
「あー……迷惑じゃねぇよ。礼を言われて悪い気がするほどひねてはいねぇしな。ただ言われ慣れてねぇんだよ。」
? そうなのか、よく教育係りをしてると聞いたが……まあ、なんとなくバエルに礼を言いづらいのは分かるけどな。
「それは教え方が悪いのではないか? ……私ですらたまに性格悪いと思う程なのだから。礼をする気が無くなっても仕方ないぞ?」
「あー……まあそうだな。でもよぉ、今更だぜ?それ。おれも変える気ねぇしよ。」
まあそうだろうな。今更変えられてもきしょいだけだし。
「変えろとは言わないさ、ただ俺は礼を言うから慣れろって事だ!」
言い捨てて屋敷に早足で向かう。これ以上、礼を受け取るのを渋られては照れ臭さで蹴り飛ばしかねないからな!
「あっ!はははっ! なんだそりゃ!」
なんか後ろから笑い声が聞こえるが無視だ、無視。
俺は明日に備えないといけないから忙しいのだ。付き合っている暇はない!
「ふふっ♪ こちらですよ!アイリス様! 案内しますので付いてきて下さいませ♪」
「おっと、済まないな。」
「いえいえ♪」
いつの間にか前に回り込んだマリアンナに軌道修正をされながら風呂場に向かう。
………て か、本当にいつ回り込んだんだ? まったく気づかなかったし、さっきまでうっかり《魔装術》使ったままだったんだけど……。
もしかしてマリアンナって忍者かなんかなの? ……まったく隠形だけじゃないじゃん……。
……ともかく、明日から学園だ。
まだ上手くやっていけるかは不安があるが、とりあえず魔力を安全に扱えるように成ったし授業で魔力を暴走させる危険は無いだろう。
魔法を使えるように成るのが楽しみだ!
* * *
真っ暗い闇中、わたしは灯りも付けずまだ真新しいベッドの上で寝転がる。
数日前にいつも居たところから連れ出されてから、何日かは身体検査を受けたり、色々な事を聞かれたりで慌ただしく窓の外を見る暇もなかった。だけど、なんだか明日からはまた何か変わるらしい。
なんと明日から学園?という所に行くらしい。
学園……。先生曰く勉強するところとの事だけど、今も先生から教わってるのはおんなじだし、なんでそんなとこ行く必要があるんだろう?
(おんなじくらいの人がいるとも言ってたけど、よく分かんないよなー)
おんなじくらいのが居たってなんなんだというのか? ……もしかしたらわたしが知らないだけでいっぱい居ると、魔法で頭が良くなるのかな?
どういうことだと考えてもまったく分からなかった。勉強不足なのだろう。
ただ、分からなくてもたった一つだけ楽しみな事はある。
(窓の外の景色はどんなのなのかな?)
そのことを考えると途端にわくわくしてくる。
外にある建物や木々に草花、なにより青空! それらはどんな風景を造り出してそこにあるのだろう。それを想像するだけで何日だって夜を越えられそうだ!
「でも寝なくちゃ、夜遅くまで起きてるのは悪い事だから。」
悪い事はしちゃだめだ、悪い子に為ってしまう。それはいけない。
だってわたしは、勇者なのだから。
良い子でないといけないのだ。




