召喚にかかる労力と精神的苦痛
アズール大魔法王国。ラシナーン大陸の中心に位置し、古の昔から存在する王国である。
その国名から分かるように、沢山の魔法使いを輩出する。子供達は歩きだす前から魔力を巡らせ、喋りだす前から魔法を使う。
当たり前のように生活に魔法が使われる。だから、平民も当たり前になんらかの魔法を使う。兵士も、騎士も、令嬢も、パン屋のおじさんも、とにかく魔法が使えると言う国である。
ちなみに、"大魔法王国"と呼ぶのはご高齢の貴族だけである。
ランドルフ・マクファーン(15歳)、魔術師団所属、平団員。
魔術師団には一般教養が終わった14、5歳から入団試験が受けることができる。
ランドルフは人より魔力量が多かった為、13歳から仮入団を許可された。たいして嬉しくない。
何故なら…
「また召喚ですか…」
ランドルフは先輩魔術師ティオルドに嫌そうな顔を隠しもせず言った。
「そろそろ花の季節だからなぁ」
ティオルドがそれにのんびりと答える。
アズール王国では毎年花の季節に建国の祭がある。古の昔に魔物に蹂躙されていた人々が命がけで召喚した勇者様と手を取り合って戦って、アズール王国の石杖を築いたと言う伝説があるのだ。
その花の季節の祭りに、召喚魔法の儀式が行われる。その儀式で、聖兎様やら聖鶏様やらが召喚される。その(兎やら鶏やら)為に、召喚に参加した者は約1ヶ月ほど使い物にならなくなるくらい、魔力を使うのだ。
ありがたい聖各種動物様は王城の牧場で大切に飼育されることになる。勿論食べたりはされない。
聖牛様のお乳はありがたく消費する。聖鶏様も拝んでから卵をいただく。聖ワンコ様や聖ニャンコ様は家臣(と言う名のモフモフ好き)に下賜したりする。
しかし、聖兎様の異様な召喚率の高さに聖兎様の部屋(という名の小屋)が間に合わず、既存のお部屋に新たなる聖兎様を放り込んだら1ヶ月後には聖兎様の子供が6匹産まれる事となった。
なので、聖動物様の一部はオス限定で去勢される事となっている(涙)
ランドルフは一昨年初めて召喚の儀式に参加した。とはいえ、仮入団中だったので、儀式の準備の手伝いと、儀式中は大まかな流れを見ていただけだ。
先輩魔術師達がすごい汗を流して苦しげに召喚したのはお乳の美味しい聖牛様(推定2歳)だった。
力一杯参加した去年は約100年ぶりにドラゴンの召喚に成功した。いや、成功してしまった。
基本的に召喚されるのは小動物が多いので、捕獲しやすい部屋で召喚していた。
召喚される生き物は波長が合うものがよびこまれるのかアズール王国に敵意を抱かないものが召喚されるようなので、保護には比較的苦労しないのだが、たまに飛ぶ生き物だったりすると召喚直後にサヨウナラとなる事がある為である。
しかし、去年召喚されたドラゴンは石造の塔の普通の部屋にみっちり出現し、壁、天井を破壊した。
突然召喚されたらドラゴンだって驚くのである。ましてや、石の天井に頭をゴーチンして石がボコボコ落ちてきたのである。
さすがのドラゴンもちょっぴり怒った。怒って暴れてさらに壁を破壊した。魔術師達も蹴散らした。ちょっとした地獄絵図だ。さらに炎を吐こうとした瞬間、びびって魔力暴走したランドルフに氷魔法で凍らされた。
そんなこんなで今年の召喚は離宮の裏庭を柵で区切り召喚魔法を行う予定になっている。
回復専門の魔術師もすぐそばに控えている。
何故そうまでして召喚するのか。
そう。それはここがアズール大魔法王国だからである。
召喚魔法は今ではアズール王国にしか伝わっていない秘法になっている。近年大きな戦争は起こってないが、こんな大魔法を扱えるすごい国なのだぞよ的な牽制でもあるのだ。
「国王陛下がいらしたら始めるぞ〜」
「ウィ〜ッス」
召喚の魔法陣は既に書いてある。複雑な術式への理解が必要なのは一部の上級魔術師のみであり、後は召喚に使う大量の魔力の供給のための人員なので、術式を使う魔術師に魔力を注ぐのみである。
「去年の召喚はすごいの出てきたからなぁ〜」
ティオルドがのんびりと笑顔で言った。
話が聞こえたらしい近くの魔術師達はその地獄絵図を思い出したようで身震いした。
国王陛下がやって来られる。みな、その場で跪く。
「古より続く我がアズール王国の…」
滔々と開始の宣言を始める。これは毎年変わらない。公開しているわけではないので形骸化したものだ。
儀式は粛々と進み、召喚の中心となる第一魔術師団団長が術式の展開を始める。
団長の術式展開が終わると魔法陣が薄く、青く輝き出す。
それを合図に魔術師達は魔導士団長に魔力を注ぎ込む。
『去年の召喚はすごいの出てきたからなぁ〜』
あれは嫌だなぁ…
俺あれに巻き込まれて死んだかと思ったって言われたんだよな…
…あいつ、本当に敵意無いやつだったのか?
みんなの頭に去年の阿鼻叫喚が蘇る。
大丈夫、建物は壊れない。
だって外だし。
でも…
(出来たらかわいいのがいいなぁ…ふわふわで)
(怖く無いやつ。そんで痛く無いやつ!)
(巨乳とか)
突如一面眩い光に包まれる!
去年の光より眩しい気がするのは気のせいだろうか?刺すような光がゆっくりゆっくり弱まっていくが、目が追いついていない。魔法陣の中心に影のようなものが見える。
サイズ的に子牛ぐらいだろうか?
とにかくでかい生き物でないことに安堵する。
影が立ち上がる。
(立ち上がる?)
だんだん視界が戻ってくる。
ピンクの
ふわふわの髪の
かわいい
巨乳の女の子。
手には包丁を持っている。
「ちょっと!あたしの夕ご飯はどこに行ったのよ⁉︎」
とりあえず意思の疎通は取れそうである…
誰だ?巨乳を願った奴は…