第4話 迷いの森と一万年前の英雄
・他の話を読んで下さった方、今回も宜しくお願い致します。
・初めましての方、文章に拙い部分があると思いますが宜しくお願い致します。
・作者は趣味程度に小説を書いています。
前回の最後のおさらい
失ったと発言したルーシリアに対し、光達は言葉を失う。
ルーシリアさんの声は震えていた。思い出したのはあの不気味な雰囲気の事だった。やはりあの森には何かが居る。
「ここを出る者は皆、海を大きく旋回して都市に向かいます。あなた方さえ良ければ怪物の退治をお願いしたいのですが……。」
「わ……分かりました! やらせてください!」
「明星……。」
何故そんなにおっかない役目を引き受けたのかは分からない。しかし、夫を亡くした彼女を放ってはおけなかった。かつてシングルマザーの苦悩を描いたドラマの娘役を演じた事がある。
「本当ですか?」
「はい。俺も行きます。ただし、数日の準備時間をください。実践を積み、ここを出ても食に困らないようにしたいです。」
先陣山君も賛成のようだ。
「話は変わって、今夜寝る場所なのですが……。ベッドが一つしか無くて……。夫が使っていたものですが……。」
「えっ、それって……。」
「俺は椅子に座って寝ます。明星、一人で使ってくれ。俺の心配はしなくていい。」
「あ、あ、うん、ごめんね、私がベッド使わせてもらいます。」
淡々と喋った先陣山君を見ると、自分の妄想が恥ずかしく感じた。それでも椅子で寝るって……。
「ごめんなさいね。せっかくなのでシャワー室、使ってくださいね。」
そう言うとルーシリアさんも大きなあくびをして寝室へと姿を消した。
「シャワー室……先陣山君、使うなら先どうぞ。」
「おいおい、着替えなんて持って無いぞ。」
「それもそうだよね……。でも風呂無しは女の子には辛いよ。そもそも私達制服だし……。」
『だったら着替えを用意してやろうぞ。』
「え? この声、神様?」
『そうじゃ。着替え二人分じゃな。』
声だけが聞こえる。神様は上機嫌で言った。
「いいのか?」
『勿論じゃ。光ちゃんがいるからの。サービスじゃ。』
「……今度光ちゃんって呼んだら許さないよ。あと変な服入れないでよ。」
『すまんの。ほれ、こうして話している間にカバンに着替えを入れておいたぞい。下着と寝間着じゃ。じゃあの。』
そのまま声が聞こえなくなった。言われた事を確認するためにカバンを覗くと、綺麗に畳まれた着替えが入っていた。普通のパジャマと下着だ。……下着に関しては予備まで入っている。
「……取りあえず良かったかな。」
「じゃあ先に風呂貰うぞ。」
そのまま先陣山君はシャワー室に向かった。
シャワー室は二メートル四方の面積があり、入り口は気のドアで出来ている。天井には煙突のようなものがあり、これが換気扇の役目を果たしているのだろう。
正直、先陣山君の素顔が気になる。目元だけ見るとキリッとしていて好印象だが……。ゴム弾しか持っていないのも中々不思議だ。今日の戦闘時、瞬きをする間にスライムを四体全て撃破した。四刀流なんて聞いた事が無い。そして『俺の手は汚れている』と言う発言も中々興味深かった。
「風呂出たぞ。中々に綺麗なシャワー室だな。毎日使われているとは思えん。」
「あ、うん、早いね。じゃあ私もお風呂頂きます。」
シャワーを浴びながら、引き続き先陣山君の事を考えていた。会話を重ねるうちに打ち解けてはきたが、まだ完全に打ち解けた訳ではない。この旅のパートナーになると言うのに彼の事が分からないのはもどかしい。
「おい、明星、大丈夫か?」
外から突然先陣山君の声が聞こえた。
「お、女の子は大変なの。」
「そうか。悪かった。」
足音が遠くなっていった。
「私も出よう……。」
着替えを済ませて居間に戻ると先陣山君は股を開いてどっかりと椅子に座り、俯いていた。前髪が目元にかかり睡眠の確認が出来なかったが石像のように固まっていた。
「先陣山君?」
呼びかけても返事が無い。寝ているのだろうか。
「……先陣山君?」
返事が無い。やはり寝ているのだろう。……と言うか寝る時くらいマスク外したらどうなの? 取ってやろうかな……。
背後からそろりそろりと眠っている先陣山君に近付き、手を伸ばした。が、テーブルの上に置いてあった紙切れが目に入った。
「ん?」
メモのようだ。内容を確認してみる。たちまちサーッと血の気が引いた。メモには殴り書きでこう書かれていた。
「……『マスク剥いだら脳天ぶち抜く』。怖っ。」
脅迫文だ。
「……なんかもういいや。私も寝よ。」
寝室のドアを開け、中に入る。ベッドは三つ並んでいて、真ん中にはアラン君。右側にはルーシリアさん。左端の開いている場所が旦那さんの……。失礼します。
ルーシリアさんは旦那さんを亡くした事を相当気に病んでいるよだ。アラン君が何歳の時の話だろうか。憐れむ訳では無いが何かしてあげられることは無いだろうか。ほんの数日の付き合いだというのに差し出がましいだろうか。そんな事を考えつつ夜が更けていった。
目が覚めると既に朝になっていた。外からは鳥の鳴き声が聞こえる。これが大自然で目を覚ます醍醐味か。目をこすりながら居間へ向かうと他の三人は起きていた。三人は一緒に朝食の用意をしていた。
「ご、ごめんなさい。私寝坊しちゃって。」
「いえいえ、相当お疲れのようですし……。」
「私もお手伝いします!」
「大丈夫だ。俺も十分前に起きたばかりだ。それに、朝食ももう出来るしな。色々と旅先で役立つ自炊の仕方を教えて貰った。……食える怪物もな。」
代わりに先陣山君が返事をした。彼は既に着替えを済ませている。
「でも、先陣山君……」
「メモ、見たよな。」
強い口調で問い詰められる。
「うん……まぁ……。いやいやいやいや、だからマスクの下見て無いよっ!」
「……信じてやる。」
「お兄さん、これ、何て書いてあるの?」
アラン君が昨夜、先陣山君が残したメモをヒラつかせながら言った。馬鹿正直に『素顔見たら殺すって意味』とか言わないよね……?
「ああ……『素顔を見ないでくれ』と書いてあるんだ。」
「何で素顔見られたくないの?」
ひとまず良かった。こんな小さな子供に殺すとかは流石にね……。
「まぁ……その……冤罪とか言うやつだ。」
嘘なのは分かったが、もうちょっとマシな嘘吐けないのかな……。
「色々大変ですねぇ……。そう言えば、今朝都の方で殺人事件があったと知らせが届いたんです。物騒な世の中で……やっぱり田舎暮らしの方が良いですね。ご飯出来ましたよ。」
昨夜と同じ並びでテーブルに座る。
「ルーシリアさん、後で製図家の方の所へ連れて行ってくれませんか?」
「はい。了解です。」
「それと……図書館はありますか?」
先陣山君が質問をした。
「図書館ですか……小さなものなら。」
「なら、そこも案内してくれますか?」
「勿論です。」
食後、アラン君も連れて出かける事になった。私はアラン君の手を引いて歩く。先陣山君とルーシリアさんは真剣な表情で何か話をしていたのでアラン君とおしゃべりする事にした。
「アラン君、お母さんに恩返しとかしたいと思う?」
「うん。いつも一人で洗濯とかご飯作ってくれるから。お手伝いしてるけど、それだけじゃ足りて無い気がするんだ。」
「そっかぁ。」
「ママ、何したらもっと喜んでくれるかなぁ?」
「そうだなぁ……プレゼントなんてどうかな?」
「あ、それ、いい! でもどうしようかなぁ……。」
「私も手伝ってあげるよ。」
アラン君の顔が明るくなる。自然とこちらも笑顔になってしまう。
「着きましたよ。図書館はここの隣です。アラン、行こう。」
ルーシリアさんはペコリとお辞儀をしたあと、アラン君の手を引いてどこかへ行ってしまった。
確か、製図家さんの名前はオーギーさんだった筈だ。ルーシリアさん達の住んでいる家と同じ造りのドアをノックする。
「こんにちは。オーギーさん、いらっしゃいますか?」
扉が開く。出て来たのはやはり金髪青眼で、立派なひげを蓄えた巨漢だった。
「ん? オーギーは俺だが。取りあえず、入ってくれ。」
店の中に通された。店内はこの世界のものと思われる地図や何かの設計図、地理に関する本などでごった返していた。事情を説明して、地図の譲渡を頼むと、オーギーさんは快く承諾してくれた。タダでいいそうだ。
「足の踏み場が無くてワリィな。ウチは製図屋だけどよ、田舎だから地図が売れねんだよ。世界地図で良けりゃアンタらにやるよ。他にも細かいのもあるぞ。」
紙の山からクシャクシャになった正方形の地図を取り出してきながら言った。私達はそれを広げ、この世界の作りを確認してみた。
「真ん中が王都か……今いるのが……どこだ?」
全く字が読めない……。見た事がない文字だ……。
「おいおい、字が読めねぇのか? だとしても、こんなにちっこい田舎町は世界地図には載らねぇよ。こっちの中くらいの地図には載ってるがよ。」
呆れた様子のオーギーさんは製図台の上に地図を広げた。
「ここが村だ。ここの人口が少ねぇのは『迷いの森』のせいだ。奥地にバケモンが棲んでやがる。あの森に入った奴は基本帰れねぇ。誰かが討伐してくれれば観光客も増えて俺の店の売り上げも伸びるだろうにな。ほらよ。これがこの村と森の地図だよ。ここに書かれてる道に沿って行けば迷いの森お抜けられる。だがな、生きていける保証はねぇからな。」
私達が居る村は周辺を川に囲まれ、北側が森になっている。
「これも貰っていいですか?」
「おうよ。持ってけ持ってけ。」
「ありがとうございます。今度は図書館に行こうと思うので、私達はこの辺で。」
私達が店を出ようとした時、オーギーさんが先陣山君を呼び止めた。
「おい、坊主。面白れぇモン腰からさげてんじゃねぇか。」
「これは俺の武器ですけど……設計図をお書きしましょうか?」
「いいのか?! 是非とも、だな。バケモンから身を守れる武器が欲しかったんだ。」
オーギーさんが真新しい製図用紙を取り出すと、先陣山君はあっと言う間に設計図を書き上げてしまった。
「ざっくりこんなものです。本来は鉄を使いますが、木でも作れるようにしました。連射性能や、精密射撃の正確さを求めるなら素材の変更や改良が必要ですが。弾は鉛が好ましいですが小石を削ったものでも代用できます。」
「おう、あんがとな。」
今度こそ、店を後にした。
次は図書館に入ったが、図書館と言うより、本しかない民家のようだった。入口には地図に書かれていたのと同じと思われる文字が書いてある看板があった。経済の本と歴史の本を借りようと思ったが、ここである疑問が発生した。
「先陣山君、字読める?」
先程の地図上に書かれた文字は全く読めなかった。翻訳機も無いのに本を借りるなんて無謀すぎる。
「……俺があの翁に頼んだのは銃関連の事だけではない。文字が読めるようにもして貰った。必須事項だと思ったからな。」
「私も頼めば良かった~とか言うと、あの神様なら鼻の下伸ばして来そう……。」
「どうするんだ?」
「いいや……。先陣山君が読んでくれれば。」
そう言えば、この図書館、図書館と言う割に司書がいない。
「入り口に『本は勝手に持って行っていい』と書かれていたぞ。お言葉に甘えて持ち出そう。」
入り口に掛かっていた看板の文字も読んでいたのか……。
「地図も手に入ったし、ルーシリアさんの家で作戦会議しようよ。」
「俺もそう言おうと思っていた。」
私達は早速、家で地図や本を広げてみた。
「世界地図にも『迷いの森』は載っている。川の合流点等を吟味すると……俺達がいるのはこの辺だ。」
「『迷いの森』ってかなり広いね。」
「本には『スライムがはびこり、巣は粘液でベトベトになっている。奥地に進むほど肩が重くなり、不気味な雰囲気がある。中心部に遺跡を確認。スケッチと共に記録が送られたが、記録員は帰って来なかった。不用意に入らない事。』と書かれているな。」
「こっちの本は?」
私は歴史書のようなものの下に置かれた本を指差して言った。
「これは『モンスター百科事典』だそうだ。王都の文庫省発行で、身を守る為のガイド、及び食べられるか否かが書かれている。発見されているモンスターは全種類の僅か五パーセントだそうだ。」
「うげー……食べる……。」
「スライムは……食えないな。」
どこかホッとしている自分が居た。
「じゃあ、こっちの歴史書には何が書かれてる?」
「今から百世紀前の歴史が興味深い。アランが言っていた『勇者の剣』にも触れられている。
『この世は魔王の手によって恐怖で支配された。だれかがこの悪夢を断ち切らねばならなかった。ある時、遂に一人の少年が魔王を倒す為に立ち上がった。』中略『少年は森の奥に眠る剣を引き抜き勇者としての覚醒を遂げた。』中略『勇者となった少年は仲間と共に魔王を討ち果たしたが、その命を奪う事は出来なかった。少年の良心がそれを咎めた。少年達は魔王を一万年の眠りに落とし、一時的な平和を国にもたらした。今の国王は勇者となった少年の末裔である。』
と。」
成る程……今いる世界の世界観が見えて来た。
「明日もう出発しようよ。」
「ああ。早く帰りたいしな。」
この時から、外が騒がしくなっているような気がした。
「でも……その前に、ちゃんとルーシリアさんとアラン君にお礼がしたいな。」
「何をするんだ?」
「お手伝い!」
「小学生みたいな発想だな……。」
「別にいいでしょ?」
お礼に関しては一旦置いておくことになった。
「旅に必要なものは……地図と、方位磁針、それと武器か……。」
出発の準備をしていた時、ルーシリアさんが顔色を変えて家に飛び込んできた。絶望的な表情だ。
「どうしましたか?」
「あ……アランが……攫われたんです!」
攫われた?! 何に?
「何があったか詳しく話してください。」
初めて私に会った時と同じようにひどく落ち着いた声で先陣山君が訊いた。
「買い物をしていると森の中からモンスターが……見た事無い大きさでドラゴンのような見た目をしていました。武力があるのはお二人だけです! 助けて下さい……お願いします!」
助けに行かないと……!
「先陣山君!」
私が名前を呼びながら顔を見ると彼もこちらを見て会釈をした。
「ああ。アランを助ける。最低限の荷物持って行くぞ!」
言われた通りに最低限の荷物を持って二人で家を飛び出し、森へ走った。
・お読みいただきありがとうございました。お楽しみいただけたでしょうか?
・誤字等ございましたらご報告お願い致します。




