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小説家  作者: 小雪
3/3

音楽との出会い

 作詞活動は、昼の休憩と放課後、普段使われない空き教室で始まった。

活動を始めて数日、どうせ早々に飽きるだろうと思っていた俺の予想に反して、ピンク髪のド派手な男は毎日律儀にこの空き教室にやってきた。

完成したら声をかけるから来なくて良い、と言ったのだが、宮野時生はへらりと笑うだけだ。

時折俺の手元を覗き込み、幾つか書き上げた紙を取り上げては、気ままに音をつけたり、口ずさんでいる。

たかだか学校行事の出し物如きで、良くそこまで入れ込める物だと、感心にも似た気持ちでため息をつく。

 しかしこの数日で、わかってきた事もあった。

宮野時生と言う男は、一見、その姿の通りちゃらんぽらんにしか思えないのだが、話してみると、存外奥の深い男の様に感じた。

地頭が良いと言うのは、こういう事なんだろうか。

捉えた様であっさりと姿を変える、聞き流している様で、言葉の奥までをいつの間にか読み解いている。

人よりも見えるものが深いからこそ、こうして奇抜な行動に出るのだろうと、妙に納得した。

もしかしたら、本人が口にした以上の言葉の意図を読み解いているのでは無いかと、宮野時生を知るほど俺はひやりとした想いを感じていた。

 「やっぱりお前は凄いな、俺にはこんな詞は書けないよ」

俺の思考を見破ってか定かではないが、宮野時生が感心する様に言う。その目には、羨望に似た感情を読み取れた。

「…そんなに凄いわけが無いだろう」

宮野時生の目指す音楽に似た物をピックアップさせて、この数日聴いた。その中で使えそうな歌詞の一部を借りたり、それらしい言葉を並べる。

ただ、小説の様に気が済むまで言葉を並べられる物ではないから、四苦八苦したのは事実だった。

たかだか400〜600文字に納めなくてはいけないのだ。それもなるべく、簡単な言葉で、繰り返しても深みを感じられ、前後の背景を際立たせる物を。

今まで詩なんか書いた事のない俺にとっては、新たな挑戦だった。

 1ヶ月もする頃には、大まかな形ができてきた。それに合わせて、宮野時生もリズムをつけ始める。

大まかなリズムが決まると、いやでも俺の耳にも残った。後はリズムによる言葉尻の微調整だから、もういいかと思っていた頃、宮野時生のつけたメロディーを何となく口遊んでみた。

「お前、いい声してるなあ」

メロディラインを弾いていた宮野時生が目を丸くする。もう一度、と同じ場所を弾き始めたので、仕方ないと俺も同じ場所を口遊んだ。

「凄い、お前歌の才能もあるのか!凄いよ!」

2回目で確信を持ったのか、宮野時生は目をきらきらと輝かせて俺の手を握り、俺は目を丸くして宮野時生をみた。

これは何かまた巻き込まれるぞと予感がして、これくらい、誰でも歌えるだろうと返そうとした俺の言葉を遮って、宮野時生が言う。

 「完成したらお前とやりたい!一緒にやろう!」

歌詞を書いてくれとせがんだ時と同じ、そうなっている事がまるで見えている様な、確信を持った目だった。

輝いた目で、俺を見る姿にデジャブを感じて言葉を無くす。この男がこうなってしまったら、俺に抗う術などない様に感じる。

それにこの時の俺はどこか、この非日常的な生活に、刺激と若干の楽しさを感じ始めてしまっていたのだ。

気がついたら俺は、宮野時生の提案に頷いていた。


そして平穏な学生生活が、また少し遠のいた。

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