悪役令嬢、悪を演じる決意の夜を越えて。
その夜、
それまでじぶんじしんを守らない
そのノーガードな立ち居振る舞いにより
不感令嬢とも
無能お嬢様とも
字名されていた
一人のまだうら若きレディが
あの蛇のまえで
生まれて初めて悔しくて泣いたんだ。
それは、
じぶんじしんのためなんかじゃなく
自分を傷つけるために
自分の周囲の人が
傷つけられたときのことだ
何者にも屈しないから
つまらない正義にさえ従わないから
悪役令嬢とも
無法お嬢とも
呼ばれていた一匹のけものが
我が身をつらぬく猛き懊悩を
味わった瞬間から、
ほんとうの悪役を演じてでも
守らなければならない人がいると
思い知らされた
心の底から。
レディ?
けもの?
そう、それは、わたし。
この心の残欠をさがして
生きてゆくことを誓ったおんな。
残欠、それは、あなた。
ゆえに、救われない、わたし。
ねぇ?
いきてゆくしんどさに、打たれたことある?
けっして逃れられないからそれの名前を
《うんめい》っていうんだって
きいたことない?
ないならないで、
わたし、引き剥がされたあなたさがして
悪逆非道でも、
悪鬼羅刹でも、
こんなわたしにあえて
悪を冠される悲喜劇みたいな
ていたらくを恐れずに、ね?
いく道いくだけ、だけど、ね?
あとは、
あなたを救うことだけが
祈り。
残欠、取り戻すために、
世界をひっくり返してでも
闘いつづけるわ。
そうね。
どんな希望も、棄て果ててもね、
あなた、だけは、
諦めない。
あの蛇の、
真っ赤な邪眼にかけて誓うわ。
空が、落ちても、ね、
海が、割れても、ね、
誓うわ、
なーんて、ね?
でも、真剣に。
諦めないで、
生きること。
誓う、
揺るがない、
想い、
誓う、
手放さない、
愛。
照れるけど、
誓う。
そして見知らぬ人からも
忌み嫌われ
憎まれつづけたわたしの、
ただあなたへの可憐な純情が
(照れるわ)
唸りを上げてあなたに突き刺さる。
その夜、
けっして明けなかった長い夜は終わり
暗闇に覆われた世界をひっくり返す
明るい
あたたかな
希望に満ち溢れた
光が東の方から射すだろう
その光を
黎明という………
以上で、
『夜の悪役令嬢に捧ぐ、けものただ泣く残欠の月(黎明期)』、完。
です。
また、機会があるのなら、お会いできれば嬉しいです。
それまでは、ひとまずお別れです。
お読みくださり、誠に有難うございます。
またお会いできる日を楽しみにしています。
でわ。




