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首都北部の山奥に、「金剛不壊の法 醍醐の会」の総本山が建っていた。東大寺南大門風の山門を挟んで、警察と寺のロボ部隊が睨み合っていた。
警察部隊の主力は、盾とレーザーサブマシンガンで武装したケンタウロスロボ部隊である。サラブレッドサイズの軍用ケンタロボと比べると、ポニー程度の大きさだった。ケンタロボ隊の前衛に、動く盾として非武装の軽装甲車が配置されていた。
寺の部隊も同じ構成だったが、前衛はレーザーマシンガンを搭載した装甲車で、後衛のケンタロボはレーザーライフル装備の軍用だった。
境内にもケンタロボロボや装甲車がひしめいていた。しかし人の姿はなかった。
門を潜って玉砂利の敷地を進み、石階段を上っていくと、赤銅瓦の安立行菩薩堂があり、ひょうたん池と浄行菩薩堂があり、無辺行菩薩堂があり……山頂に建つお堂は一際大きかった。ここが本堂の上行菩薩堂である。敵のオペレーター室は本堂にあった。
首都の宮殿の東側に、神戸税関庁舎風の白い警視庁庁舎が建っていた。
警察は警視庁内のオペレーター室から現地部隊を指揮していた。オペレーター室の指揮官はマイクで呼びかけた。
「これより、内丸兵器使用殺人未遂事件の強制捜査を始めます!山田栄輝総帥の他、幹部八名に逮捕状が出ています!武器を捨てて直ちに降伏しなさい!」
寺側に動きはなかった。指揮官は現地部隊に指示した。
「突入!」
警察は携帯ミサイル装備のケンタロボ隊を繰り出した。
ケンタロボ隊は携帯ミサイルを発射した。ミサイルは山なりに塀を飛び越えて、境内の敵装甲車を撃破した。
軽装甲車は体当たりで塀を崩して境内に乗り込んだ。生き残りの敵装甲車がレーザーマシンガンを打ってきた。太いレーザー光弾が軽装車を打ち抜き、ケンタロボ隊を薙ぎ倒した。
警察と寺のケンタロボ隊が衝突した。様々な太さのレーザーが飛び交った。
警察はビート板型の輸送シャトルを使って増援部隊を呼び込んだ。寺は境内の部隊を山門側に移動させた。境内の守備は手薄になった。
警察のクモ型六脚戦車部隊が道なき道を移動していた。ビーム砲装備のクモ型戦車は急斜面を登攀し、手薄になった山頂の本堂を目指した。
コブダイ顔の僧侶に変装した中村課長が、寺のお堂を土足で調べていた。靴底は紫色に光っていた。
お堂には宇宙人グレイの顔の金の仏像が祀られていた。
廊下から気配がした。課長は壁を垂直に歩いて、天井に逆さに立った。
寺のケンタロボ隊がやってきた。彼らは天井の課長には気付かずに、お堂の前の廊下を通り過ぎていった。
課長は天井から下りて、黒携帯で徳さんに電話した。
警視庁の地下駐車場にステーションワゴンが止まっていた。その車内で、スーツ姿の徳さんは課長の電話に出た。
「俺です。武器はパルスライフルからAFVまで揃っていますが、兵隊は素人です。人はどこにもいません」
「搬入ルートは?」
「輸送会社に協力者が」
「俺は軍を疑ってるよ。未知の抜け穴でもありゃ別だが」
「(どこが支援国かばれないように)装備は多国籍ですが、補給思想は地桶軍です。弾薬庫には一個中隊五日分ありました。これは地桶軍の特徴で、人間は不眠不休でも四日間は集中力を維持出来る。だから奴らは四日粘って五日目に退く」
「四日粘ったらどうなんだろ」
「粘らせましょうか?」
「いいよ、あんたおっかねえなあ」
こにゅうどう君がやってきて、徳さんの車に乗り込んだ。落ち着いた様子だった。徳さんが「中々いい調子なんじゃないの」と褒めると、こにゅうどう君は謙遜した。
「どうですかねえ。アンリツギョウ菩薩堂まで辿り着けるかな」
「アンリュウギョウな」
「アンギュウリョウ」
「日蓮宗で重要視される四菩薩の一体だ。そのー、手柄自慢って訳じゃねえんだが、うちが一機生け捕りにしたから強制捜査に入れた訳だろ?」
「感謝してますよ。この後軍の見せ場も作りますから」
「記者一家心中事件の捜査資料、こっちに渡しちゃくれねえかな」
女性職員が車の後ろを通り過ぎた。こにゅうどう君は肝を冷やした。
こにゅうどう君は辺りを確認して、小声で頼んだ。
「……車出してください、適当に」
車は駐車場を出て、官庁街を無意味に走った。
「何が目的です?」
「孫にせがまれてよう」
「あれは妻の不倫を疑ってノイローゼになった夫の突発的犯行でした。
大臣の事件なら何とかなりますよ。俺の担当だから。でもあっちは無理ですって」
「こっちであんたに迷惑かからないような、あんたが殺されないようなもらい方考える。それなら安心だろ。とりあえずお通しもらおうか」




