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首都西部の寺で、杉野一家の葬式がしめやかに営まれた。
多くの弔問客が集まった。軍や警察、政府関係者も参加した。閣僚や艦隊司令長官、警察庁長官からの花輪も届いた。マスコミも門の前に大勢詰めかけた。
住職は祭壇の前でお経を挙げた。弔問客は三人の遺影に焼香して手を合わせた。子供はようやく死の意味を理解して泣きじゃくり、若い母親に慰められた。老人は涙を堪えて北辰日報の新聞記事を供えた。
―「沈黙一転 全ての罪認める」
―「隠ぺい工作明らかに 事件は闇に葬られた」
―「須弥連邦降伏 狭まる地桶包囲網」
ブラックスーツ姿の了介は白菊を供えて、短く手を合わせた。
次にこにゅうどう君が焼香した。彼は許しを乞うように長い間祈った。
了介は本堂を出て境内を歩いた。門の方が騒がしかった。
総理大臣が警備を引き連れてやってきた。彼は門前のマスコミの前では神妙な顔をしていたが、境内に入った途端不満を露わにした。周りに色々言われてうるさいからしょうがなく来てやったんだ、という顔だった。
前歯がエビフライの形の男性記者は怒った。彼は総理に食ってかかろうとしたが、周りの記者仲間に止められた。総理は無視してエビフライの前を通り過ぎた。
了介は立ち止まって敬礼した。総理は警戒して了介を睨んだ。
総理が去ると了介はまた歩き出した。途中、彼はエビフライに気付いて会釈した。
了介は駐車場に止めた黒の新車に乗り込んだ。納車されたばかりの、曲線の美しいスポーツカーだった。
助手席にコンビニ袋が置かれていた。中にはペヤング大盛とインスタントコーヒー、ポンジュースが入っていた。
戦い続けてきた男はようやく肩の荷を下ろした。彼は誰にも見せた事がない優しい顔に戻った。
新車が自動運転で走り出した。了介はポンジュースを一口飲むと、再び戦士の表情に戻った。戦いはまだ続いている。
(終わり)
次回作は夏頃予定です




