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もう俺以外愛さない  作者: カイザーソゼ
12話 ギブアンドテイク
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12-4

 警視庁の取調室で、こにゅうどう君ネクタイの刑事は防衛局長を聴取した。

 こにゅうどう君は説明した。


「取り調べは全て録音、録画され、裁判の際の証拠となります。弁護士は呼ばなくていいという事でした」

「ええ」

「我々は様々な証拠から、あなたが杉野記者一家心中事件、八幡防衛大臣変死事件に関与していたと考えています」


 こにゅうどう君は紙の証拠資料を見せた。大きく分けて二つの資料がまとめられていた。

 一つは関係者の通話履歴。

 二月十九日十八時、局長は公安幹部の世良敏に電話をかけた。

 二十三時、世良は二重スパイの樋口に電話をかけた。

 翌二十日から事件当日の三月二十九日まで、関係者は電話で複数回連絡を取り合った。世良と樋口。樋口と磯川、一色(共に樋口の協力者)。更に樋口と和泉。

 もう一つは入国後の和泉の足取り。

 三月二十七日十三時、和泉は都内の宇宙港から入国し、対岸行きのフェリーに乗った。彼は船内で磯川が用意した運送トラックに乗り込み、全身白ゴムタイツの偽ロボット(和泉そっくりに化ける事が出来る)と入れ替わった。

 十三時半、トラックはフェリーを降りて都内を周回した。

 十七時三十分、和泉はトラック内から樋口の飛ばし携帯で防衛相に電話をかけた。

 十八時、防衛相は自宅を出て中津渓谷に向かった。

 十九時、和泉は駅の地下駐車場で樋口の車と乗り換え、中津渓谷へ向かった。

 二十二時に防衛相が、二十三時に樋口の車が中津渓谷に到着した。

 二十三時から翌二十八日深夜一時の間に、防衛相は中津渓谷の河原で死亡した。

 二十八日深夜一時、樋口の車は防衛相の死亡現場から走り去った。

 朝七時、車は樋口が偽名で借りたアパートに到着した。

 夜二十時、和泉は樋口の車で再びアパートを出発した。

 二十二時、和泉は大規模商業施設の立体駐車場で一色の車と乗り換えた。車は二十九日の深夜〇時、杉野の住むマンションの地下駐車場に移動した。

 二十九日七時三十分、和泉は地下駐車場に下りてきた杉野と入れ替わり、自宅に戻って第一の事件を起こした。

 そして八時にマンションを出て、九時に再開発地区で第二の事件を起こし、十一時に出国した。

 資料にはこれらを立証する様々な証拠が載っていた。

 駐車場の天井に付いた紫色の足跡。その足跡から再現した歩容データ(歩き方)と、宇宙港の防犯カメラに映っていた和泉の歩容データの一致度。

 アパートから発見された和泉の指紋。アパートの地下から押収された全身白ゴムタイツの偽ロボットと、その体内に残されていた、パンダ観光を楽しむ偽和泉の画像データ。

 一色の車のドラレコ画像もあった。

 二十九日七時三十分、杉野そっくりの男がトランクから出てきて、柱の陰から天井に上った。

 三十三分、偽杉野が本物の杉野を負ぶって天井から下りてきた。偽杉野は本物をトランクに押し込んで立ち去った。


 局長は弁明した。


「関係者の通話記録があるだけで内容は分からない。第三者が現場にいたとして、殺した証拠はない。これならどうとでも言い逃れ出来ますよ」

「それはご自身が関与したと解釈されかねない発言ですが」

「解釈は自由です。あらゆる可能性を排除していって最後に残った物。どんなに陳腐だとしてもそれが真実になる。真犯人は杉野の子供だった」

「冗談でも止めてください」

「俺の証拠のない推理です。そもそもこの事件、決定的な証拠は何もないでしょ?」

「確かに重要証拠は消されてほとんど残っていません。今から犯行を立証しようとすれば、関係者の証言に相当部分頼らざるを得ない。勇気を出して初動で対応するべきでした」

「俺はそんなに怖かったですか?」

「今も怖いですよ。向こうの戦局次第であなたは簡単に復活する。

 二月十九日十時、杉野記者は防衛省の資料室を訪れています。その後十三時十分から三十分まで、資料室分析官の北見剛が局長室に入室しています。あなたは国家安全保障会議をドタキャンしてまで、北見との密談を優先させました」

「サボっただけです」

「十八時、あなたは世良に電話しています」

「仕事の話です」

「二十一時、あなたと世良は真崎海岸公園の駐車場で会っています。その車内で謀議があった。

 これはあなたの車のドラレコ映像です」


 室内にホログラムモニターが現れて、車のドラレコ映像が表示された。局長は車の中も録画されているのを知らなかった。


 二月十九日の夜九時。場所は海の公園の駐車場。四ドアセダンの運転席に局長、助手席にエイの裏側顔の世良が座っている。波の音が聞こえていた。

 局長は殺害を指示した。


「今日うちにも杉野が来ました。開戦までに殺してやりたい。出来ますかね?」


 エイの裏側は言葉に詰まった。


「では樋口は?向こうも教団の秘密が守れてウィンウィンです。必ず乗ってくる」

「杉野がどこまで知っているのか把握してから動くべきです。まず背後関係を洗い出し」

「プレッシャーをかければ黒幕の大臣の元に逃げ込みます。すぐに樋口と計画を詰めてください」

「はい……」

「もちろん大臣もですよ」


 映像はここで終わった。局長は平然としていた。


「これは皆怖がるなあ」

「協会を監視していた世良は、首都テロを計画する樋口グループの存在を把握していました。あなたはグループに情報を流して(テロの)ついでに四人を殺してもらった」

「俺はこの時冗談で言いました。この後出ていった世良君に、どっきり大成功!ってネタ晴らししてますから。なのに勝手に忖度してしまったんだなあ」

「ネタ晴らしの映像はありますか?」

「世良君はそう証言してくれます。もうしてるんじゃないですか?」

「……あなた、反乱罪だけでもう懲役五百年ですよ?」

「一連の事件が全て有罪になれば二千年。キリストが生まれて飛行機で突っ込むぐらいの長さですね。内臓全取っ替え五十回で余裕かな。

 そもそも、あれは反乱罪だったんでしょうか。俺が中村君を派遣した事で、この戦争は一気に有利に傾いた。金色蝶兵団というテロ集団に対する果敢な独断専行だったんじゃあないですか?」


 こにゅうどう君はお茶を一口飲んで気持ちを落ち着かせた。局長は畳みかけた。


「結局ね、和泉が自白しなければ俺は有罪には出来ませんよ。それで、あの男をどうやって自白させるんです?そもそも逮捕出来ますか?」

「軍を信じるのみです。そろそろ和泉の逮捕状が下ります」

「刑事さんは俺を闇の帝王か何かと思っているでしょう。違います。俺なんて官庁街ではありふれた人間の一人に過ぎません。

 本当に選ばれた人間と言うのはね、ビニール傘の先で目玉を突ける人を言うんです。俺の知る限り、それは中村君と和泉しかいない。俺は中村君の捨て身で逮捕され、和泉の本気で解放されるんです」

「我々は必ずあなたを、何としてでも刑務所にぶち込みますよ。警察の総力を結集して、あなたの全てを奪ってみせる」

「脅迫されちゃった」

「解釈は自由です」


 映画撮影所のシャトルポートに、軍の輸送シャトルが止まっていた。シャトルの貨物室にはコックピットブロックが載っていた。

 コックピットブロックの中で、了介はカンフーの逮捕状が出るのを待っていた。モニターには淡路島空母の格納庫が映っていた。

 コックピット内にホログラムモニターが現れて、逮捕状が映し出された。杉野の妻殺害に対するカンフーの逮捕状だった。

 了介は両手でボールレバーを握った。


 淡路島空母の甲板に、新型機「Zレックス」が現れた。

 頭に大型ブレードアンテナを付けた銀色の機体である。北郷忠相の鯨髭兜の頭部に、南蛮胴の体。武器は持っていない。

 背中に銀色の輪宝紋が、頭部に「愛」の字が浮かび上がった。

 了介機は淡路島空母から発進した。

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