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もう俺以外愛さない  作者: カイザーソゼ
11話 懐中電灯の墓標
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11-4

 孔雀ナルト星のリングの士官食堂で、司令は参謀長の報告を聞いた。


「樋口長成。協会の村外会員です。

 協会員は十八の夏に一か月村を出て、このまま村に残るか社会へ出るか決めます。幹部候補生は複数の国を経由して帝釈天星に派遣されます。そこに舟州会の寺がありました」


 参謀長は敵艦隊を最大望遠で撮った写真を見せた。

 青い星と緑の月の間に、機械の月と敵空母艦隊が展開していた。


「樋口も寺に修行に出されています。この時、和泉派にオルグ(洗脳)されたと推測されます。舟州会系列の協会が敵対宗派のために動く訳がありませんから。

 帰国後、樋口は村を出て工作機関を結成しました。彼は一色と磯川(首都攻撃に関わったカルト信者)を引き込んで協力者とし、事件に加担させた」

「樋口を逮捕しなければ奇襲が漏れる可能性がある」

「十四時から樋口と一色の逮捕を始めます。若竹隊は突入作戦に備えて金剛台に待機させます」

「そうしてくれ。他に何か問題はあるか?」

「戸切地要塞で少しおかしな動きがあります。一応ご報告まで」


 午後、樋口と一色に逮捕状が下りた。

 一色の勤め先は首都南部の金融街にあった。カーテンウォールの高層ビルである。

 透明感はOLに化けて会社に潜入した。タスマニアンウール生地の清涼なスーツスカートを着て、社員が行き交う一階エントランスを颯爽と歩く姿は、金融街の女王のようだった。

 透明感は映像が投影される眼鏡と、群体兵器操作用のネイルチップを付けていた。

 透明感は一階の和モダンカフェに入ろうとした。ОLに化けた女性刑事が出てきて、すれ違いざま、彼女にメモリーカードを渡してきた。

 透明感はカフェのテーブルに座って、携帯にメモリーカードを挿した。中にはビルの設計図が入っていた。

 透明感は心を殺して両手を動かした。眼鏡にロボットゴキブリの映像が表示された。


 警察の輸送シャトルが飛んできて、ビル屋上に着陸した。

 シャトルからロボットゴキブリの群れが飛び出した。群れは屋上の空調機の隙間からビル内に進入した。


 一色は十二階フロアのデスクで仕事をしていた。

 フロアのクーラーからゴキブリの大群が飛び出してきた。社員は逃げ出した。一色も腰を抜かした。

 群れは一色に覆い被さった。一色はゴキブリの山の下敷きになった。

 別の群れは人の形に寄り集まって、一色のパソコンを確保した。

 一階の透明感は携帯で刑事に連絡を入れた。


「こちら清海。一色を確保しました。逮捕お願いします」

「清海少尉。姫川班が車の確保に失敗した。申し訳ないが救援に回ってくれ」

「了解です」


 透明感はテーブルの下で両手を操作して、回線を切り替えた。眼鏡にカラスの映像が表示された。ゴキブリに比べれば可愛い気がしてきた。彼女は疲れていた。


 シャトルからロボットカラスの群れが飛び出した。


 地下駐車場から一色の車が飛び出した。車は前の道路を横断して、対面の高層ビルを垂直に上った。ビルの屋上には個人シャトルが止まっていた。

 カラスの群れが飛んできて、車に覆い被さった。しかし車は強力な馬力でゆっくり上り続けた。

 群れの一部が窓を割って車内に乗り込み、寄り集まって人型となり、ハンドルを握ってブレーキを踏んだ。車の動きはようやく止まった。


 樋口は都内北部に偽名で古い木造アパートを借りていた。

 障子が日焼けた公営住宅が水路沿いに建ち並んでいた。どの家のポストにも、パチンコやサラ金の宣伝ビラが丸めて突っ込まれてあった。

 警察はアパートのある区画に妨害電波を出した。電子機器は一時的に使用不能になった。

 一帯からテレビの音が消えた。付近を走っていた車も緊急停止した。

 止まったワゴン車から、黒い戦闘スーツを着た機動隊が降りてきた。部隊はアパートの表に止められた白いライトバンを確保した。

 水路の底から、水中呼吸器を咥えた機動隊が上がってきた。部隊はアパート裏の塀を乗り越えて、居間のガラスを蹴破って樋口宅に突入した。

 中は無人だった。部隊は室内を捜索した。

 本棚に日蓮宗の本があった。クローゼットには軍や警察の制服があった。

 居間の畳は日焼けしていた。テーブルを動かしたのか、畳の日焼けがずれていた。

 隊員の一人がレーザーナイフで畳を丸く切って、ケーブルカメラを差し入れた。

 樋口は勝手に床下を掘って地下室を作っていた。

 棚に大量の銃器が並んでいた。通信機や乱数表、人間に化ける全身白ゴムタイツのロボットもあった。全てに灯油が撒かれていて、デジタル腕時計と圧力鍋を改造した時限爆弾が机の上にセットされていた。

 地下室からは更に横穴が延びていた。通路の途中に、ピアノ線と手榴弾のワイヤートラップが張られていた。


 了介とこにゅうどう君は警視庁の屋上シャトルポートに立っていた。

 こにゅうどう君は携帯を切った。


「一色は逮捕したが樋口には逃げられた。ただ証拠は押さえたから、和泉の令状は出せる」

「樋口は課長が握る和泉派の秘密を狙っています。二人は局長の逮捕の瞬間に現れる」


 警察の輸送シャトルが二人の前に降りてきた。

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