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もう俺以外愛さない  作者: カイザーソゼ
11話 懐中電灯の墓標
70/83

11-1

 深夜、警察の特殊部隊が空から北地人協会に忍び寄った。

 輸送シャトルは黒いケンタロボ隊を空中投下した。装甲車は集落の木戸口を固めた。役場と寺、会長宅は電撃制圧された。

 ケンタロボは真っ暗な役場に突入した。

 協会は旧式パソコンでデータを管理していた。夜間職員がデータレコーダーをドリルで破壊したり、フロッピードライブに青い薬剤を流し込んだりしていた。

 ケンタロボはレーザー拳銃をスタンモードに切り替えて、ピンク色の非殺傷性レーザーを発射した。職員は気絶して倒れた。

 ケンタロボは証拠を押収して、役場前に着陸した輸送シャトルに運び込んだ。

 家から住民が出てきて役場を取り囲んだ。皆携帯のライトを持っていた。携帯で撮影する住民もいた。

 住民は「星めぐりの歌」を歌った。満点の星空の下、ケンタロボは淡々と証拠を運び込んだ。


 翌朝、スーツ姿の了介は警視庁を訪れて、会議室でこにゅうどう君ネクタイの刑事と面会した。

 警視庁は混乱していた。部屋の外から走り回る声や怒号が聞こえた。

 こにゅうどう君はパスポートの写しを見せた。


 村尾公房。男性、四十六歳。地桶共和国出身。もっさり七三の、香港のカンフー俳優のような男である。


「当然偽名だ。フィットネス企業の社長を名乗っているが、民間人とは思えないスケジュールで世界中を飛び回っている。

 正体は統幕運用部第一課、カウンターインテリジェンス室長の和泉国広。宗教以外は完璧な男だよ。パイロットでもある。パーソナルマークは『無』。

 和泉は三月二十七日十三時に入国して、二十八日は南白浜でパンダ見物と温泉。二十九日十一時、地桶大使館が用意したシャトルで帰国した」

「犯行時は?」

「二十九日七時四十分、和泉は南白浜空港のロビーでお土産のパンダだんごを買っている。これが本人なら犯行は不可能だが……」

「当日の動画を見せてください。二十九日朝の六時四十分から」


 室内にホログラムモニターが現れて、マンションの防犯映像が表示された。


 三月二十九日、朝六時四十分。おたふく顔のジャージ姿の男が部屋から出てきた。これが杉野だ。

 カメラは次々切り替わって杉野を追った。

 杉野はエレベーターに乗り込み、一階エントランスに降りて新聞を取った。途中、公用トイレで用を足し、また同じルートで戻った。

 朝七時半、スーツ姿の杉野は自宅を出た。

 朝七時三十二分、杉野はエレベーターで地下駐車場に降りた。ここのカメラはモノクロ画像で見づらかった。

 朝七時三十五分、杉野は再びエレベーターに乗り込んだ。左手は普通に動かして歩いているが、右手は動いていなかった。


 了介は「止めてください」と言った。


「右手を動かさないプロの歩き方です。地下駐車場のどこかで杉野記者と和泉は入れ替わった」


 こにゅうどう君は三十五分の映像を再生した。


 エレベーターに乗り込む杉野を左斜め上から撮った映像である。左手が手前で、右手が奥。時間にして一、二秒。画像は白黒で荒い。

 杉野は右手を動かさずにエレベーターに乗り込んだ。フリーの右手ですぐ攻撃に入れる、極度に警戒した工作員の歩き方だった。この時、杉野に成りすましたプロは出会った人間全てを殺す気でいた。


 パイロットの目には止まったように見えたが、普通の刑事には何も分からなかった。


「……いやさっぱり分からん。これじゃ逮捕礼状は下りないぞ」

「和泉は住民しか入れない地下駐車場で待ち伏せていた。マンション内に協力者がいます。協力者を追っていけば、裁判所を納得させられるだけの証拠が集まるはずです」

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