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了介機は飛行変形して飛び去った。帯刀機はビル屋上に着陸した。
敵一機は原型を留めた状態で水堀に沈んでいた。熱で水面から湯気が立ち、死んだ魚が白い腹を見せて浮かんでいた。
宮殿警察の赤いケンタロボ部隊が堀に集まってきた。敵を生け捕りにした事で、犯行組織はもちろん、組織を背後で支援していた外国の関与も立証出来るようになった。
首都東部に、新兵器を開発する防衛装備研究所があった。星美は白いパイロットスーツに着替えて、研究所のオペレーター室からニルデーシャを操作していた。
始まる前は自分でも驚くほど余裕だったが、終わった途端疲れが湧いてきた。彼女は下を向いてため息をついた。
星美はコックピットに持ち込んだ携帯をチェックした。
通信状態は回復していた。メールやメッセージが大量に届いていた。
「パパ」「ママ」「茜社長」「板野課長」「カナちゃん」「海野さん」……
両親や友人、同僚の愛情がたっぷり詰まった画面を、星美は優しい表情で眺めた。
突然、その画面が緊急会見に切り替わった。
街のあらゆる画面に敵国の大統領の姿が映った。繁華街の大型ホログラムビジョンに、病院のホログラムテレビに、人々の携帯に。
地桶共和国大統領、秋宗六郎。演歌歌手のような男である。真ん中から分けた若々しいヘアスタイル。太い眉毛にセクシーな流し目。肩幅の広い体。大統領の背後には、上半分が緑、下半分が金の国旗が掲げられていた。
大統領は開戦を宣言した。
「国民の皆さん、先ほど我が共和国とその同盟軍は北銀河宙域の安定のため……」
公園の防衛局長は立ち去ろうとした。徳さんは呼び止めた。
「後は任せてください。一切合切次官派に擦り付けて、片っ端から追い出してやります」
「そりゃありがたいが、処理ったって反乱罪だぞ?」
「いや徳さんね。今後この国では、良い物も悪い物も全て俺の手から生まれるようになるんですよ」
国中が大統領の声明に釘付けになっていた頃、再開発地区を走る建設中の高架道路の上では、アメリカンスーツの男が、男性の首にロープを巻いていた。
もっさり七三の、香港のカンフー俳優のような男である。体は極限まで鍛えられており、ネコ科の肉食獣を思わせるしなやかさを備えていた。
おたふく顔の男性は薬で眠らされていた。何をされてもいびきをかいていた。
カンフーは男の首に巻いたロープの一方を、無人の黒ワゴンのハンドルに巻いた。それから道路の端に靴と遺書を置いた。
車は男を引きずって高架橋から飛び出していった。下から爆音がして、黒煙が上がってきた。
車の陰に園児服の男の子が隠れていた。子供は涙目で尋ねた。
「僕も殺すの?」
カンフーは同じ目線に立って、にこやかに答えた。
「そうだよ。賢王党に逆らう人間が二度と出ないように、この世で最もむごたらしい方法で死ぬんだよ」




