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チベットは弁護士同伴で任意聴取を受けた。べっこう眼鏡の刑事は、中村課長とパッチジャケットの男の写真を見せた。
防犯カメラの映像をプリントアウトした一枚である。古民家カフェのカウンター席で、中村課長とパッチジャケットの男がコーヒーを飲んでいた。店の窓からほうれん草畑が見えた。
「右は中村敬。左は健康通販食品会社、ホリウチハーベスト社長の堀内譲。
堀内の住民票は十年前に仙予連邦中西部で作成されています。それ以前の記録は確認出来ません。仙予経由で地桶と金輪を頻繁に行き来している怪人物が、昨日第一師団基地近くの喫茶店で中村と会っていた」
「地桶のプロに違いありません」
「コーヒー代は堀内が払っています。公務員がスパイの金で飲み食いすれば、それだけで特定機密保護法違反ですよ。
堀内は一昨日入国し、今朝出国しました。滞在五日の予定でしたが、昨日帰国便を予約している。しかも二日連続の重複予約です。中村からもらった情報を急いで確実に持ち帰りたかった。
三好さんは中村と親しかったそうですね」
「昨日の夜十九時、中村課長からメールが来ました。小久保と警察が君を犯人に仕立てようとしている。向こうのプロ一人を騙して釣ったから、追っていけば工作拠点を襲撃出来る。そこに君の無実の証拠があると」
「そのメールを見せてもらえますか?」
チベットは弁護士を見た。水玉ネクタイの弁護士は首を横に振った。
「会社の機密が入っているので、残念ながら見せる訳にはいきません。またこういう事態になったからには物理的に処分させてもらいます。警察はとても怖いから」
「道重司令は我々を全面的に信頼して、全て誠実に話してくれていますよ」
「私には私のやり方があります」
「証拠とは何だと思いますか?」
「八幡大臣は海外の工作員が操る市民団体とも繋がりがありました。照石も海外から金をもらって騒いでいたのではないかと、当時中枢にいた私達は感じていました。その裏切りの証拠です」
「現役閣僚が外国の金で政府を攻撃したと仰る?」
「急進派の大臣は、中道左派の前総理や財相を陰で右翼と罵っていました。内ゲバですよ。大臣は国会をあさま山荘にしてしまった」
別の刑事が入ってきた。二人は隅で密談した。チベットは二人に声をかけた。
「今出れば追いつけますよ」




