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もう俺以外愛さない  作者: カイザーソゼ
8話 サッチウィーブ
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8-5

 若竹隊には四日間のローテーション休みが与えられた。

 パイロットは職場対抗サッカー大会をしたり、オペレーター室の大掃除で出てきたレトロゲームを皆でやったり、待機所のVR機能を使って関ヶ原の合戦体験バスツアーをしたり、基地広報の番組を配信したりした。

 敵は交代要員がいないので、人体の限界に当たる四日間連続戦闘を強いられた。

 作戦中、敵パイロットは疲れから失神して垂直落下していったが、コンピューターが自動で水平飛行に戻してやった。地上部隊は砲弾が降り注ぐ塹壕でそのまま寝てしまった。整備が行き届いた味方の機体はいつも綺麗だったが、敵の機体は汚れていた。


 ローテーション四日目、地元の小学校が社会科見学にやってきた。透明感と村田がガイドを担当した。

 引率の女性教師が「皆さん、パイロットの方にご挨拶しましょう」と生徒に促した。子供達は「こんにちわ」と声を揃えた。


「はい、こんにちは!私は清海と言います!」

「村田雄翔と言います!今日は皆さんにパイロットのお仕事を見てもらいます!」

「二つ約束してください!一つ、危ないので勝手に触らない!二つ、人に会ったら元気に挨拶する!先に挨拶された方が負けですよ!皆で挨拶エースになりましょう!」


 子供達は基地を見て回った。売店、食堂、滑走路、格納庫……彼らは憧れのパイロットの世界に目を輝かせた。


 万一に備えて、了介と帯刀と元ヤンは待機所に残っていた。

 了介はポンジュースを飲みながら、カウンター席で「ゆいにゃ」にメールを打っていた。帯刀と元ヤンはオンラインゲームをプレイしていた。

 元ヤンは帯刀に文句を言った。


「何であの二人なんですか?」

「あいつら子供好感度高いだろ」

「私は好きですよ、子供」

「向こうがそうとは限んねーだろ。

 防大のカリキュラムにはレクリエーション授業もあるんだわ。何のためにしっぽ取り鬼ごっこさせんだよって思ったけど、あれは地元サービスの訓練だったんだな」

「普段はどんな授業をするんです?」

「足羽山脈に高度に機械化された敵一個師団が降下しました。劣悪な我が後備一個連隊で最も長く足止め出来る方策と、そのために三日間で出来る最良の準備を今から一分以内に口頭で述べてください」

「正解は?」

「試験教官の目を睨んで、正反対の事を怒鳴り散らす。そういう大学で天才って呼ばれてたのが、今の防衛局長であり、辞めた作戦課長。クソだろ?」


 外から子供達のはしゃぐ声が聞こえてきた。帯刀は二人を追い払った。


「ほれ。そこの好物が冷凍エビピラフの男と圧の強い女、さっさと出てけ」


 顔出しNGの了介と、子供を怖がらせてしまいそうな元ヤンは、窓から外の滑走路に出た。

 二人は海が見える場所に立った。後ろの建物から、子供達の楽しそうな声が聞こえてきた。


「すげー!本物の少佐だ!テレビと一緒!」

「サインくれよ!サイン!」

「見学が終わったらね。今日は皆に本物のコックピットに乗ってもらいます!」

「わああああ!」

「本当!?本当に乗っていいの!?」

「私少佐と同じのに乗りたい!」


 了介は柔らかい表情になった。元ヤンは意外という顔をした。

 元ヤンは海を眺めながら言った。


「少佐はああ言ってたけど、私は防大に進みたい。偉くなって軍をまともにしたい」

「それなら有名パイロットになって出馬した方がいいよ。しずちゃん(元ヤン)は自分のストロングポイントは何だと思う?」

「遠距離。てか、ちゃん付け止めてよ」

「士官学校の時に、新興宗教の信者の先輩がいて。俺はスピードが自分の一番の武器だと思っていたけど、その人に反応の速さで勝てなかった。反応というか、反射かな。何も考えていない、空っぽの人間だけが持てる速さ。

 それでずっと考えていった時、俺も別に速い訳じゃなくて、軽いだけだって気付いたんだ。何も背負っていない人間だけが持てる速さ。それは、本当の速さじゃないよね。背負った上で考えなきゃいけない。判断速度で反射速度に勝つ」

「私達の事、重りだって思ってる?」


 了介は首を振った。


「仲間だし、力の源だと思っているよ。背負った重さが判断の速さを作る。だからもう少し、しずちゃんさん達と仲良くなりたい。子供、好きなんだ?」

「まあね。将来はドクターストップかかるまで産みたい。後、嘘と隠し事は大っ嫌い」


 了介は車好きの元ヤンに、病院と駐車場の画像を見せた。


「このワゴン車の車種分かる?」

「アワセのハイキャリィ。田舎では人気の車。この島でもよく走っている。そっちのセダンは……ちょっと見せて」


 元ヤンは携帯を覗き込んだ。


「これはナミカワの先代エポックで、公安の覆面パトカー。視認性を高めるためにモニターを二枚付けてる。車体もピカピカ。ここまで磨くのは警察とヤクザだけ」

「こないだパトカーに乗ったけど、こんな古い車じゃなかったよ」

「警視庁は去年予算が降りて、覆面パトカーをランサーの現行モデルに変えたの。その人、刑事部でしょ?公安はまだ古いエポックに乗ってる」

「この人(ごま塩頭)は見た目通り、犯罪の出来る体じゃない」

「公安が見張っていたのは協会の方でしょうね」

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