8-3
若竹島のパイロットはコックピットから降りた。
フロアには楽観的なムードが漂っていた。帯刀は透明感と話し合った。
「おかしくね?」
「投げ槍ではありますよね。いずれにせよ、気は抜けないです」
「お前が冷静で助かるよ」
元ヤンは二人に話しかけた。
「どうしたんですか?ここだけ空気違いますよ」
「勝って兜の緒を閉めよだなって、今二人で話していて。
向こうが勝つには戦力をかき集めて、決戦で一発逆転勝利を狙うしかない。なのに正面からマッチアップを挑んで戦力を浪費してるでしょ?ディレイ(時間稼ぎ)もしてこない」
了介は三人に話しかけた。
「その事でちょっと話があるんだけど、いいですか?」
孔雀ナルト星のリングの士官食堂で、艦隊司令はホログラムの戦況図を睨んでいた。今日の昼食は砂糖をまぶした揚げパンの耳。給仕も軍楽隊もいなかった。
砂漠星の敵司令部は、大陸の東端の半島の丘陵部にあった。東西二十キロの丘全体が要塞に改造されていた。
味方は北、西、南の三方から半島の司令部を目指していた。一週間以内に落とせるはずだった。
司令の携帯にメッセージが入った。「防衛省 防衛研究所所長 中屋敷初範」からだった。
―「すまないな 作戦中」
―「今はプライベートだ」
―「木下装備長官が出頭するらしいぞ。腹心の裏切りだ。小久保派には大打撃だろう」
―「基地に引き籠ってるらしいな?中村の報復を恐れて」
―「あれから家にも帰ってないようだ。車も吉倉門(官庁街)に止めっ放し。俺達は役人ったって、根っこは戦士だからな。こういう時に命を惜しむ奴は尊敬されないよ」
局長は首都北部の第一師団基地の司令部に引き籠っていた。
局長はバゴーンのスープを立って飲んでいた。不潔な恰好だった。髪はぼさぼさ、ひげは伸び放題、シャツはバゴーンのソースはねで汚れていた。しかし目付きは鋭く、頭も冴えていた。決して戦意を失ってはいなかった。
基地の外にはほうれん草畑が広がっていた。
畑のビニールハウスにもたれかかって、中村課長が手帳にメモを付けていた。いつも通りダブルのスーツを着て、キャプテンアメリカの盾のカフスを付けて、髪はオールバックに揃えて、ひげは青々と剃っていた。何一つ諦めていなかった。




