7-6
夜、帯刀は宿舎の了介の部屋で眠たい目を擦っていた。了介が来るまで何とか起きているつもりだったが、一日三試合した体は疲労のピークに達していた。気を抜くとそのまま寝てしてしまいそうだった。
星美は自分の部屋で、ゴダイの社長と携帯で連絡を取り合っていた。宙に浮かぶホログラムモニターに、兵器工場の様子が映し出されていた。
銀イボ乾き星は緑豊かな草原惑星に生まれ変わっていた。菩提樹は高尾山ほど大きな木に育っていた。
菩提樹の幹の途中に、紫色の光のドーナツ板が浮かんでいた。
上から実が落ちてきた。普通の実は素通りしたが、白く光る実はドーナツ板に留まった。白い実はコロコロ転がって縁に溜り、待機していた運搬シャトルに回収された。
運搬シャトルは兵器工場へ向かった。
コーヒー工場のようだった。豆を焙煎する回転釜があり、粉を蓄えるガラスのサイロがあった。空のプールもあった。
運搬シャトルは工場上空で停止して、紫色の光のウォータースライダーを下ろした。白い実はウォータースライダーを滑って、製造棟の焙煎機に送り込まれた。
白い実は回転釜で炒られて茶色いコーヒー豆になった。コーヒー豆は粉砕機に送られて粉々にされた。
コーヒー粉は一旦、砂時計状のガラスのサイロに蓄えられた。そこからチューブ経由で空のプール棟に送られた。
ロボットホースがプールの上を飛び回ってコーヒー粉を撒いた。いっぱいになるとルンバ型の黒ユニットが飛んできて、プールに白い実を植えていった。
プールの排水溝部分から、大仏生首のお経が流された。プールから白い粒子がほのかに立ち昇った。コーヒー粉は植物から金属に変化していった。
実を植えてから二時間後、ルンバはプールに重力ビームを照射して、まっさらな新型機「フリダヤ」を引き上げた。
デルタ翼の白い小型単発機である。変形能力はなかった。
新型機は工場脇の滑走路に並べられた。滑走路には同じ機体が既に五十機以上並んでいた。
星美の自室は大人ガーリーのふんわりした部屋だった。彼女はソファに座って携帯を弄っていた。
―「繋がらなくて心配しました。じゃあ皆無事なんですか?」
―「こっちはね。何だか色んな人に心配かけちゃって申し訳ないな。すっごい久しぶりの友達からも連絡が来たり。私、女子サッカーの選手だったんだよ。ドラッグシザースでヌルヌル抜いてくドリブラー」
―「えー本当?社長幾つなんですか?」
―「お姉さんって呼ばれたら一週間ぐらい幸せでいられる年。さっき、その時の仲間からも来たの。懐かしかったり、嬉しかったり。こういう時って色々分かっちゃうな」
ドアをノックして、透明感と元ヤンがやってきた。元ヤンはオフショルワンピースにバタフライブーツ。二人は地元土産を持っていた。
星美は「お帰りなさい」と二人に挨拶した。透明感は彼女の右隣に座った。
「急いで帰ってきちゃった。あの二人大丈夫だって?」
「うん。村田さんから連絡きて、さっき島に着いたって」
元ヤンは星美の左隣に座った。
「休みなのにずっと部屋いたの?」
「あー、そう言えばご飯食べてない」
「じゃあ皆で食べに行く?実は私達もまだなんだ」
「の前に。今、元の勤め先の社長と新型を作っていて」
星美は元ヤンにタブレットのマニュアルを見せて、「乗ります?」と尋ねた。「当然!」と元ヤン。
元ヤンは二人の対面に座り直して、ホログラムコックピットでCGの新型機を動かした。
新型機は仮想空間の空を飛んだ。スラスター口は白く光っていた。
低速ではよく動いた。左右に振れるスラローム。上下に波打つダイブ&ズーム。ゆっくり小さく右ターン、今度は素早く大きく左ターン。錐揉み回転で前進するエルロンロール。
スピードを出すと動きは重くなった。低速域では吸い付くようなコーナリングを見せていたが、高速域では大きく膨らんでカーブした。
早期勝利のためには、大量の部隊で広い範囲を力攻めしないといけない。必要なのは初心者向けの安い低速機だった。ただこれは戦場というF1サーキットに電動自転車で乗り込んでいくようなもので、ベテランは毛嫌いするだろう。
実戦二回の元ヤンも困った顔になった。
透明感は地元の話をした。
「『蛇口捻るとポンジュース出てくるんでしょ?』。これ何回言われたと思う?」
「ハハハ。サーバーからは出るよね?」
「地面掘ると吹き出すから、油田みたいに」
元ヤンは率直に感想を述べた。
「駄目これ、ショボい」
「新人用だし……」と星美。
「いいとこ一つもない」
「あるって。ミサイル打って、ミサイル。超火力」
新型機は新型ミサイルを発射した。新型ミサイルは尻尾を白く光らせて飛んでいき、直径五キロの飛天光背型の白い爆炎を炸裂させた。




