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了介はスーツに着替えて上京した。
首都南部のアールデコの高層ビル街に、ニューヨークタイムズビルディング似の北辰日報本社ビルがあった。ビル内の会議室で、了介は前歯がエビフライの尻尾の形の男性記者と、モッズスーツの若手記者と面会した。
エビフライは協力を約束した。
「総理とGIFを守り抜いた事は誇るべき偉大な勝利です。国民の一人として心から感謝しています。あなたの力にならせてください。
こちらは杉野の部下の並木。心中事件を調べています」
モッズスーツは杉野の事を話した。
「私は元スポーツ部で、八幡選手(自殺した防衛相の息子のサッカー選手。村田と親しい)と面識があります。それを知った杉野は八幡大臣と繋いで欲しいと頼んできました。もちろん最初は断りました」
「北辰日報には、杉野記者の他にも大臣の用心棒になっていた記者がいますよね?橋口智郎記者。何度も防衛省関連のスクープを取っています」
モッズスーツはエビフライの顔色を伺った。エビフライは「全て正直に答えて」と促した。
「……はい。多分、橋口への対抗意識だと。私の勝手な想像ですが」
「事件前、杉野記者は重大なトラブルを抱えていました。警察は夫婦問題から犯行に走ったとしていますが」
「社会部に戻りたい気持ちと、家族のために会社にしがみ付く気持ちと、独立してフリーを目指す気持ちがぶつかって奥さんとギクシャクしていた事は事実です。カウンセリングにも通っていましたし、飲み会で変な事も口走っていました。
でもそれは一面的な事です。橋口は警察の望み通りの供述をしましたが、真実ではありません」
「杉野記者は一人で何かを取材していました。どんな取材か分かりますか?」
「いいえ。ただ……」
モッズスーツは銀行の貸金庫の利用記録と、その防犯カメラ画像を見せた。
「事件直前の三月二十六日、十六時十分から十五分の間、杉野は鷹取銀行乾橋支店の貸金庫を利用しています。以前から取材資料の保管に使っていた秘密の場所です。
遺品にこの取材資料がありませんでした。犯人が持っていったんです。警察の方にも言ったんですけど、ああそんな事もあったんですねって感じで……」
「事件直前、杉野記者は身の危険を感じて警察に相談しています。危険な資料を家に置いて犯人に奪われたとは考えづらい。下ろした後誰かに預けたり、隠したりしたのでは?」
「預けた可能性はありません。杉野は一人でした」
モッズスーツは頭を下げた。
「先輩を殺した犯人を見つけてください。あんなに奥さんと航君の事大好きだったのに、犯人扱いされて、ひどすぎます」
エビフライも頭を下げた。
「私からもお願いします。あの馬鹿の無念を晴らしてやってください。
警視庁の刑事を知っています。きっと力を貸してくれるでしょう」
首都南部の学生街を、クーペタイプの覆面パトカーが走っていた。後部座席に了介が、運転席にこにゅうどう君ネクタイの刑事が座っていた。
パトカーは新車だった。ルームミラーモニターはホログラム式だった。
こにゅうどう君は了介を褒めた。
「正直見直したよ。十ゼロから五分五分まで押し返すなんて」
「何もしなくとも、局長はいずれ高転びに転んでいました」
「上層部は両方に保険をかけてる。だから俺達刑事部も自由に動けるが、それは局長派の公安部も同じだぞ。そこら中にスパイがいるから、バレ前提で動いてくれ」
「見返りは何を用意したらいいですか?」
「そういうのはいい。友達の敵討ちだからな」
パトカーは防衛相が自殺当日訪れた星南大学病院に入っていった。




