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若竹島の基地は休日だった。中はひっそりしていた。
パイロット待機所で、了介達三人とホログラム透明感は、宙に浮かぶホログラムモニターで録画映像を見ていた。
火星のように乾いた星があった。重力は軽く、砂は舞い上がって宙を漂った。
乾き星のクレーターに銀イボが埋められていた。その上空に、成長を観察するカステラ型の実験ユニット船が浮かんでいた。
銀イボから菌糸が芽吹いてきた。菌糸は互いに寄り集まって双葉に変化した。
双葉は急成長して菩提樹となり、花を咲かせた。花から銀色の光の粒子が放出された。
粒子は重力を変えた。
花が散って、実が一Gの重さで落ちた。実は芽吹いて様々な植物に育った。杉、ヒノキ、ツツジ、アジサイ……
粒子は赤い空を青く変えた。
空が曇って大雨が降った。クレーターは湖に、裂け目は川になった。実は風や水に流されて星のあちこちに散らばり、そこで植物を咲かせた。
空が晴れた。
木は白く光る実を落とした。ケンタウロス型作業ロボは白い実を回収して、地上に降りた実験ユニット船に運び込んだ。
船内に研究室があった。シーリングライト型の重力ビーム照射装置と、黒ボール型工作ユニットだけのシンプルな部屋である。
天井から円柱状の重力ビームが照射された。実は宙に浮かんだ。
複数の黒ボールが実の回りを飛び回った。黒ボールは実に金属粉を吹き付け、レーザーでそれを焼き固めて、様々なパーツを作った。
実を内蔵したスピーカー型の実験ユニットが完成した。
スピーカーは大仏生首のお経を実に聞かせた。
スピーカーから白い粒子が無音で勢いよく放出された。ロケットエンジンのようだった。
スピーカーの全身から細いツルが大量に生えてきた。壁が緑に覆われていった。
スピーカーを突き破って、ニシキヘビほど太いツルが放射状に生えてきた。ヘビツルは壁を破壊して伸び続けた。
粒子の放出が止まった。部屋の中は緑の日章旗になっていた。
星美はレースチュニックにショートパンツで、いつも通りのヒラヒラした格好だった。了介はロングTシャツにクラッシュデニムで、普段と違う崩した恰好だった。
帯刀は白のサッカーユニフォームを着ていた。この後は地元チームと試合だった。
ホログラム透明感はサマーニットとチュールスカートを合わせた格好で、今は地元に帰っていた。
敵はこの銀イボを御神体として崇めていた。
帯刀が言った。
「人知を越えた力を目にした原住民は、以降それを神のように崇める。パプアニューギニアのある部族は懐中電灯のために神殿を建てた。懐中電灯が仏像に変わっただけだな」
ホログラム透明感は星美に確かめた。
「向こうにはオレンジと金があった。こっちにもレアの白と、SSレアのもう一種類があるはずだよね?」
「実はもう銀を一個確保してる。この銀でハイエンドの三機を作って、向こうの金に当てる。白はローエンドの量産機に」
了介は今後の方針を説明した。
「警察の心中説は犯行現場に第三者がいた事を立証出来れば崩せる。これには警視庁、外務省、法務省の連携が必要。三者の連携には七色要塞の攻略が必要。ここが落ちれば早期勝利の流れが決定的になって、局長派は崩壊する。
犯人は局長の要請を受けて犯行に及んだ。局長も攻略後に逮捕する。二人が繋がっていた証拠を押さえて犯人に逮捕状を請求する。
犯人に逃亡の恐れはない。(愛を倒して未来年表のずれを修正したい犯人と)俺達とは必ず戦場で会う。逮捕は戦場で行う」
情報局の中村課長は復讐を宣言して姿を消した。攻略前に局長が死ねば残党の大反乱が起きる。事件の全容解明も不可能になるだろう。
帯刀がまとめた。
「やる事は変わらないな。戦場で頑張って仲間を増やす」
了介は三人に言った。
「合言葉は『のばら』。頼りにしています」
帯刀は「おう」と答えた。
星美は了介の目を真っ直ぐに見て頷いた。
ホログラム透明感は「任せて。私、期待されるほど力が湧くタイプだから、どんどん頼って」と微笑んだ。
星美は了介に申し出た。
「今なら大勢の人が味方してくれると思うんだ。前に取材で北辰日報の記者さんと知り合ったの。一度あちらと会ってみたらどうですか?」
「うん。そうしよう」
「あーでも、私はこっち見てないとだから、記者さんに紹介状書いておくね」
「俺も今日は地元サービスで三連戦だ。清海も今実家だろ?」
「私は行けるなら行けますけど」
「せっかくの休みなんだし、桃ちゃんは家族とゆっくりしていて。パートナーは別に呼んであるから」
人の気配がした。三人はカウンター裏に隠れた。
村田がやってきた。悪羅悪羅系の格好だった。オラついたサングラスに、テーラードジャケット。白の開襟シャツ+シルバーネックレスに、スキニーデニム。
了介は村田を激励した。
「今日はよろしくお願いします。雄翔君(村田)に捜査の突破口を開けてもらいたい」
「OKっす!若竹のケーヒルが流れを変えてやりますよ!」




