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もう俺以外愛さない  作者: カイザーソゼ
6話 神を見た夜
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6-4

 夜、大統領宮殿の鏡大理石の間で食事会が催された。関係者は神々しいフルコース料理を楽しんだ。会話も弾んだ。


 夜八時、若竹島のパイロット待機所で、パイロットはケーキバイキングのもぐもぐタイムを取った。チョコケーキの上に、イカ兜みきゃんの砂糖飾りと、「頑張ってください!若竹島ホテル従業員一同」のチョコ飾りが乗っていた。

 村田は逮捕されたタイガーウッズのような顔になっていた。

 元ヤンはムースケーキを食べながら、頭の中で何度もイメージトレーニングを重ねた。試験前のような顔だった。

 星美と透明感は納得の表情でチーズタルトを食べた。星美は頷いた。


「そうそうそうそうそう。タルトってこういう事だよ」

「タルト頼んであれ(カステラのあんこ巻)が来た時、震えが止まらなかったよね」

「でもあれはあれでないと寂しい。こっちの人になりつつあるのかな」

「私、ジュースはもう果汁絶対主義だ。百%に非ずんばジュースにあらず」


 二人は楽しそうに笑った。周りはクスクス笑い、元ヤンも仕方ないなという感じで苦笑いした。

 パイロットはほどよい緊張感で作戦を迎える事が出来ていた。

 帯刀はカウンター席でひたすら書類を書いていた。部隊のほぼ全員が武装変更届を出していた。

 元ヤンが声をかけた。


「何か取りましょうか?」

「いらね。胃や膀胱がチャポチャポしてると、打たれた時ダメージが増える。ここが襲われた時、隊長の俺が真っ先に動けなくなったらまずいだろ」

「そこまで考えるのってちょっと」

「お前デューク東郷から何を学んだんだ。臆病なくらいがちょうどいいんだよ」

「ピンチはアピールのチャンスです。自意識過剰に!」


 地桶大統領官邸の周辺に、地桶軍を統括する統合幕僚本部ビルが建っていた。

 鉄筋コンクリートの殺風景な建物である。サイコロ型の四角い形で、所々窓がなかった。

 窓のない統幕議長室で、議長はホログラムカンフーと向き合っていた。議長はカンフーに指示した。


「ペースを早めてくれ。仕掛けのタイミングは任せる」

「澤はどうします?ハンバーガーの肉がネズミだと薄々気付いていたのに、今頃必死になってあなたの責任問題にしようとしている」

「お前はもう運用部の人間じゃないんだ。澤はこちらで対処する。作戦に集中してくれ」

「了解です」

「役人の世界で生きてきた小久保は、国民感情の恐ろしさを知らない。この一手で敵を穴倉から引きずり出す」


 ホログラムカンフーは消え去った。議長は天井を見上げた。

 豊かな金輪と同じペースで削り合えば、先に地桶が滅ぶ。人類の歴史で一番戦死者を出した二国間戦争は、十九世紀に中国の新興宗教が起こした太平天国の乱である。戦争が長期化すれば、このレコードを塗り替えるのは確実だった。議長の一手が引きずり出すのは局長だけではなかった。


 黄金の艦隊が未開領域を進んでいた。

 黄金艦隊の旗艦は金色の前方後円墳型空母。同じく金色の護衛艦隊が空母をガードしていた。


 GIFの大統領宮殿で停電が起こった。窓から見える街並みも暗くなった。

 暗闇の中、関係者は携帯を開いた。携帯画面の光が、慌てふためく室内を照らし出した。画面には「ただ今何らかの通信障害が発生しております。時間を置いて再度接続してください」というメッセージが表示されていた。


 首都コロニー開口部の防御シャッターが閉められた。宇宙空間が見えなくなった。

 コロニーの底が抜けて、宮殿ごと宇宙空間に放り出された。建物の装飾がちぎれ飛んで、中から大きなシャトルが現れた。宮殿自体が脱出シャトルになっていた。


 GIFの西側から、強烈なオレンジ色のビームが飛んできた。

 ビームは西側のコロニー群を貫き、中央の小惑星を蒸発させ、東側のコロニー群を突き抜いてどこかへ飛んでいった。コロニー間の連結ビームが消滅した。


 幽霊船地帯に大きな穴が開いていた。その穴を通って、金色の新型機三機と大量の全翼機部隊、そして黄金艦隊が出てきた。

 新型の一機は法隆寺の邪鬼像のような機体である。衝角付冑の頭部。短甲の体。金色のスラスター光を持ち、背中に金の輪光を背負っていた。

 もう一機は東大寺の毘沙門天のような機体である。鳳翅兜の頭部。明光鎧の体。金色のスラスター光と輪光を持っていた。

 最後の一機は中宮寺の菩薩半跏像のような機体である。宝冠の頭部。南朝様式のすらりとした体。肩に「無」の文字が入っている。金色のスラスター光と輪光を持っていた。

 全翼機部隊は甕棺墓型のミサイルを一斉発射した。ミサイルは尻尾をオレンジ色に光らせながら飛んでいき、直径五キロの水煙土器型の火球を炸裂させた。西側のコロニーは水煙土器に焼かれて全滅した。

 敵は三手に分かれた。邪気隊四十八機は南へ、毘沙門隊十六機は北へ向かった。「無」の菩薩は六十四機を率いて西に留まった。

 菩薩のコックピットにはカンフーが乗っていた。


 味方は大ダメージを受けた。中央の淡路島空母は何とか無事だったが、混乱して艦載機を発進出来ずにいた。

 格納庫の中はグチャグチャになっていた。機体はひっくり返ったり、壁に当たってひしゃげたり、機体同士ぶつかって炎上したりしていた。そんな中、アーマーを増やした若竹島の機体はほぼ無傷だった。


 帯刀は全員の安否を確かめた。部下は元気な声で応答した。


「四番清海、大丈夫です!」

「八番野津、行けます」

「十二番村田、マシマシしといて良かった!」

「よしよしよしよし!行けるな?全員行けるな?」


 星美機は壁に突き刺さってマッスルインフェルノになっていた。


「だってお疲れだったから……」

「無事な機体に回線付け替えろ。俺達は先に出る」


 帯刀の冷たい声が怖かった。

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