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もう俺以外愛さない  作者: カイザーソゼ
6話 神を見た夜
35/83

6-2

 淡路島空母艦隊はGIF近海にワープアウトした。

 分子モデルのような国である。資源採掘用小惑星を中心に、紫色の重力ビームで連結された複数の車輪型コロニーで構成されていた。領海内を輸送船団が行き交っていた。

 コロニーは宇宙港の車軸部分と、居住ブロックの車輪部分、そして両エリアを繋ぐ通路のスポーク部分で構成されていた。車輪は常に微速回転していた。

 車輪の一部はガラス張りの開口部になっていて、中の街並が見えた。

 街は赤レンガのドイツ建築で統一されていた。ドイツを国家モデルとした明治政府の姿を思い浮かべれば、どこか懐かしさを感じる街並みだった。


 GIFは未開領域を調査、開発するコロニー船団国家である。

 GIFの遥か西側には、旧式軍艦のスクラップが大量に漂っていた。軍艦は不思議な壊れ方をしていた。全身を雑巾のように絞られていたり。空気の抜けたゴムボートのようにしぼんでいたり。前半分が泥になって飛び散っていたり。

 幽霊船の壁の向こうには白い宙域が広がっていた。ここが未開領域と呼ばれる未知のエリアである。


 GIFの南側に、青いヤタガラスのホログラム国旗を掲げた首都コロニーがあった。今日、ここで金輪とGIFの同盟調印式が行われる。各国のマスコミが集まっていた。

 ロココ様式の大統領宮殿の前で、金輪聖王国首相の税所実と、GIF大統領の金古誠二郎は笑顔で握手を交わした。マスコミは一斉にシャッターを切った。

 税所総理はツチノコのような男である。小顔でヘビ顔。肩幅は広くて、体型はずんぐりむっくりしている。市民運動出身の理論家で、世間の風向きに敏感だった。

 金古大統領はフクロウのような男である。大きな目に立派な鼻。物静かな雰囲気だった。


 両国首脳の様子は全世界に生中継されていた。若竹島のパイロットも、待機所の席に座ってホログラムモニターで見ていた。

 初陣で青ざめていた彼らも、少しづつ軍の生活に慣れてきていた。表情も少し緩んでいた。

 部屋の中はカスタマイズされていた。私物のコップや漫画が持ち込まれ、壁には部隊の活躍を伝える新聞記事、「若竹島の十四人」が張られていた。了介は顔出しNGなので、公式には十四人の部隊という事になっていた。

 帯刀はモニターの音量を下げた。


「総理はこの後記者会見して飯食って明日の八時に出発する。出発まで六シフト制で警備に当たる。俺達は第三シフト。今夜十九時から四時間、スクランブル態勢に入る。

 どうせ何も起こらないだろ?と心のどこかで思っているとしたら、それは大間違いだ。艦隊全員がそう思っているのなら、俺達だけは正気を保とう。最後まで気を抜くなよ」


 場の空気が引き締まった。 元ヤン風の野津静が挙手した。


「高倉君がいません」

「あれは別任務だ。エースの穴は装備でカバーする。お前達も何か付けたいなら言ってくれ。警備の性格上、レーダーに映った方がいい」


 帯刀は前列の隊長三人に武装変更届を四枚づつ渡した。複数の責任者の認め印を押さないと変更出来ない仕組みになっていた。


「下の空欄は開けとけ。俺が時間をかけて長々と変更理由を記載するから。それから整備班長と弾薬庫班長と空母掌水雷長と空母飛行長と空母艦長と艦隊作戦参謀のサインをもらってくるけど、俺はお前達が大好きだから何の苦労も感じないぞ」


 調子乗りの村田は後ろを向いて言った。


「おっしゃー!全部乗せしようぜ!全部乗せ!」


 周りが笑った。帯刀は全員に指示した。


「じゃ、十八時半まで自由行動。星美と清海は別任務。村田は夜まで俺と訓練だ」

「パワハラ残業!」

「お前はすぐ独りよがりなプレーに走る。直るまで目の届く所で戦ってもらうぞ」


 元ヤンは「私も訓練お願いします」と志願した。帯刀は彼女の面子を潰さないように、部下の前であれこれ言うのは避けていたが、彼女の方は気にしていなかった。


「……そうな。お前にももう一段レベル上げてもらわないと困るな。

 ああ、夕方に若竹島ホテルさんのご厚意でケーキの差し入れが届く。残すなよ」


 パイロットは拍手した。元ヤンが言った。


「彼、ついてないですね」

「あいつはポンジュースさえ飲ませとけばご機嫌なんだよ」


 防衛省の一角に、地上四階地下二階の大きな資料図書館があった。ポンジュースさえ飲ませておけばご機嫌な男は、木目調の一階小ホールで入館申請書を書いていた。

 名前は「高倉了介」。隠れる気はゼロだった。素顔にスーツ姿の了介は最後に捺印して、職員に申請書を渡して中に入った。

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