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もう俺以外愛さない  作者: カイザーソゼ
6話 神を見た夜
34/83

6-1

 ビート板型の青い救難シャトルが月から飛び立った。

 シャトルの貨物室には銀イボ付きのコックピットが置かれていた。

 了介は操縦室から課長に報告を入れた。


「気付いたらそこにいた?間違いないな?」

「はい」

「雪山と馬宝月を繋ぐ抜け穴があったんだな。醍醐への武器供給ルートもそこだ。だがもう送り込まれる事はないだろう。念を入れてこちらの寺も破壊しろ」

「もうやりました」


 月の寺は無傷だった。やろうと思えばクレーターの蓋を崩壊させて潰す事も出来たが、了介はある可能性を考えて残した。


「課長は今どこに?」

「防衛省の前だ」


 一足早く戻った課長は、テングザル似の弁護士に変装して防衛省を見上げていた。


「雪山の映像を公開する。生存者のインタビュー付きでな。

 今回は上手く行ったが、小久保は失敗するまで理不尽な任務を与え続けるだろう。次は大統領暗殺じゃないか?

 お前は姿を隠せ。俺も消える。小久保には手を出すな。あいつは俺のこの手で殺す」


 敵国首都の中心部に、ネオバロック様式の大統領官邸が建っていた。赤坂迎賓館に似た華麗な建物である。

 大理石造りの理髪室で、大統領は髪を切ってもらっていた。金箔縁の鏡にはいつもと変わらない刈り上げ頭が映っていた。しかし本人なりの拘りがあって、店主に細かい注文を付けていた。


「左、気持ち〇、二ミリぐらい切ってくれる?」


 ドアをノックして、イケメンゴリラの矢田掘統幕議長が入ってきた。議長の眉の間が繋がっているのを見て、大統領は呆れた。


「その顔じゃ防衛委員会に出せないね。政治的自殺だよ」

「すいません。最近忙しかったもので、美容院にも行けず」

「私の大統領としての最初の仕事は、官邸にこの理髪室を増築する事だった。大好きなチーズケーキも止めたよ。こんなに気を使ってるのはOLと私ぐらいだ。さ、かけたまえ」


 大統領は隣の椅子を勧めた。「失礼します」と議長は席に着いた。

 大統領は言った。


「一夜にしてヒール転落だ。GIFが金輪と同盟を結んだ。各国も金輪を支援する動きを見せている。

 金色蝶兵団、統幕の方で上手く統制出来ているのか?無勝荘厳のあれは、私にも秘密の、何かの作戦なんだろう?」

「統幕のガバナンスが強固であるからこそ、被害は無勝荘厳だけで済んだのです。和泉が大統領府直轄に回してくれと運動しているようですが、絶対に聞かないでください」


 店主は議長の眉の間に剃刀を当てた。一瞬、彼の声が緊張で裏返った。


「今の統幕が気に入らないのであれば、いつでも解任してくださって構いません。後任の澤首都方面軍司令官は私の百倍優秀です」

「そんな事はしない。作戦の神様には全幅の信頼を置いている。

 開戦奇襲に住民虐殺。負ければ私は絞首刑だ。君も一緒に死んでくれな?」


 無勝荘厳の映像を見た諸国民の怒りは激しかった。小早川秀秋気分で様子を見ていた国も、国内から突き上げを食らう形で協力せざるを得なくなった。

 地桶側は金輪のでっち上げだとし、無勝荘厳の綺麗な映像を公表したが、信じるのは地桶国民だけだった。

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