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もう俺以外愛さない  作者: カイザーソゼ
1話 群蠅の王
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1-3

 大河南岸の再開発地区の川沿いに、立体駐車場が建っていた。

 大河は瀬戸内海ほど広く、大型船も自由に行き来出来た。川の南北は瀬戸内海風の橋と地下トンネルで繋がっていた。立体駐車場の前には、北岸に続く海底地下トンネルの入り口が開いていた。

 立体駐車場の二階に輸送トレーラーが止まった。運転席から、ダブルのスーツ姿の中村課長が降りてきた。

 オールバックの神経質な男である。眉間にはいつも皺が寄っていて、ひげは青々としていた。キャプテンアメリカの盾のカフスボタンを付けていた。

 課長は黒い携帯で徳さんに電話した。


「今篠山口に着きました。そっちはどうですか」

「まだだなー。終わったら本庁舎で落ち合おう」

「了解です」

「しかしいいのかい?勝手に軍動かしゃ、反乱罪で懲役五百年だぞ」

「法律なんて守りたい奴が守ればいいじゃないですか。俺は守りませんが」


 大河南岸の中心部に、アールデコ様式の高層ビル街があった。ニューヨークの最もまばゆい部分をそのまま引き抜いてきたような、意気軒高な街並みだった。徳さんはこの街の片隅に黒のステーションワゴンを止めて、人を待っていた。

 パイロットの高倉了介が乗り込んできた。

 ブリティッシュスーツを着た、2ブロックの上品な青年である。端整で隙のない顔立ち。古風なお坊ちゃんといった見た目で、冒しがたい高潔な雰囲気をまとっていた。

 車は自動運転で走り出した。徳さんは了介に指示した。


「指示があるまで桃が浜公園で待機しろ。電話は俺から一度だけかける。合言葉は『ペヤングのチョイ足しはインスタントコーヒーが神』。それ以外は絶対出るな。特に防衛局長と名乗る奴のは駄目だ。それとお前、もっとだらしなくしろ。軍人丸出しじゃねえか」


 了介はスケキヨのような白いゴムマスクを被った。ゴムマスクはボコボコに隆起して、デコの張り出したコブダイ顔に変化した。徳さんは「男前になったじゃねえかよ」とからかった。


 高層ビル街の一角に、国内最大のロボットメーカー、「ゴダイ」の本社ビルがあった。国内で働くロボの半分には、丸に伍のロゴマークが入っていた。

 本社ビル屋上のシャトルポートに、エンジニアの山本星美と、社長の五代茜がやってきた。

 星美は物腰の柔らかい女性である。優しい顔立ちで、威圧的な所がなかった。ヘアスタイルはミディアムレイヤーボブ。服装はウィングカラージャケットのスカートスーツ。見た目は就活を始めた大学三年生だった。

 社長は男顔の妙齢の女性である。顔立ちは精悍だが、ヘアスタイルは女性的で、センターパートの黒髪をエアリーウェーブでゆったり巻いていた。フレアスカートのスーツの上からハーフトレンチコートを羽織っていた。

 屋上には矢じり型の個人シャトルが一隻止まっていた。星美はシャトルの前で社長に振り返った。初陣とは思えないほど穏やかで、それでいて凛とした表情だった。


「じゃあ、ここで。頑張ってきます」

「どんな時でもヤケになって自分を捨てたら駄目だよ」

「はい」

「人より操縦が上手いというだけで、大切なあなたを惜しげもなく軍に捧げなきゃいけない。私は防衛企業の社長として、世の女性に同じ思いを味合わせている。これは罰ね。あなただけを特別扱い出来ないわ」

「ううん、社長は力を与えてくれた。今はただ、この力を皆のために使いたいです」


 個人シャトルが屋上から垂直離陸した。スラスター口は紫色に光っていた。炎も音も出なかった。

 社長が寂しげに手を振る中、個人シャトルは北へ飛び去っていった。


 ほうれん草畑が広がる首都北部の郊外に、首都警備を担当する第一師団基地があった。基地は不気味な静けさを保っていた。人や車の往来は少なく、滑走路は空だった。

 敷地の一角に、軍の高級幹部を養成する防衛大学の校舎が建っていた。門の「金輪聖王国軍 防衛大学校」の額がなければ田舎の役所にしか見えない、平凡な二階建てコンクリ校舎である。一学年五十人の四年制で、敷地はその辺の中学校より狭かった。

 校舎一階の教官室で、生徒の飫肥帯刀が説教を受けていた。

 目力の強い、聡明な青年である。知恵がほとばしるような眼で相手を正面から睨み付け、圧迫する癖があった。ヘアスタイルはアップバングショートでややチャラかった。

 教員は余裕だった。コーヒーカップ片手に講義の準備をしたり、アイマスクを付けてぼんやりしたり。必死なのは帯刀だけだった。

 受け口の教官は帯刀を諭した。


「そう心配するな。政府はちゃんと考えている」

「今のままでは最悪の事態が起きます」

「お前は参謀なんだ。前線に出る軍師がどこにいる?ここで慌てるような奴を俺達は育てちゃいないぞ」


 山奥に送電鉄塔が走っていた。一基の高さは七十メートル。テロに備えて防犯カメラが設置されていた。

 無人のワゴン車が自動運転でやってきた。窓が開いて、車内からゴキブリの群れが飛び出した。

 集団で一個体を成す群体兵器である。見た目は本物そっくりだが、中身はロボットで、爆弾を積んでいた。

 ロボットゴキブリの群れは鉄塔の台座に体当たりした。ゴキブリは手榴弾程度の爆発を次々起こして台座を吹き飛ばし、鉄塔を倒壊させた。


 地下鉄の側溝に信号ケーブルが埋設されていた。

 火薬入りのロボットネズミ一匹がやってきて、ケーブルの上で炎上した。構内に黒煙が立ち込めた。


「川添運輸」の無人トラックが都内各所を走っていた。

 幾つかのトラックの荷台には、「やまだ荘 磯川貴一」が送った段ボール箱があった。中にはGPS妨害装置が入っていた。

 トラックは妨害電波を出しながら都内を走り回った。


 大学の教官室は停電した。教官達は「お?」「消えましたねー」と状況を楽しんだ。

 帯刀は急いで携帯をチェックした。画面には「ただ今何らかの通信障害が発生しております。時間を置いて再度接続してください」というメッセージが表示されていた。

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