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もう俺以外愛さない  作者: カイザーソゼ
5話 捨身飼虎の門
29/83

5-2

 三角シャトルは大気圏を突破した。

 三角シャトルのハッチが開いて、攻撃シャトルが空中発進した。攻撃シャトルは霧に包まれたゴーストタウン上空まで降下した。

 無勝荘厳は独立と併合を繰り返してきた。血みどろの歴史の中で、首都の統治者も何度も変わった。街には各国の様々な建築意匠が混在していた。それらは全く調和する事なく、互いをねじ伏せようと競い合っていた。

 仙予の支配時代には何とも優雅な分離派様式の建物が作られた。水玉模様のモザイクタイル屋根。ガラスのカマボコ屋根。山口文象の丘上の記念塔。

 気張った建物も随所に見られた。これは地桶時代に作られた物である。ビザンチン建築のタマネギドーム屋根。彫刻装飾をふんだんに施したバロック建築のドーム屋根。尖塔がそそり立つゴシックリバイバル建築のトゲトゲ屋根。

 華美で装飾的で、仙予の建物とはドレスとGパンほどの差があるが、しかし決定的に衝突するものではなかった。

 無勝荘厳の正当な統治者を名乗る妙宗天軍。彼らの作ったビルの屋根からは、愛知県庁のように天守閣が生えていた。地桶時代のエレガントな教会は取り壊されて、跡地には自由の女神と同じ高さの観音像が作られた。公園には首都防衛用のフラックタワー(鉄杭状の高射砲塔兼避難シェルター)が建てられた。

 街の至る所に、鼻の右にイボがある赤袈裟の僧侶の像が立っていた。しかし人は誰もいなかった。

 攻撃シャトルは小学校の校庭に着陸した。ハッチが開いて、装甲車が発進した。

 装甲車は体育館に体当たりして中に入った。車から部隊が降りてきた。

 体育館の広さはバスケットコート二面程度。一階入り口は机のバリケードで封鎖されていた。二階ギャラリーの窓は破られていた。至る所に乾いた泥が飛び散っていた。

 体育館の壇上にIDタグが十一枚置かれていた。徳さんは何枚か手に取って確認した。軍事顧問団の物だった。


 課長は部隊と別れて無人の校舎を歩いた。

 廊下の壁に五年生の習字が張り出されていた。


 ―「仏敵仙予」

 ―「赤心報国誓殺地賊」

 ―「大聖人国無勝荘厳」

 ―「一天四海皆帰依天軍」


 校長室の前に、トロフィーを納めたショーケースがあった。子供合唱コンクール優秀賞とか、ちびっこ相撲団体の部優勝といったトロフィーの中に、「地賊に殺された高橋伸二君」という子供のドクロが飾られていた。

 二年生の教室に入ってみた。

 黒板の日付は「みょうしゅうしんれき十七年 十一月二十日」で止まっていた。

 前に時間割が張り出されていた。「国語」「算数」「理科」「社会」に加えて、「妙法史」「軍事教練」の授業があった。黒板の上には鼻イボ赤袈裟の写真と、「元気に学べ 日真大聖人の子供達」という標語が飾られていた。

 教室の後ろに生徒の絵が張り出されていた。

 ビルの屋上から一般市民を狙撃する地桶の戦闘ロボ。

 おばあさんの自爆テロで吹き飛ぶ仙予軍の装甲車。

 銀賞は命乞いする地桶兵を射殺する男の子。

 金賞は、炊飯ジャー改造のIED(即席爆弾)が爆発して地桶の一般市民が倒れる様子を、物陰から笑顔で見ている女の子の絵だった。担任教師の「地桶野郎の愚図さが上手く表現されています」というコメントが添えられていた。

 攻撃シャトルのパイロットから課長に連絡が入った。


「敵がオープンチャンネルで救助を求めています。どうしますか?」

「こちらに回せ」


 パイロットは地桶軍の救援要請を聞かせた。


 ―「金輪軍、聞こえるか!?こちらは地桶軍襲撃隊の磯貝明夫中佐だ!降伏するから助けてくれ!松花港の神取アウトレットパークにいる!いいか、松花の」


「切れ」


 パイロットは通信を切った。


 了介は校庭に残っていた。

 小学校の隣にタマネギドームの教会が建っていた。霧でぼやけてはっきり見えなかったが、タマネギ屋根の先端に、人らしき物体が見えた。

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