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もう俺以外愛さない  作者: カイザーソゼ
4話 排除の論理
27/83

4-6

 夜、首都の宮殿で戦勝祝賀の晩さん会が開かれた。参加者は会場の準備が整うまで、宮殿内の舞踏会場で待った。

 アンドロメダ星雲のような部屋である。天井は二重折上格天井。柱はノルウェージャンローズ大理石。中二階にオーケストラボックスを備えていた。

 きらびやかなフロアにVIPが集っていた。紋付き羽織の閣僚。燕尾服の将軍。夜会服の社長。留袖の芸能人……

 防衛局長がいつもの安スーツでやってきた。VIPは彼の周りに集まり、その戦争指導を絶賛した。


 星美と辰砂はオーケストラボックスからフロアを見下ろしていた。

 星美は軍の正装だった。白の軍帽に燕尾服。白鞘のサーベルを差していた。

 辰砂はイブニングドレスだった。白のローブデコルテにオペラグローブ。髪をフルアップにまとめて、首元をプラチナネックレスで飾っていた。


 下のフロアで、鷲鼻の男が局長に挨拶した。二人は抱き合って再会を喜んだ。


 セレブの辰砂は鷲鼻の素性を星美に教えた。


「警視庁副総監の栗山一矢。小久保幕府のナンバー2」

「捜査にストップをかけた人、だよね?」

「うん。小久保の対テロ政策で最も恩恵を被ったのは、防犯カメラ利権をもらった警備局だから。公安出身の栗山は超巨大利権で警察を抑え込んでいる」

「平和にしようって街中にカメラ付けたのにな……」


 フロアの局長は上機嫌で演説した。


「昔ある軍人は、歴史には二つの相が存在すると唱えました。フリードリヒ大王に代表される持久戦の相と、モルトケに代表される短期決戦の相。両相がアウフヘーベンを繰り返す事で戦争は進歩する。やがて戦争術が究極的進歩に達した時、人類最大最後の戦争が始まる。そしてその戦争後、世界は永遠の平和と繁栄を手に入れるとした。

 かの軍人は自由が分からない男でした。戦争術が発達すれば、個人テロの技術もまた発達します。無勝荘厳侵攻のきっかけになった連続爆破テロ事件の犯人は幼稚園の先生でした。技術の進歩は統一ではなく、個人が国家に戦争を挑む分化された世界を産み出したのです。

 人の可能性は戦争術を無限に進歩させていきます。敵は今回恐ろしい兵器を作り出して戦いを挑んできました。しかし我々は必ずやそれを超える兵器を開発して、敵の野望を打ち砕くでしょう!」


 VIPは拍手した。感極まって泣き出す者もいた。あらゆる権力者が彼にひれ伏し、全身で愛想を振りまいた。局長の権威は絶頂に達しつつあった。


 歓楽街の裏通りに、革新系税理士団体の古い事務所があった。表には反戦ポスターが張られていた。

 ぼろい事務所の奥、パーテーションで仕切られたスペースで、徳さんとコブダイマスクの了介が接待伝票を漁っていた。


「何であんな事した?」

「あれしかありませんでした」

「俺なら夜中牧内の家に忍び込んで、枕元に伝票を置く。持ちつ持たれつで穏便に解決出来たぞ。お前は味方を減らして敵を増やしたんだ」

「犯罪者は敵です」

「政治は数だよ。防衛局長ならあの場で土下座して強引に取り込んでいた。頭は最も有利な時に止めとして下げるもんでな。何も予算権限の力だけで上り詰めた訳じゃねえ」


 徳さんは紙コップでほうじ茶を啜った。


「局長から懲役五百年か無勝荘厳の潜入偵察、どっちか選べと言われた。これはジジイの遺言と思って、面倒くさがらずに聞いてくれ。

 前な、防衛省の政務次官がパチンコ屋で突然死した事があったんだわ。地桶の大統領が暗殺された直後だったから大騒ぎになって、俺らにも調査のお鉢が回ってきた。

 そしたらよ、政務次官はその日会議サボって打ってたんだな。で、大当たり出した瞬間、嬉しくて頭の血管プッチン、そのままポックリ。笑えるだろ?

 でも大人は笑わねえ。そこ笑ったら、誰も生きて行けなくなるからな。だけどうちの課長は大笑いするんだ。葬式でお経挙げてる坊主の後ろでよう。

 誰も愛さず、誰にも愛されなかった男の末路だ。お前はああはなるな」


(続く)

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